7月:夕焼けが好きでもいいですか
ぱさり。昼間の暑さの冷め切らない夕焼けの中、女の子が降り立ったのはひっそりとした公園でした。高いビルとビルの隙間に押し込まれたかのようなその公園は、あまり人が訪れないのか、芝生は枯れ、伸びきった雑草が遊具を覆い尽くしていました。
「もうそんな時間か?……じゃあまた、明日」
突然男の人の声が聞こえて、女の子は思わず近くにあった滑り台の影に隠れました。そっと覗いてみると、少年が二人。一人はもう一人に手を振って、公園から去って行きます。残った一人は背後のブランコに腰を下ろしました。
女の子は、その光景を見て小さく首をかしげました。あの『商品』……少し気になります。
「そこにいるのは誰だ?」
少年がこちらを真っ直ぐ見つめて声をかけました。ばれていたようです。女の子は滑り台の影から出てきて、少年の隣のブランコに腰掛けました。
「……どうして子どもがこんな所に一人で? そろそろ帰る時間じゃないか?」
「どこへ?」
「……いや、何でもないよ」
少年は足下の鞄から本を取り出して読み始めました。女の子はその横顔をじっと見つめました。正確には、その商品と横顔を。視線に気がついたのでしょうか、少年は顔を上げて女の子を見つめ返しました。
「なにか?」
女の子は首をかしげて考えていました。いままでいくつか、この青いお月様で『商品』を見てきましたが、この少年のような場合は初めてです。でも今までの商品のことを考えると……?
「……あなたは、さっきの人が好きなの?」
少年はぎくり、と体を硬くしました。
「……見てたのかい?」
「男の人って、女の人を好きになるんだって思ってたけど、違うの?」
ふう、とため息を一つついて、少年は小さくブランコをこぎました。
「それが普通かもしれないけど、ね……。少し、俺の話を聞いてくれるかな」
女の子は頷きました。
あいつと出会ったのは中学生の頃だったよ。……あぁ、今は高校生なんだけどさ。そう、中学生になると突然、みんな異性を意識し始めて、やれ誰が好きだとか、誰が可愛いとか、そういう話がちらほら聞こえるようになったんだけど、俺はどうしてもその中に自然に紛れ込めなくてさ。可愛いと思う女子とかはいたけど、なんていうか、他の奴が言うような『好き』とかそういう感情は全然湧かなかった。なんかさ、人形とか、そういうものに対する『可愛い』とか『好き』との違いが分からなくて。
……あいつに出会ったときに初めて、あぁ、これがまわりの奴らが言ってた『好き』ってことなんだろうな、って思ったんだよ。同じクラスになって一緒に勉強したり喋ったりするうちに、ますますその思いは強くなった。思い切ってそのことをあいつに言ったとき、まさか向こうも同じだったなんて思ってもいなかったよなぁ……。
……まわりにそんな人いなかったし、このことは俺とあいつの二人だけの秘密なんだ。高校はわかれちゃったから、こうやって放課後にこっそり会うくらいしか出来ないんだけど、それでも俺はやっぱり、あいつと一緒の時が一番幸せかな。
「……なぁんて。俺ってやっぱり変か。そうだよなぁ、普通だったら女の人が好きなはずだもんな」
少年はそう言って、乾いた声で笑いました。女の子は改めて少年の『商品』を見つめました。この夕焼けと同じ色。やはりさっき一緒にいたもうひとりの少年のそれと対になっています。それは『商品』のせいだから、と少年に教えてあげようとしましたが、人々には『商品』が見えていないことを思い出してやめました。
「俺が変だとしても、この幸せが続いてくれれば、それだけで十分かな」
そう言って小さく揺れていたブランコを止めて、少年は腕時計を見てやばい、と小さく呟きました。
「そろそろ帰らないとバスがなくなる。……話を聞いてくれてありがとう、話したのは君が初めてだ」
足下の鞄を拾って駆けていく少年の後ろ姿を見ながら、女の子はブランコをこぎ続けました。『商品』はまだまだ分からないことだらけのようです。自分の持っているくすんだ片割れだけの商品を見上げました。これと対になる『商品』はあるのでしょうか、あるとしたら、それを持っているのは誰なのか。
ひときわ大きくブランコをこいだとき、一陣の風が女の子をさらっていきました。




