6月:それはあなたを思うが故に
ぱしゃん。
雨がさらさらと降っていて、水たまりが出来ていた所に着地してしまいました。
女の子が降り立ったのは店の前でした。どうやら服屋です。涼しげな白のスカート、大きな麦稈帽子。外のじめじめを吹き飛ばすような、明るい色の服が並んでいます。
雨宿りをしようと、女の子は店内に駆け込みました。店員でしょう、若い女の人が気がついて、タオルを貸してくれました。お礼を言って体を拭いていると、店の奥に二人居ることに気がつきました。男の人と女の人。『商品』は対になっています。二人が幸せで楽しそうで、女の子もなんだか嬉しくなりました。
タオルを返して、雨がやむまでぐるぐると店内を回ることにしました。かかとの高いサンダル、さわやかな青のバッグ。見ているだけで気分が明るくなるようです。
あの二人の近くに来たとき、ふと視線を感じて窓の外を見ました。雨でよく分かりませんが、向かいのファストフード店にいる男の人に見られたような気がします。
もうしばらくすると雨が上がって日が差して、二人は麦稈帽子を一つ買って、店を後にしました。なにか気になった女の子は、二人の後をしばらくつけてみることにしました。
二人におかしな所はありません。ただ、店を出てからもずっと、二人の近くに居ると視線を感じるのです。思い切って振り返って、思わず声が出そうになりました。さっきのファストフード店にいた男の人です。つけているのでしょうか。
二人はしばらく歩いて、書店に入っていきました。女の子はそこには入らず、少し影に隠れて様子を見ていると、つけている男の人は、その向かいの喫茶店に入りました。女の子は少し迷いましたが、男の人に続いて喫茶店に入りました。
窓近くに陣取った男の人は、やっぱり向かいの書店を見つめています。あの、と女の子は小さく声をかけました。
うん? と振り返った男の人は、女の子の顔を見るとあぁ、と笑いました。
「さっき服屋で彼女たちといた子だろ。彼女の友達だと思っていたけど、違うのかい?」
女の子は首を振りました。
「全然知らない人。あなたはあの人達のお友達?」
男の人も笑いながら首を振りました。
「違うよ。僕は彼女のことをよく知っているけど、彼女はきっと僕のことをしらないだろうね」
「では、なんでずっと見ているの?」
気づかれちゃったか、と男の人は頭をかきました。
「ちょっと説明するとわかりにくいかもしれないけど、聞くかい?」
女の子が頷くと、男の人は目の前の席をしめしました。
「じゃあ、座って。紅茶でも飲みながらゆっくりと。彼女、本屋に入ったらしばらく出てこないんだ」
どこから話そうかな。とりあえず先に言っておく、僕は今片思い中だ。彼女にね。
初めてであったとき、恋に落ちたんだよ。本当にあるんだよ、一目惚れって。雷が落ちたと思ったって、ああいう感じなんだろうね。
……でもね、問題があったよ。彼女、その時からもう彼と交際してたんだ。本当に二人でいると幸せそうで、とうてい僕の入る隙間は無いなぁって思った。でもそれでよかったよ。僕が一目惚れしたのは、彼と居るときの幸せそうな笑顔の彼女だから。
それからずっと僕はこうやって彼女を見ているよ! 彼女と喋りたいとか、そんなには思わないんだ。ただ彼女が幸せであればいいと思うね。僕はそれが見られたら幸せなんだから。
こういうの、ストーカーって巷では言うんだろうね……でも僕は、もし彼女が僕に気がついて、やめてくれって言うならすぐにやめる気だよ。当然さ、彼女が幸せじゃなくなるなら僕も幸せじゃ無いからね。だから僕はよくワイドショーとかで取り上げられるストーカー達とは違うよ。僕に言わせてみれば、あいつらは本当には相手を愛してないね!
「相手の幸せを一番に考える、僕が考える『愛』ってそういうものだ」
男の人は紅茶を一口飲んで、再び書店に目を向けました。あの二人も窓のすぐそばに居て、本を見ながら幸せそうです。女の子も紅茶を飲みながら二人を見つめて、男の人の『商品』が二人の対になった『商品』にとてもよく似ていることに気がつきました。よく似ては居ますが、やはり違います。
「彼はそれが出来てると思うよ。だから彼女と彼はお似合いだ。僕の入る隙間はないし、その必要も無い」
その時、あの二人が書店から出てくるのが見えました。男の人も立ち上がり、それじゃ、と笑いました。
「話を聞いてくれてありがとう。話したのは君が初めてだよ! 紅茶のお金、僕が払っておくから気にしないで」
男の人はそう言って、幸せそうな二人をそれ以上に幸せそうな足取りで追いかけていきました。女の子は残った紅茶を急いで飲んでお店から飛び出しましたが、その時にはもう誰も見えませんでした。もう少し、男の人の話をきいてみたかったのですが……。
その時、ぴゅうっと風が吹きました。女の子はまた空に浮かびます。虹が大きく輝いて、さわやかな風が吹いていました。




