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幸せというのは発生、経過、結末、余韻、共有とかどれか一つでも害されると一気に不快になるもんですよね

「あはは! やっぱり先生方にはウケが悪かったね!」




「当然っちゃ当然ですけどね」




ホテルのロビーの5,6人ぐらい余裕で座れそうな豪華なソファに二人して腰かけて、結衣は足をバタバタさせながらイタズラ大成功みたいな様子でケラケラ笑っております。




普段目にすることはないホテルの浴衣を羽織った結衣の姿はとても新鮮で、隣にいるだけで心臓がバクバクして死にそう

。けど結衣の腕の中で死ぬるならこんなに喜ばしいことはないとも思うのです。

あぁ死にたい。ここで死にたい。そして永遠に結衣の中で生き続けるのだ……。




「まぁ当然本番は時事ネタなんてやらないけど。やはり純粋に私たちのネタだけで笑わせてこそ漫才! 練らねば練らねば!」




俺は肌と肌がくっつきそうな距離で座ってる結衣に対してドキドキしっぱなしだってのに、結衣はさっきみんなから笑いをとれたことが嬉しくて仕方ないみたいで、クゥーを飲んだクゥちゃんみたいな表情を浮かべてジタバタしててなんだこの疎外感……。

最近は割といい感じに段階を踏んできたと思ったんですがそうは問屋が愚かな埋葬ですね。




一抹の寂しさを一人感じていると、結衣はおもむろにソファから立ち上がって後ろ手を組んで見返り美人みたいな構図で、ソファに座っている俺になんだか熱っぽい視線を送ってきてくれたのです。




「結構大胆にアドリブしたけど……思ったよりちゃんとついてきてくれたね?」




「大胆ってか……全く原型なかったですけど。まぁ、なんだかんだ結構一緒にやってますから」




「ふーん……」




お、ちょっといい雰囲気じゃないですか。




ガラスの向こうには見慣れない夜景が広がっていて、けどその上にはいつも見る綺麗なお月さんが浮かんでいる。お月さんのっぺらぼうですね。

そんな景色の中にいる結衣はやはり俺にとって他のどんなものよりも綺麗で大切に思えて。

結衣はそれっきり前を向いて夜景を見つめたまま黙ってしまって、他のお客さんとか従業員の声とか小さくなってるピアノのBGMだけが聞こえてきます。




それでただ俺は結衣の背中を見つめていて、あぁ今何考えてんのかなとかどんな顔してんのかなとか、思ったりしまして。

けどそれは彼女の少し上に写ってる月の裏側を思うような虚しい行為なのかも知れないと、心のどこかで思ってしまったりもして。そうやって勝手に落ち込んでしまうのです。




惹かれれば惹かれる程、近づけば近づいていく程、喋れば喋る程、触れ合おうとすれば触れ合おうとする程なんだかどんどん虚しくて。




聞くのも怖いんですよね。

いつか自分が聞いたこと、結衣にとって俺はなんなのか?

今、結衣にそう聞いたらなんて答えてくれるでしょうか、俺の望んでるような事答えてくれるんでしょうか?



もういつか結衣に告白した時のようないい加減な気持ちじゃないから、もし聞いて、そんな、自分の思うような言葉じゃなかったら……そん時俺は、それでも結衣の夢のために一緒にがんばれるだろうか。

なんて事を思ってみたり。

そんなセンチな気分になってしまうぐらい結衣の背中は綺麗で遠くて、こんなに近いのに手が届かない感じがするんです。




「ごほん! えっとさ……祐亜が今日一緒にいた女の子って誰?」




結衣がわざとらしく小さな咳をして、口元に手をあてながらこちらをチラチラ見てきます。




「クラスの女子です。梨乃ちゃんですね、班員が俺ら以外バックレたから二人で行動してたんですよ」




「ふーん……一日中ずっと二人で?」




「そうなりますね。最初は大丈夫かなーって思いましたけど、梨乃ちゃんも気さくに話してくれて結構楽しかったです」




「ふーん……」




結衣は明らかに不機嫌ですってアピールするような声色でそれだけ言うと、また手を後ろで組んで夜景を眺める態勢に戻ってしまうのです。

なんだかなぁ……脈あり……あり? ありだと思うんだけどなぁ……けど、おら不安だぁ……。




「明日は遊園地にて自由行動ですが!!」




結衣が急に振り返って、俺の方へと顔をグッと寄せてきました。

途端強まる結衣の脳天を貫く甘い香りとブラックホールとホワイトホールがせめぎ合っているような瞳に俺は指先一つ使うことなくダウンさせられそうになるのです。




「明日は……貰いますから」




へ……? 何を? 俺の初めてとか?




「その……なによ……えっとあの……回ろうっていう……あの」




湯上りかなんか知りませんが真っ赤な顔で、手先を混じらわせてみたり髪先をいじってみたりなんだか落ち着かない様子で話してくる結衣にもう俺はたじたじで。

っていうかこんな感じで、勘違いするな!っていう方が無理があると言いますかなんといいますかですよ。




「とにかく明日の祐亜の時間は私がもらうから! その……息もぴったり合わせないといけないから! ほら、大会も修学旅行終わったらすぐだし! とにかくそういうことだから! 祐亜の当初の予定は全部キャンセルです! 決定!」




「はい……喜んで」




有無を言わせず、俺がちょっとでも近づいたらキスできちゃいそうな距離でまくし立てた結衣は俺のその言葉を聞くとすぐに満足そうに微笑んで、じゃあ明日ねって言って俺の前からスリッパの音をパタパタさせながら去っていくのでした。




あぁ……もう、と。




これでなんも脈なしだったら俺多分絶対立ち直れない気がする、けど。

ソファに座ったまま俺はにやけて笑い出しそうになった顔をずっと必死に抑えているのでした。

恋愛は惚れた方の負けだわ……かぐや様もそう言ってましたよね、確か。


















フェザーブーツでも履いたように軽い足取りで自分の部屋に戻ろうとする俺です。

あぁー彼女の本心がどうであるにせよ、やっぱり学生の一大イベントである、しかも自由行動の時間に誘われるとかもう大勝利でしょう!?

嬉しさのあまり鈴木みのるに関節技をかけた永田裕志みたいな表情になっちゃいますぅ。

さぁ、今日はもう早く帰って寝なければ!!



その時でした、急に視界が真っ黒になったのです。




「は!? はぁあああ!!??」




何が起こったのかよくわかりません。ただ目の前が真っ暗になって、多分これはなんか布をぶっかけられたのか!!?? え!!?? 何!!?? 俺何も悪いことしてないよ!!

ノーマネー!! アイムセイビョウ!!



「こちらα!! マルタイ確保!!」




何か手にガチャリと手錠のようなものをかけられたような音がします。そして聞こえてきた声には心辺りしかなくて、瞬間、俺がさっきまで感じていた幸せな余韻というものが遠ざかりまして……。

なんか葵っぽい声がする。




「むむ……こちらβ! 予定通りこのままユートピアに連行する!」




なんかなんとかさんっぽい声だな。




そして俺は何者かによって両サイドから腕を掴まれ、いずこかに連行されていくのです。

先生は!! 見回りの先生はどこじゃぁああああああああ!!!!!!! えづれくん!!!!!!!! えづれくんは!!!!!!!!!??????? あいつが一番才能があったんじゃぁあああああああああ!!!!!!




そして俺は為すすべもなく、なんだか抵抗も抗議もする気もせず、連れられるがまま移動したのです。

そしてなんとなく俺はもうどこに連れられていくのか、そしてそこで起きることはもうろくでもないだろうなと確信していた次第なのであります。




幸せの余韻を返してぇえええええええええええええ!!!!!!!!!!!


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