初恋は手榴弾。片思いはモーションセンサー爆弾。両想いは時限爆弾っておばぁちゃんが言ってました
まさか色ボケした隊の二人に裏切られて、今まであまり喋ったことのない女子と二人だけで京都観光することになるとは一時はどうなることかと思いましたが。
いやはや終わってしまえばとても充実した一日でございました。
最近の自分の周りにはノーガードアサルトコンバットスタイルの女の子ばっかりだったので、物静かで色々詳しい梨乃ちゃんはとても新鮮で素晴らしかったですな。今後とも仲良くしていきたい所です。
が、さっき別れ際なぜか梨乃ちゃんとても空元気な感じがしたのですがただの気にしすぎでしょうか。ちょっと心配です。
心配と言えばこの入浴を済ませたのちにある食事の時間になんか漫才をするとかいうクソイベントが起こるらしいんですが今からでも中止にならないかなーと思っています。
あのさぁ……。
キャッキャッしようぜ!
この17歳という時間を! 修学旅行だぜ!?ドメなんとかスティックななんとか彼女だったらセッ●スしてますよ!? カーテンも閉めずに!?
まぁそれは行き過ぎだとしても夜中、男子の部屋に女子が、その逆もまた然り、そのあれですよ。先生が見回りにきてやべ隠れろ!って同じ布団にもぐって急接近目が合ってしまって声も出せずあぁどうか心臓の音が聞こえませんようにーとかさ! ある訳じゃないですか! あぁくそ!思春期が溢れだす! 俺だって前後の文脈を一切考慮せず唐突に女子の体に触れてみたい!
けれど俺の想い人はラブコメなんてどこ吹く風。いつでも明後日の方向にストイック……惚れた弱みといいますかなんといいますかもう……。
そもそもあの女神からまっすぐな目で頼まれて断れる男はいないと断言できます。
ぶつぶつあーだこーだ考えながら、僕は同室の連中と大浴場に向かいます。
は?
女湯の覗きイベント!?
うるせぇばぁーかぁ!! ゆらぎ荘でも読んでろ! コミックだと乳首が解禁されてるですわよ!
大体学校サイドが女湯をのぞけるようなセキュリティーガバガバの宿泊先をもし選定するようだったら俺は教育委員会に報告しますね! えぇしますとも!
俺、温泉とか銭湯とか好きじゃないんですよね。知らない同性の裸が常時視界に入ってくる状態でリラックスしろとか無理があります。
という訳でさっと湯通しをするかのようにパパッとお風呂から上がって部屋に戻ろうとすると、
「祐亜ー!」
一生聞き慣れることのない声がして振り返ると、髪がうっすらと濡れた浴衣姿の結衣がいとうつくしゅうていたり。美人税が導入されたら300%課税不可避。
あら可愛い! けどその右手に握られたノートを見て俺は苦笑いをこぼしてしまいました。
「お風呂あがりだといつもの二割増しでイケメンだね!」
常時頭にバケツで水ぶっかけとかなきゃ!
ホテルの浴衣姿で、首元にタオルをかけている結衣の髪はまだしっとりと濡れていて世界が嫉妬して憤死するレベル艶、色合いです。
近くを歩く男子生徒も、恐らく一般の方とかもそのあまりの神々しさに歩みを止めています。
正直近づくだけで頭がクラクラするんですがおーい! 見てるか! 他の男子! これが脇目も振らずに好感度を高めた結果だ! ざまぁみやがれ!
「今日やるネタなんだけど、前作ったあわてんぼうのやつあるじゃん?」
「ありますねぇ! ありますあります」
可視化することも可能ではと思うような群衆の熱い視線。そんなときめき熱視線の中心にいれることに雄としてのこれ以上ない優越感を感じていますと、さらっと彼女はとんでもない発言をしました。
「途中からアドリブするから。慌てないでついてきてね?」
「アドリブ?」
「うん! せっかくだし試しておこうかなと思って!」
「ふーん。バカなのかな?」
「いいね! そんな感じで適宜適当にツッコミよろしくね! オチは同じだから。それじゃあまた後で!」
香しいシャンプーの残り香と、直視した目が焼かれるほどの眩い笑みを残して結衣さんを走り去ってしまいました。
トテトテとホテルの廊下を可愛く叩くスリッパの音が遠ざかって行くのを、俺はなんとも言えない気持ちで聞いておりました。
いやーゴイゴイですわ、彼女。本当に。
出会った次のページでことに及ぶエロ漫画のようなスピーディかつ有無を言わせない展開に普通に俺はどんビキでございます。
アドリブって……なによそれ! 今まで練習してきたことっていったいなんだったのよ!
って言ってもきっと聞いてくれないし、俺も頑張っちゃうんだよなぁー。
片思いとかいうある種の完全敗北宣言。
「はー! なんで美味しい料理食べながらど素人の漫才なんて見ないといけないんですかね!? あうあう! 梨乃もなんか言ってやるですよ! ほらとっびきりのスラングを織り交ぜつつ!」
「いや……私はまぁ……祐亜くんの漫才なら少し見てみたい気もするけど」
なんやかんやありまして食事の時間になりまして。大広間のちょっとしたソフトボール大会が開けるのではって感じなところで美味しい京料理に舌鼓。本来はこれも班ごとの席順ですが半ば自由化しております。
また、各班ごとに性欲に溺れ規律を乱した愚か共は、ただいま別室において怖い学年主任やらなんやらの先生方から仏教における尼さんを殺したのと同義の責め苦を味わっているとのことです。
凡愚どもめ!!(司馬懿ボイスで)
でお説教され中のいない人の席になぜか来夢がいて、飯をがつがつ食べながら俺にジト目を向けてきます。
「来夢と梨乃ちゃんって仲良かったの?」
俺がそう聞くと来夢はそのちんちくりんな胸を一生懸命張り、ふふん!みたいな表情を浮かべました。
「あう! 修学旅行マジックですよ! いや……来夢はお風呂で彼女に会い、一目でそれと分かったのです! 同じ痛みを分かつものだと……そしてなにより慎ましいその胸がいい! 来夢の周りは下品なおっぱいのやつらばっかり!」
何を言っているんだこいつは……悪いが身体的特徴の事に関してはスルーさせてもらうぜ! デブとかなら自己責任だからバカにするけどパーツだけはどうにもならんからな!
「来夢ちゃん……あの……その……」
お風呂上りのためか髪を下した梨乃ちゃんが来夢の肩を軽く掴んで顔を真っ赤にさせています。無理もない……すごくお上品そうな育ちだもの。この手のあほトークをふられたことがないのでしょう。
「ふん、馬鹿祐亜めが。少しでもまともなら棺桶に入っているがいいです。でももし漫才師を気取りたいと言うならあの壇上に登るといいです。そして心折れるまで何度も無残に死ねです!」
来夢は終始不機嫌そうに顎で大広間の最前列を指します。よくわかんないけど最近PS4買ったって言ってたから多分なんかのゲームの台詞なのでしょう。
来夢が示したその先には結衣がもう早速いて、辺りをきょろきょろしていましたが俺と目が合うと体をぴょんぴょんと跳ねさせながらニコニコ笑っています。
Ah^~Mon coeur va sauter^~
「ちっ……」
「……」
前方からどす黒いオーラが感じられましたがこれに関してもノータッチで行こうかと思います。
「じゃあ行ってくるか。笑ってよ、手叩いて笑ってね!? オーバーリアクション気味に!?」
「君とはよき友人であったが、君の相方がいけないのだよ!です!」
「あはは……頑張ってね」
来夢は憎まれ口、梨乃ちゃんは苦笑いを浮かべながら、そして周囲の名もなきloser共は地獄のような視線を送ってきます。
なるほどなるほど……逆に燃えってきちゃったけど?
結構ネタはまじめに作ってるけど?
実力は学生にしてはあるけど!?
今までガチでやってきたし!?
今からやるのはそれら全ての実績をないがしろにした全編アドリブのやつだけどなぁ!! 目にもの見してやるぜ!!
男子どもの恥かいて死ねという視線を一身に受け、逆にテンションがあがってきた俺は結衣の元へと勇み足で向かいます。
結衣の方はというと周囲からの視線なんてなんのそのといった様子でとても楽しそうに、まるで遊園地に入場する前の子供みたいな表情で俺のことを待ち構えていました。
「今から先生が軽く紹介して、それからスタート。緊張してる?」
「……全然知らない人の前でやるのに比べたらまぁ気は楽ですけど」
「いっぱい笑いとろうね!」
「そうですね、笑われるよりは笑わせたいですね」
俺がそう返すと結衣は少し驚いた表情を浮かべて、それからとびっきり優しい表情を見せてくれました。そして結衣は急いで俺の手をとると、まるでどこか不思議な国でも連れていくような、そんな宙に浮かんでしまいそうな足取りでステージの真ん中に俺を連れていくのでした。
「こんばんわ、Y2といいます」
「はぁ……どうも、漫才してます」
「私、神村結衣と徳永祐亜で漫才のトップとろうってことでやり始めてるんですがね」
「勝手にやってろよって話ですが」
「ところで祐亜くん、もうすぐクリスマスだね」
「へぇー、全然同意できないけど。体内時計バグってる?」
「あわてんぼうのサンタクロースならもうやってくるね!」
「今やってきたらただの変質者ですけどね」
「あわてんぼうのー♪ サンタクロース♪」
「急に歌いはじめちゃった。キャッチボールできないですねぇ……可愛いからいいけど」
「クリスマス前にやってきた♪ 急いでリンリンリン♪ 急いでリンリンリン♪ 鳴らしておくれよ鐘を♪」
「なぜサンタサイドが逸る気持ちを抑えられないのか些か疑問ではありますね」
「あわてんぼうのサンタクロース♪ えんとつ覗いておっこちた♪」
「笑いごっちゃないですけどね」
「あいたたドンドンドン♪ あいたたドンドンドン♪ 」
「洒落にならん」
「不法侵入で御用ー♪ ファンファンファン♪ ファンファンファン♪ ファンファンファン♪」
「おっと、事情が変わりました」
「あわてんぼうのサンタクロース♪ 弁護士接見やってきた♪」
「当然の権利ですね」
「事情をトントン♪ 経緯をトントン♪ 許しておくれよ彼をー♪」
「弁護士なのに感情論ですか」
「倫理倫理♪ 倫理倫理倫♪ 倫理倫理倫♪」
「やかましいわ」
「あわてんぼうのサンタクロース♪ 公費の流用露見した♪」
「え? サンタさんって国家公務員なの?」
「経費でトントントン♪ 湯河原トントントン♪」
「おっとまずいぞ、これは」
「真っ黒くろけの帳簿ー♪倫理倫理倫♪ 倫理倫理倫♪ 倫理倫理倫♪」
「違法ではないんでしょうね、恐らく」
「あわてんぼうのサンタクロース♪ 釈明会見やってきた♪」
「あわてんぼうっていうかもう確信犯じゃないかな」
「政治のトントントン♪ ツールでトントントン♪」
「もう大人しく返金して辞めればいいのに」
「裸婦画が政治のツール♪ ドンドンドン♪ ドンドンドン♪ドンドンドン引き♪」
「どんなどスケベ外交だよと」
「あわてんぼうのサンタクロース♪ 愉快な頭のとちじさん♪」
「ダブルミーニングかな?」
「リンリンリン♪チャチャチャ♪ ドンドンドン♪シャラランラン♪」
「やりたい放題ですね」
「忘れちゃダメだよモラル♪」
「深いぃ~」
「リンリンリン♪チャチャチャ♪ ドンドンドン♪シャラランラン♪」
「以上は全てフィクションであり、実在する人物、団体、都知事には一切関係ないことをここに宣言させて頂きます」
「ねぇ、祐亜?」
「なんでしょう?」
「やっぱり漫才やめてこの歌ひっさげて紅白目指さない?」
「もういいぜ」
「「どうもありがとうございました!」」
思いのほか結構な笑いはとれたのですが、この後すぐ先生に政治の時事ネタはやめろって苦虫を噛み潰したような顔で二人そろって説教されたのは言うまでもないことか思います。
けど結衣が終始幸せそうな、二人で初めて人前で漫才をし終えた時の、俺が大好きな結衣の表情を浮かべていたのでこれはまぁ、これでいいかなって思ったりもしました。




