ムーンライト・ラブ・パラノイア 終
「うわー人、人アンド人ですねー! さすが人気観光スポット!」
「なんか酔っちゃいそうだね」
行動を共にするはずだった私たち以外の班員がまさかの裏切り行為で自分の彼氏彼女と行方をくらましてしまったために、私と祐亜くんはまさかの二人きりで京都を巡ってしまうことになりました。
なんでしたら傍目から見れば私たち二人がまるで……その……あの……あはは!!///
「なんかこの間テレビでやってましたけど、ここら辺は学生とかを狙った盗撮事件とか結構あるみたいなんで梨乃ちゃんも気を付けた方がいいですよ」
「いや……私なんか別に……」
「梨乃ちゃんみたいな自分のことを可愛いと自覚してない女の子の方がテンションあがる殿方も多いから……」
海外から来られている方とか、他の学校の制服を着てる学生だとか、そんないろんな人たちの歩く流れに合わせて祐亜くんと一緒に歩いて。
こんな風にさりげなく褒めてくれるあたり異性としては全然見てくれていないんだろうなってわかってしまうけど、それでも祐亜くんの口から私に向けて可愛いなんて言ってくれたら思わず頬も綻んでしまいそうになって。
けど自分だけこんな一方的にドキドキさせられて、しかも祐亜くんなんて私のことなんとも思っていないのにドキドキさせてきてすごく不平等というか、でもこんな二人で歩けるなんてこときっと一生のうちに今しかなくて、それがすごく嬉しくて悲しくて……この私の今の名状し難い感情に敬愛する文豪の先生たちはなんて名前をつけてくれるんでしょうか。気になるところです。
「清水の舞台から飛び降りるつもりで……確かに落ちたら無事じゃすまなそうですけど。そんな思っていたよりは高くないっすね。こーう、東京タワーとかあれぐらいのもんかと。運が良けりゃ生き延びそう」
「ビルの四階ぐらいの高さらしいですよ。昔は願掛けの意味をこめて飛ぶ人が多くて、しかも今みたいに下がコンクリとかじゃないから生存率もまぁまぁ……60歳以上の方はもれなく即死だったみたいだですけど」
「ひぇ……まぁ科学が発展してなかった時代だから仕方ないこともしれないけど……いやぁ…それにしてもこんなとこから願い叶えるために紐無しバンジーはすごいですな」
「檜舞台の語源もここだから。それぐらい神聖な場所だから御利益とかありそう、みたいな感じだったんじゃないかな?」
「なるほど、それにしても物知りですな梨乃ちゃん。あ、すいません写真一枚お願いします」
祐亜くんは腕を組んで右手を顎に手をあてながら、制服のブレザーのポケットから取り出したスマホを見知らぬ観光客のおじさんに渡していました。
受け取ったおじさんもきさくな方で、こころよく応じてくれて……。
「はい、はい。彼女、もっと彼氏の方に寄ってー! 抱き着いちゃう感じで!」
はぁ!!!??? 私も一緒に写っていいんですの!!!!????
ごく自然な感じで祐亜くんが私の隣に立つというかもう密着してきて、はぁー! もうなんですかこれは!!
「彼女、もっと笑って! はーいチーズ! バッチリだ!」
「ありがとうございました!」
小気味よいシャッターの音が聞こえた後、祐亜くんはおじさんからまたスマホを受け取ってその画面を楽しそうに眺めています。
「おぉーよく撮れてる! 最近はスマホもデジカメなんかと変わらない性能っすね、こりゃ。梨乃ちゃんは表情がやや硬い……。あ、あとで送っときますね」
まるでジェットコースターです。
ただでさえ祐亜くんと二人きりで歩けているだけで私にとっては一世一代のイベントなのに、こんなごく自然に合意の上でツーショット写真を手に入れることができてしまうなんて。あまつさえカップルに思われるなんて!
あー私のことなんてなんとも思ってないんだろうけど、心臓がバクバクしていしまいます。にやけてしまいます。はわー……。
それから順路にそって、たくさんの観光客の人の流れの中を祐亜くんと二人で他愛もない会話をしながら歩いていきます。
正直、人がたくさんいるので風情だとか雅だとか、私が京都に対して抱いていた勝手なイメージを感じることはできませんでした。
けど、常に私の方に視線をやりながら気遣って、それから楽しそうに会話を途切れることのないようつないでくれる祐亜くんの隣はとても心地よくて。
きっとこれはこの場、この日限りのことなんだろうけど。
……それでもこの人がもし隣にいてくれたら私の世界は普段からどんなに暖かな彩りをもつんだろうか、そんなことを考えずにはいられなかったりしたりします。
「いやーやっぱり実際生で見ますと写真やパンフレットだけじゃ伝わらない臨場感的なものがありましたね。次はどうしましょうか?」
なんだか景色のことがあまり頭に入らないまま気づいたら出口に立っていて、祐亜くんは大きく伸びをしながら私に聞いてきました。
「ここからまたバスに乗って……金閣とか見に行きますか? それから市内の方に戻ってもいろいろお寺巡りとかはできるみたいですし」
「お腹が空いたのでごはんを食べよう」
私たちの会話に急に聞きなれない女の子の声が入ってきて、反射的に声のした方に視線をやると
「あの柳さん……? 自分の班はどうしたんですか?」
「気にしなくていい。誰も私を捉えらない」
「雲のジュウザ関係の方かな?」
隣のクラスの上杉さんでした。
綺麗な赤毛のシャギーの入ったショートカットの、いつも眠たげな目をしている何を考えているのか分からない少し怖い女の子、というのが大方の同級生が上杉さんに対して抱くイメージです。けど
「ちゃんとグループ活動しなきゃダメっすよ、迷惑をかけますから!」
「かけてやりなよ、デミグラス」
「ハンバァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーグ!!!!! やかましいわ!」
祐亜くんの腰の辺りに抱き着いて、なんだか息ぴったりの掛け合いをしている上杉さんは私の全然知らない上杉さんで。
まるでご主人様に全力で甘えようとしている猫みたいな表情です。
それでなぜかそんな二人を見ていたら、胸の奥の方が少しズキっとなって。
いやいや! 嫉妬なんてそんな!! 私なんかには百万光年早いというか!! そもそも同じ土俵に立ててすらいませんし、そもそも光年は距離の単位ですし……。
けど楽し気に話す二人を見ていると、私の知らない時間をきっと楽しく過ごしたんだろうな、とかそんな当たり前のことすら胸をズキズキする要素になってしまって。軽く自己嫌悪に陥ってしまいそうです。
「とりあえずダメ! あるべき場所に戻りなさい!」
「あるべき場所……それをあえて決めるのであればそれは祐亜の横なのかもしれない」
……上杉さんってこんなキャラなんだ……と遠巻きに見ながら思っているとふと上杉さんと目があってしまいました。
その眠たげなトロンとした目は、けれどその奥に熱い何かを煌かせているその瞳があまりに眩しすぎて目線を逸らしてしまいました。
「昨日からずっと一緒にいる……」
祐亜くんの腰の辺りにべったりくっついたまま、祐亜くんを見上げて不思議そうな表情を浮かべています。
なんだろう……違うんです、私は悪くないんです。成り行きといいますかなんといいますか!
「クラスメイトかつ班員ですから! 当然ですよ。柳の他の班の方はどちらに!?」
あ、呼び捨ていいなぁ……。
「問題ない、祐亜が気にすることではない」
「あたし気になるんですけど!!」
辺りの観光客の方々がくすくすと笑っているような夫婦漫才を繰り広げている二人の後ろに、またしても新しい女の子が。
しかも仁王立ちですごく怖いオーラを……。
「ふぅ……柳、てめぇ……いい加減にしとけとよこの発情クソ娘……」
肩で息をしながら右手に作った拳の上に左手を重ねてパキパキと骨を鳴らしているわが校の生徒会長の姿は、元はとても綺麗な方なんですが、なぜでしょうか、漫画にそれほど詳しくない私ですら知っている人の命をなんとも思っていないなんとかの拳の主人公の姿が重なるようでした。
生徒会長の姿を確認すると、上杉さんは罰の悪そうな表情を浮かべてさっさと祐亜くんを盾にしてその背に隠れてしまいました。
「暴力反対…!」
「柳の口からそんな言葉が……!?」
美男美女の濃い人たちが観光地でわちゃわちゃやっているので、必然的に周りの方からの好奇やら白い目線を向けられてしまっておりました。
普段影に隠れてひっそりと生きてきた私からすると、もうとても耐えられるものではなくなんとかしてこの場から立ち去ってしまいたいのですが……祐亜くんから離れてしまうとどちらかは迷子になってしまいますし、一人は寂しすぎるし、
「お前のような問題児がこんな行動を起こすのは想定済みだ。柳、これ以上班の行動を乱すようなら明日の自由行動の時間、お前だけずっと引率の教員と行動を共にしてもうらう」
「……っっ!?」
「というか俺がこのことを学年主任に報告すれば間違いなくそうなる。どうする? お前の思い出の1ページ殺してやろうか?」
……わぉ。
普段、全校集会とかで凜としている生徒会長しか知らなかったので、これはなんというかすごく意外な一面というか、見てはいけなかったような……そんな気が。
流石の上杉さんも思い出の殺害予告をされてしまっては為すすべもないようでして、うなだれて祐亜くんの背から出てきました。
「物分かりのいいやつは嫌いじゃないぞ。じゃあな、祐亜。あーえっと、南さんだっけ? そいつに変なことされたら、おれ……じゃなくて私に言ってね!」
まるで数多のフラッシュを浴びながら連行されていく犯罪者とそれに付き添う警察の様に二人は去っていってしまいました。その二人の背中を私と祐亜くんはもうなんだかよくわからないという感じでしばらくは見送っていました。
「バイオレンスでしょ、うちの姉貴?」
「あはは……」
それからしばらく祐亜くんと二人で歩いて、道の脇にいた気の良さそうな人力車を引いている若い男性になにかおすすめのおいしい料理屋さんを聞いて、またそこ目指して歩いていきます。
何百年も昔の人の息遣いが聞こえてきそうな風情ある建物が立ち並ぶ石畳の上を、肩が触れてしまいそうな距離で祐亜くんと歩いて、吸い込んだ息が冷たくて、吐き出した息は白く染まっていくのに、不思議と気持ちは暖かくて。
こんな特別な時間を祐亜くんと過ごせるなんてとても幸せで、
けど特別だからこそ過ごせるんだ、なんてネガティブな自分がすぐに呟いて。
「祐亜くんがそんなに女の子に優しいのは、お姉さんの影響?」
あまりおしゃべりな方ではないんですが祐亜くんの横にいるとするすると言葉がでてきて、私は何の気なしにそんなことを聞いていました。
「? そうですかね? あまり意識したことはないですけど」
「いやいや……とても優しいですよ。すごく」
私がそう言うと祐亜くんが気恥ずかしそうに視線をそらしてしまいました。
「そうですねぇ……姉貴のおかげ……? かな……? まぁ、でも姉貴は先ほどの態度でも分かるようにかなり荒っぽい性格で、昔から散々いじめられてきた訳で姉貴っていうかむしろ兄貴って感じだったんですが」
「まぁ、口には出さないけどなんやかんやあの人も女の子なりに色々大変な事もいっぱいあるみたいですからね。周りの目線とか、男の目線とか。体だって男の何倍も複雑な作りな訳じゃないですか。大変なんだろうなーとは思います。女の子は誰でもそんな感じなんかなーとは漠然と思っています」
「まぁ、それを男の俺がどうこうしてあげることはできませんし、知りもしないのに大変だねーとかはうざいかな、と。じゃあどうすればいいかなーと考えたときにですね」
「とにかく大事にしとけば大丈夫かなって。自分と違って理解できないならとりあえず大事に、大切にしとけば間違いはないだろうと思うようになりました!ふふ……何言ってんだ俺、気持ちわる。ここだけの話でお願いっすよ?」
あぁ……やっぱり祐亜くんはいいなぁ。
そんな綺麗な顔で、そんな落ち着く声で、そんな優しいこと言われたら好きになるのも仕方ないです。
「祐亜くんのそういう考え方……すごく、好……す、素敵だと思う!」
「そう? 俺としてはこの性分のせいであくの強い女の子たちに振り回されてしまっているような気がしてましてね……あれっしょ? 最近流行りの男子は、度Sで俺様系でしょ?」
「そ、そのままの方が絶対いいよ!」
人は今ある幸せだけでは満足できない、なんて何か昔読んだ本に書いてあったけどその通りだと思います。
好きになればなるほど、もっと知りたくて近づきたくて触れたくなってしまう。
もっと祐亜くんのこと、聞かせて欲しいって思ってしまいます。
こんなに側にいられるのがこの時間だけなら、なおさらですね。
そういえば、祐亜くんに彼女がいるって話は聞いたことがない……新学期早々うちの学校で一番美人の神村さんに告白して玉砕したって話は噂では聞きましたけど。
まだ祐亜くんは神村さんの事が好きなんでしょうか?
もし……もしも! その隣に誰もいないんだったら、あれよそれよのえっとえと……祐亜くんのその……。
いや、
いやいやいやいやいやいやいやいや……っっ!!
私なんかよりも何十倍も可愛い子たちがアプローチして靡いていないのにありえないありえない!
「? 俺の顔になんかついてますか?」
「いやいやいやいや! 何もついてませんよ! そ、それより早く行きましょう! 私もうお腹ぺこぺこで!」
「確かに俺も腹減ったっすねぇー久しぶりに歩き倒して足もいてぇし。飯食ったら本能寺行きません? いやー行ってみたかったんですよ、んで『本能寺で待ってる!』ってランダムに誰かにいたずら電話するのが夢でして。いやー楽しみだなー、ライフ~♪ ライフインザコールドウォーター~♪ 本能寺で待ってる、んっあぁっ!!」
一人で妄想して暴走して焦っている私に特に深く追及することなく、祐亜くんは上機嫌に恐らく鼻歌を歌っています。
あぁ、きっと何か元ネタがあるんでしょうが私の乏しい知識じゃ祐亜くんの小ネタを拾いきれないのが歯がゆい……。
分かったらきっともっと祐亜くんと仲良くなれたのに……今日だけじゃなくて、これからも。
それから祐亜くんとご飯を食べて、またすし詰め状態のバスに揺られて、パンフレット片手にあーでもないこーでもないとか言いながら歩いて。
「うわーすご! コンビニが和風テイスト!」
「京都では景観を守るためにかなり厳しく建物の建築基準が定められてますからね」
「はえーそうなんすか。クールジャパンどすなぁー」
さっきまで私たちのつむじのてっぺんを照らしていた日の光は、なんだかいじわるするみたいにいつもよりずっと早いペースで傾き始めて、
「全国から女子が殺到するというこれがかの有名な油取り紙の聖地か……寄ってみますか!?」
「くすっ……寄りたいんでしょ?」
小さい頃から夕方は嫌いでした。だってお別れの時間だから、楽しい今日が終わってまた新しい日がくる。
新しい日は楽しいかどうか、分からないのに。
「いやーお寺とかでっかい建造物もいいけど、京都は道はずれたところがすごく好きだ。この古き良き時代ってか、名残りっていうか、この石畳の風景でなんか物語できそう」
「……湯煙殺人事件とかですか?」
「もうちょいノスタルジックな奴で」
「突如飛来した狂気的な月の魔物がこの何気ない風景を名状し難い……」
「どうした文学少女?」
多分の今日の朝よりもずっと祐亜くんと仲良くなれて、それから今までよりもずっと祐亜くんのことが好きになってて。
オレンジから青紫に染まる世界は祐亜くんの顔をどんどん見えなくしていって。
本当はこんな特別な場所で特別な時間じゃなくて、祐亜くんにとってなんてことのない時間を一緒に過ごしたいなんて、そんな想いが口を破ってしまいそうなくらいに強くなっていって。
あー楽しかったね、なんて言いながら旅館へと私に合わせた歩調で進んでくれる祐亜くんの手を今にも掴んでしまいたくて。
今日だけじゃなくて、これからも……なんて。
「月がきれいですね」
「っっ!!??」
一人ごちゃごちゃした頭をぐらぐらさせていると、祐亜くんがあまりにも有名なそんな言葉を口にして、私はびっくりして声にもならない声をあげてしまいそうになってしまいました。
「……とは、俺なんかでも知ってる夏目先生流の I love you の訳し方だそうですが、これはつまりどう意味なんでしょうか? ご存じなくて?」
見ていると胸がしめつけられそうな濃紺の空を見上げて、そこにぼんやりと浮かぶ小さな月を見つめながら祐亜くんは不思議そうに首をかしげていました。
あぁ……純粋な疑問か……心臓に悪いです。
「その話は漱石が言ったっていう明確な裏付けも出典もないのでほとんど後世の創作では?って言われてます。確かなんとかのシェイクスピアって作品の中にある対談にちらっと又聞きの体で書かれてるだけだったような」
「oh……そうなんですね、知りたくなかった……」
「特に決まった解釈もないですけど、あなたと見るとより一層今日の月は綺麗ですね、ぐらいの意味でしょうか」
「……まどろっこしいっすね。絶対伝わんねぇ」
「アイラブユー、なんて伝わらない方がいいぐらいの心構えだったのかも知れないです」
「なんでかね?」
「昔から四季に想いを馳せたり、好きな人への想いを歌にしたり詩にしたり俳句に乗せたり小説を書いたりあの手この手でラブを表現してきたのが日本の古人の方々ですからストレートすぎるのはあまり好まれなかったのかも知れないです」
うん……I love you なんてまっすぐすぎて怖すぎます。
けど確かにはっきりと言葉にしなきゃ伝わらないと思うし、どれだけ怖くて辛い思いをすることになってもきっと一歩踏み出さなきゃ、何も変わらないまま。
このまま今日が終わっちゃったら、私は何もできないまま……。
下を向いて大きく深呼吸をして、それから一気に吐き出すように!
「祐亜くん! あのもし明日誰かと回る予定がないんだったら……!」
「おーい! ゆうあー!!」
私が決死の想いで口にした言葉は後ろから聞こえてきた大きな声に簡単にかき消されてしまって、
「あ、結衣だ!」
車道を行きかう無数の車のヘッドランプやテールランプに照らされた、声の主に振り返った祐亜くんの顔は、そんな暗闇の中ですらわかるぐらい、とても嬉しそうな表情で。
「大変だったねー田中くん消えちゃったんでしょ? まぁ恋の方を手引きしたのは私だけど。ごめんね?」
「ふふふ……素手に我が校の閻魔大王こと杏華殿に告罪しております。奴らはしかるべき罰を受けることでしょう。ククク……」
「えーいいじゃん、カップルなんだから?」
「そんなの関係アラン・トレシー」
あーあ……。
なんだ、祐亜くんまだ神村さんのこと好きなんだ……知らなかったなぁ。
「あ、そうそう。話は全く変わるんだけど今日のご飯食べる時間にね、みんなの前でネタやることになったから」
「ふーん……は!? ……はぁっ!?」
「いやー学年主任の先生に今度本予選でるんですよーって言ったら、じゃあその前に予行練習しとけって言ってくれてね? いやーちょろい……じゃなくていい先生だよね! あとで軽くネタ合わせしようね」
「オコトワリシマス!」
あぁ……だめだ。目の奥がツンってなる。
だってすごく楽しそうで、祐亜くんのドキドキと喜びとか混じり合ったそんな顔、今日見れなかったし、今までも見たことないですし。
去年一緒のクラスだったけど神村さんもこんなに楽しそうに男子と喋るキャラじゃなかったですし、あぁーもうなんか。勝てるわけないじゃないですか。早く教えて欲しかったですよ、まったく。
あたしなんかと、どうせとか、たくさんたくさん予防線張ってたのに、どうせ無理だって自分に何回も言い聞かせてたのに。99パーセントありえないって。
心の中でどこかで期待してしまっていた1パーセントを否定されるのがこんなに辛いだなんて、ちょっと分からなかったです。
あぁ、そっか。
これ、初恋だもん。仕方ないですね。知ってるわけない。
「あの新ネタなら絶対ウケるよ! それじゃまたあとでね!ばいばい!」
「ちょいちょい……!! 一方的に喋って消えていってしまった……嵐の王、いや嵐の女王かな」
多分2分も喋っていなかったと思います。けど、それは私にとってはあまりに十分すぎる時間でして。
「そう言えば梨乃ちゃんさっき何か言いかけてなかった?」
「月がきれいですね!」
「ふぉっ!? 何告白!?」
あぁ……余計な事言ったら涙が零れそうなのに何をしてるのでしょうか。
「これぐらい意味を隠してしまえば便利じゃないですか? 今さっきのはそういう意味じゃないよ? とか言えるじゃないですか」
「あぁーなるほど。それは確かに」
「そうですよ、だって……」
I love you なんて大体一方通行ですから。
勝手に好きになって、勝手に諦めてしまう私みたいな恋だってきっとこの世界にはたくさんあふれているでしょうから。
愛してるなんて言葉を言う前に終わってしまう恋だってきっとありますから。ならせめて遠回しにでも言ってしまいたいのかもしれません。
分からなくてもいいから、届かなくてもいいから。
あんなに軽かった足取りは今ではとても重くて、祐亜くんの話す言葉もいまいち頭に入ってこなくて。
下を向いてないと涙が零れそうで、口を結んでないと嗚咽がもれそうで。
あぁ、明日になったら祐亜くんのこと嫌いになってたらいいのに。
無理だろうなー。
だってこんな私でもずっと好きだったんですもん。ずっと大切にしてた想いなんです。
どうしたものですかね、あはは。
いつかこれも青春だったなんて遠い目をして懐かしく思い出せる日が来るんでしょうか。
あはは、だめだこら。
自分で思っている以上に祐亜くんのこと、好きだったんだなー。
街の明かりで夜空に浮かぶ星はあまりよく見えませんが、それでも月だけはとてもよく綺麗に見えて。
あぁ、やっぱりとても綺麗だなーなんて、いまだに思ってしまうし、きっと明日も明後日もそう思ってしまうと思います。




