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リトライ  作者: 相原由紀
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相原家

[021001] 相原家


 高校生活二回目の秋、十月の後半になると肌寒さを感じる季節である。男子生徒は学生服に変わる。女子も冬のブレザーになるが、まだそれほどでもないのでブラウスにベストだけのスタイルが大部分である。

 この状態が一番似合うと俺は思っていた。由紀は、もちろんブラウスの一番上のボタンをきっちり留めている。

 夏の合宿で植えた謎の植物も残暑の日差しによって成長し大きくなっていた。いや、巨大になったのでは無い。不思議だが由紀の言うとおり分身していた。

 当時広く間隔を開けて十株ほどだったのが新たに何株も出現している。良く見ると元株からツルが出てそれが新たな株になっているのである。しかも今では隙間が無いくらい増殖しており三から四倍くらいになっていた。

「どお?驚いたでしょ。けど沢山子供作っちゃったわねーこれじゃぁ鉢がいっぱい要るわ」

「これはタケノコか?種蒔いたわけじゃないのにどんどん増えてる」

「あはは、タケノコは地中でしょ。これはね種もあるんだけど、こうしてランナーって言うツルが延びてそこで新しい株ができるのよ」

「じゃぁ、ほっといたら、一面こいつらで一杯になるってことか?」

「そうだけど、でもこのままじゃ冬を越せないの。だから鉢に移して屋内に非難させないとダメなの」

「なら、大量の鉢が要るなぁ。四十くらいかな」

 そこに、写真を撮ろうと由香と村田が来た。謎の植物のことを話したら村田が村田商店の売り上げが好調で鉢の資金を提供してくれることとなった。先生と相談して鉢と鉢受けを早速手配してくれる運びとなった。

 そして入荷後直ぐに鉢への移植作業を行った。ツルは切って株一つづつを丁寧に鉢へ移す。全部で四十ちょっとにもなった。これを二十鉢ほどは食堂の窓際に配置したが、それでも余るので職員室、体育教官室、図書室にも分散して窓の日当たりがいいところに置かせてもらった。

 また大きめの四鉢を高瀬高にも送ってもらった。簡単な育て方を書いた説明書も付け加えた。但し植物の名前は書かず『女の子の匂いがする植物』となっている。

 後日聞いたところによると、久保が毎日水をやり一切だれにも触らせず大切に管理していたとのことだった。


 そろそろ寒さが増し始めたころの土曜日、テニスの練習が終わり由紀を家まで送っていった。丁度夕食の前でもあった。

「今日は食べていきなさいよ。いっつも帰っちゃうんだから」

 由紀のお母さんが、勧めてくれる。

「では、お言葉に甘えてお邪魔します」

「おっ、いつも世話になってるな。由紀から話は色々聞いてる」

 由紀のお父さんが食卓の奥にいて、晩酌を始めている。

「始めまして、南条です。いえ、こっちこそ色々手伝ってもらったりでご迷惑かけてます」

「まっ上がれ上がれ、今日は鯛やハマチもあるぞ」

 と、食卓に並べられた刺身を指す。さすが本場の漁師である。その日取れ立てのものが豪勢に盛り付けられていた。

「これはすごいですねー料亭並だ」

 俺の家でも、これだけ豪勢な刺身が出てくるのは盆や正月くらいだ。また前世においては田舎を離れ都会生活になってからは、こんな高級魚の刺身は高くて買えなかった。生活が苦しくなってからはなおさらである。

「まーここへ座れ、好きなだけ食べろ。遠慮はいらんからな」

 俺も勧められるままお父さんの横に座り取り皿に醤油を入れてもらって、早速ハマチから頂いた。

「これ、さすがに新鮮ですね。歯ごたえが全然違います」

「おっ判るのか?」

「この鯛もです。都会のスーパーなんかで売ってるのは、全く弾力がありません。それに比べ、ここにあるのは全部新しいし、美味いです」

 そんな会話を聞いて由紀も嬉しそうに、お母さんの手伝いをする為、エプロンを着けて流しのほうへ行った。そして他のおかずの盛り付けを持って来たときだった。

「あなた達、何やってるのよ!」

 俺とお父さんは、口をポカンと開けて、由紀の怒って口を曲げた姿を見て驚いた。

「智史は高校生なのよ、未成年なのよ、今日だってバイクなんだから」

 俺とお父さんとも同時に『アッ』と言うのが同じだった。全くと言っていいほど気がつかなかった。お父さんの差し出すビールに自然とグラスを出し、これっぽっちの悪気も無く注いでもらい、一気に飲んだのだった。

「まぁいいじゃないか、今日は泊まっていけよ」

 と言い、頭をかいていた。俺も前世のクセで、うっかり今の自分を忘れていた。

「ごめん忘れてた。ひさびさのビールだったんで・・・」

「忘れてた?って普段から飲んでたりするの?」

「いや、そんなことはありません。ただ自然すぎて、こんなに美味しい魚もいっぱいあって・・・」

「何夫婦喧嘩みたいなことやってるのよ、ちょっとくらいいいじやないの将人と早苗の部屋に布団しいてあげるから」

 と、お母さんが助け船を出してくれる。

「しょうがないわねーはい!」

 由紀が、まだ半分怖い顔で、グラスを差し出してくる。

「えっまさか」

「はい、入れて。あなた達だけ飲んで不公平じゃないの、あたしにも注いでよ」

再び俺とお父さんも、あっけにとられたのは言うまでもない。

「将人、早苗、ごはんよー」

 お母さんの呼びかけに兄弟も入り、にぎやかな夕飯がはじまった。将人君は中学で野球部に入ったこと、早苗ちゃんもテニスを始めたことがわかった。

「あの、これってサワラですよね」

 と、俺は白身の刺身を指して言った。

「そうだぞ、こっちでは時々獲れる」

「なつかしいな、何十年ぶりかもしれない」

しみじみと、見つめていた。前世、稀に獲れるサワラは格別だった。高校を卒業してからは一切食べたことはなかった。

「あっ変に思わないで、智史時々おじさんになるの。酔ってるしね」

「そんなに気にいったか、このままでいいのか?」

 食べ方を聞いているのである。

「できれば、ごはんと、お茶頂けませんか?」

「智史君は、サワラの美味い食べ方知ってるじゃないか」

「はい、これが一番なんですよね。なんだか幸せすぎるっていうか」

 茶碗にご飯を入れ、真ん中にサワラを三切れほど入れ、ごはんで隠す。そこに醤油を適量加え、熱いお茶をかける。待つこと一分。サワラは半分煮えて、醤油と油の乗ったサワラの出汁が出てなんとも言えない懐かしい味だった。目が潤んでしまう。

「そんなに感激することないのにー」

 由紀は、少し不思議がるように首を傾げた。

「こっちの唐揚げのほうがいいのにー」

「あたしも、唐揚げがいい」

 と、将人と早苗ちゃんは言う。

「ああ、もちろんだよ、この唐揚げも最高ですよ。これはお母さんの案ですよね」

「そうだけど、漁協の食堂で出してるのを、ちょっと工夫しただけなんだけど」

「その隠し味ってなんですか?」

「香ばしいことね、それはアーモンドの擂ったやつと、インスタントコーヒーよ」

「そうだったんですかー由紀は教えてくれなくって」

「だって、我が家の秘伝なんだからー」

 それから色々な楽しい話題で話も食事も進んだ。お父さんの戦時中の話も出た。終戦間際に召集され、配置されたのが高野山の高射砲連隊。隊には高射砲どころか、小銃が小隊に三丁しか無く竹槍部隊だったこと等。俺も実戦経験者(実際には交戦してないが)の話は興味があったので盛り上がった。

「お父さんそうとう楽しかったみたいね」

「そうだね、こんなに沢山飲んだのひさしぶりね」

 お父さんは酔い潰れて食卓の横で寝てしまっている。由紀が毛布をかけてやっていた。

「じゃぁあたし、先にお風呂入ってくる」

 と、言って出ていった。片付けを終えて、お茶を飲みながら、お母さんが真顔になって言った。

「智史君色々ありがとうね」

「いきなりどおしたんですか?」

「あの子、中学のいつごろからか、暗かったのよ。落ち込んだり、一人で泣いてたりね。高校になって、たぶんあなたと知り合ってからだと思うけど、また昔みたいに明るくなっていって、最近は智史、智史って楽しそうに話して、うるさいくらいなのよ。これからもよろしくね」

「そうだったんですか。もう、だいじょうぶですよ。あいつのがんばり方や、思いやり見てたら、こっちも刺激されるくらいなんです。だから、大切にしたいと思うんです」

 その夜は兄弟と一緒に寝た。寝るまでババ抜きにつきあったが、三人だったのでたすかった。


 翌朝、将人君とのキャッチボールをすることができた。ショートバウンドの捕球練習のやり方を教えた。近くの空き地に丁度いいコンクリートの壁があり、座ってその壁へボールを投げ、ショートバウンドになって返ってくるのをキャッチする。俺がキャッチャーだった時の練習方法だった。

 朝食は昨日出た鯛のアラの味噌汁と厚焼き玉子だった。もちろん出汁巻きである。これも両方美味しいのは当たり前。鯛はアラのほうが断然好きだった。都会に出て高い切り身は買えないので、格安で出ているアラを購入するのが常だった。しかも、後年になると、さのアラさえも買うことができなかった。この現世に移ってから、何度かは家でも食べた。

 しかし、この身の多く付いたアラを見ていると、また目が潤む。

「ちょっと感激しすぎじゃない?」

「いいじゃないの。嬉しいことよ。一緒になったら、あなたが作ってあげることになるんだから」

 俺と、由紀は目を合わせた。

「アララ、変なこと言っちゃったみたいね。あははは」

 お母さんは、ちょっと早すぎるフライングに笑ってごまかした。

 俺はお礼を言って由紀を乗せ、いつものように学校へ練習に出かけた。まだまだ先のことかもしれないが、お母さんが言った由紀と一緒になると言うことを考えてみると、明らかに前世のような過ちを辿るわけにはいかない。もっともっと努力することも必要だし、神様がなんと言おうと可能な限り前世と変えていく必用を、いっそう心に強く感じた。


 相原家秘伝の唐揚げは後日食堂のメニューになり、長く提供されることになる。高瀬高の合宿打ち上げ時に由紀と由香が作ったが、その美味しさを知った食堂のおじさんからレシピの提供依頼があったからである。

 由紀は提供については異議はなかったが、低価格にすべく更に工夫することを申し出た。食堂のおじさんや、おばささんと何日も材料の仕入れ価格から、仕込みの手間隙まで相談して商品開発を行っていた。

 まずメインの鶏肉についてであるが、通常はブロイラーを使う。これより低価格の鶏肉が存在する。志賀高一帯の平野では、養鶏、鶏卵も盛んである。ここで鶏卵用の鶏は、一定期間すると産卵ペースが落ちるのでヒネ鶏として食肉出荷される。

 現代では地鶏等の肉質が硬いほうを好む場合もあるが、当時のヒネ鶏肉はブロイラーに比べかなりの低価格である。これを使用し、部位も更に低価格のササミと胸肉を使うこととなった。

 ただ硬いのは好みの問題でもあるが、柔らかくする工夫をする。玉葱の産地でもあるので低価格と言うか、相場によってはタダに近いときもあるほどで、これを利用し、牛肉のようにマリネするのである。玉葱の成分で肉質はおどろくほど柔らかくなる。そしてヒネ鶏肉のコクや旨味が出てより美味しいものとなる。

 しかも低価格となり、紙コップに入れ、一つ百円程度での販売が可能となった。専用のカウンターケースに入れ、カレーやうどんのトッピングとしても良いし、単体でファーストフード感覚でも申し分ない。

 販売と同時に商品ポップとして、作成者の名前をとり、『ゆきカラ』と言う名称がつけられた。

 これも志賀高食堂の名物としてカレーと、ゆきカラが長く続くことになるのであった。ただし、レシピは門外不出らしい。



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