第十一章
とっぷりと陽の暮れたその日の夜。
「あれ……あの二人……」
「ナルミヤ」からの帰り道。迎えに来た健太郎の袂を引っ張って、伸子は前方を指さしした。健太郎が視線を移すと、目抜き通りの反対側を仲良く並んで歩く若松と賢芳の姿が見えた。
「何だあいつら、いつの間にかいい雰囲気になってやがる」
二人はこちら側に渡ろうとしているのか、市電と車の途切れ目を注意深く窺っている。
ちょうど賢芳の視線が伸子を捕えて、細い掌を千切れんばかりに振っている。ようやく市電が行き過ぎて、二人は仲良く手を繋いで長尾兄妹の許に走ってきた。
「ちょうど良かった。これから『ナルミヤ』に行くところだったんだ」
若松は軽く息を切らしている。
「探偵さん。その後どうですか? 翔宇の行方わかりましたか?」
「おう、もう少し待ってもらえるとありがたい」
健太郎は頭をぽりぽり掻きながら大声で答えた。地の声がかなりでかいのだ。おまけに「探偵さん」と呼称されて、だらしなく鼻の下を伸ばし、極限まで眦を下げている。
「今夜はお世話になっているお礼に、皆さんをうちの店にご招待いたします。探偵さんの事務所をお尋ねしたのですがご不在でしたので、もしかして伸子さんのところかと思って。『ナルミヤ』の場所を訊こうと派出所に行ったら若松さんがいらして……」
「ちょうど仕事が終わって帰るところだったのさ」
「それでご一緒にいかがと、お誘いしたのです。お二人に会えて本当に良かったです」
賢芳に誘われるままに、この後何の予定もない二人はにやりと笑って顔を見合せる。もちろん承諾だ。タダで食事が出来るのだ。断るはずがない。
目抜き通りを一本外れると、途端に人通りが少なくなる。月の光だけが頼りの夜道を、二人は賢芳と若松のあとについて歩いてゆく。どこをどう歩いているのか、方向オンチの伸子には皆目見当がつかないけれど、しばらくすると原色の明かりが眩い一軒の豪奢な店舗が現われた。
そこが 賢芳の両親が営む店「会華號」だった。




