第79話 援護射撃
二発のグレネードを撃ち込んだアグネスとシャムは、すぐに移動を開始した。
「本当はユーリ達と合流したいんだけど……騎士団が邪魔だしな」
アグネスは合流を棚上げにして、今は援護射撃に適した場所を探しながら移動していた。
「ここら辺にするか……」
丁度、ユーリ達が陣取っている場所を横に見る位置だった。
アグネスは、グレネードランチャーを地面に置くと、トランシーバーを取り出す。
全てが片手での作業になるのがもどかしい。
「しかし、まずはコリン班長に移動したことを報告しないと」
アグネスはトランシーバーのボタンを押しながら報告を開始する。
『こちらアグネス。移動完了しました。本体から見て、敵正面を零時として、九時の方向にいます』
『……ザザザ』
返事は返ってこない。
その代わりに、岩山の方から発砲音が聞こえ始めた。
「通信できる余裕が無さそうだな……」
アグネスはトランシーバーを地面に置くと、グレネードランチャーに手を伸ばす。
視線をシャムに送ると、すぐにシャムが寄ってきてグレネードランチャーを押さえてくれる。
「(頭のいい子だな……)」
アグネスは太腿のポケットに入れておいた弾を取り出し、グレネードランチャーに装填を開始する。
ガション
乾いた金属音が響く。
「(そうだ……この子ならマガジンへの弾込めも出来るんじゃないか?)」
アグネスは背嚢の中から、紙ケースに入った銃弾を取り出す。
胸のポシェットから空になったマガジンを取り出す。
太腿でマガジンを押さえながら、銃弾を押し込む。
シャムが興味深そうにアグネスの作業を見ている。
「(やっぱり……この子ならできる)」
アグネスはもう一つの空になったマガジンを取り出し、シャムに手渡す。
『しゃむ、やる?』
マガジンと銃弾の関係を即座に理解したシャムが大きく首を振る。
『ありがと、しゃむ』
アグネスとシャムは、横から聞こえてくる発砲音に注意しながら、弾込めを行うのだった。
◆
パパパパパパパパパッ
空薬莢が地面にばらばらと撒き散らかされる。
「くっ……しつこいな……」
そう呟くコリンの前方には、二人の騎士が岩陰に隠れてこちらの様子を窺っているのが見える。
「馬鹿みたいに突っ込んでくるかと思ったんだが……」
彼らの前には既に躯となった仲間の亡骸が数体転がっている。
「流石に学習したか……」
しかも発砲を中断すると、すぐに移動を開始してくる。
コリンが手をこまぬいていると、その後方から新たな騎士達の姿が見え隠れしてきた。
「……まとまって来られると不味い……仕方ない」
コリンは左手を上げて、ハンドサインでユーリを呼ぶ。
中腰になったユーリがすぐに駆け寄ってくる。
「アグネスに支援要請しろ。我々を気にするなと伝えろ」
「イエス、マム」
ユーリはコリンの肩口からトランシーバーを外すと、通話ボタンを押す。
『こちらユーリ。アグネス、聞こえますか?』
二度ほど呼びかけると、応答があった。
『こちらアグネス。援護射撃が必要か?』
『うん。結構詰め寄られてる。こっちは気にしないで撃ち込んでっ』
『了解。大きく外すようなら、修正よろしく』
『了解』
通信を終えると、ユーリはコリンに向かって大きく頷く。
「万が一があるかもしれないからな……気をつけろよ」
コリンはそう言って、前方の騎士達に向けて牽制射撃を行う。
「まずは数を減らす事だ……」
「……はい」
コリンとユーリの会話が終わる。
暫くすると、グレネードの飛翔する音が近づいてくる。
ヒューンッ
ドバンッ
地面が揺れ、岩が削れる音が響く。
しかし、騎士達に損害が出ている感じは無かった。
「(くっ……少しズレた)」
着弾は騎士が隠れている場所から少し離れた場所だった。
ユーリはトランシーバーを握る。
『修正要求、後方へ2メートルっ!!』
『ザザッ……了解』
ユーリがヘルメットを押さえる。
ヒュウ
ドバンッ
今度は、岩陰に隠れていた騎士の近くに着弾する。
「ぐああああああっ!!」
一人の騎士が被弾して転げまわり、近くの騎士は爆風で吹き飛ばされていた。
『アグネスッ!! 命中したよっ!!』
『ユーリ……喜ぶのも良いけど、後二発しかないからね』
『うぐ……』
そこにコリンから指示が飛ぶ。
「ユーリ、また突っ込んでくるぞ。お前も射撃に加われ」
「イエス、マム」
ユーリは銃を持って、近くの岩陰に身を隠す。
岩陰から銃身を出して、照準を合わせる。
呼吸の度に大きく照準が上下する。
「(落ち着け、ユーリ。集中するんだ……)」
ユーリは呼吸を整えながら、前方に意識を集中するのだった。




