第76話 それぞれの持ち場
アグネスは受け取ったグレネードランチャーに弾を込めようとしていた。
しかし、左手が使えないので上手く弾込めが出来ずにいた。
「くっ、このラッチが……」
その様子を見ていたシャムが、そっと手を伸ばす。
「……?」
『此処を押さえていればいいの?』
シャムの言葉を理解できなかったが、差し出された手とシャムの目を見て、アグネスは理解する。
『ここ』、『おさえた』
片言でシャムにやって欲しい事を伝える。
『此処を押さえていればいいんですね……』
シャムがグレネードランチャーを押さえる。
アグネスはラッチを押して、弾を込められる状態にする。
ガチャ
『……っ!!』
シャムは一瞬、魔道具が壊れたのかと思った。
そんなシャムをアグネスが微笑みながら見つめる。
『ここ』、『いれる』
片言で説明しながら、グレネードランチャーに弾を込める。
シャムに抑えてもらっている間に、装填を完了させる。
ガショッ
魔道具が再び元の姿になる。
シャムの目が大きく見開かれる。
『ありがと、たすかる』
そう言ってアグネスはグレネードランチャーの照準を合わせる仕草をする。
シャムはそんなアグネスの動作を見ながら、ユーリに頼まれていたもう一つの事を思い出す。
環頭衣を捲って、下着の中からそれを取り出す。
グレネードランチャーを弄っているアグネスの背中を叩く。
『ん?』
アグネスが振り返る。
シャムはお腹に隠していたもう一つの魔道具をアグネスに差し出す。
『ユーリさんが……コレを……って』
アグネスの目が見開かれる。
シャムの小さな掌の上には、トランシーバーがのせられていた。
「こ、これはっ」
アグネスは思わずシャムの手を包むように握りしめる。
『多分、アグネスさんが必要としている筈って』
シャムが何を言っているかは分からなかったが、ユーリが気を利かせたであろう事だけは理解できた。
「助かる……ありがとう、シャム」
アグネスはシャムの掌からトランシーバーを受け取ると、すぐにスイッチを入れる。
「こちら、アグネス。応答願います。こちら、アグネスッ!!」
◆
コリンとユーリが作戦の打ち合わせをしていると、コリンの肩口のトランシーバーから声が聞こえてきた。
『こちら、アグネス。応答願います。こちら、アグネスッ!!』
コリンとユーリが思わず顔を見合わせる。
すぐにコリンがトランシーバーを取り出し、通話ボタンを押す。
「こちら、コリン。聞こえるぞ」
『アグネスです……グレネードランチャー……確かに受け取りました』
「了解。そっちの具合はどうだ? 動けるか?」
コリンが尋ねると、少しだけ間が空いてからアグネスの答えが返ってきた。
『……すいません。左手を負傷して……思うようには動けません』
「……そうか。合流は難しいか?」
『はい。斜面を登る事が難しいかと……』
「わかった。ならば、お前には、援護射撃を頼む」
『はい。どのようにすれば?』
アグネスの問い掛けに、コリンが岩山の下を見つめる。
「多分、もう少ししたら騎士団が突入してくるだろう。その時、グレネードを撃ち込め」
『照準は?』
「修正はトランシーバーで行う。なに、滅多な事でフレンド・ファイアーは起こらん」
『……コリン班長……』
「お前の援護射撃が頼りだ……頼むぞ」
『イエス、マム』
「後で会おう」
『イエス、マム』
トランシーバーの通話が終わる。
コリンがユーリに指示を出す。
「聞いていたろ? 迂回している騎士達が合流したら、突撃してくる……覚悟を決めろ」
「イエス、マム」
「騎士達はあのガラスのような障壁を複数展開している。一人倒すのに、マガジン一つ近く消費した……」
「そ、そんなに」
「ユーリ。背嚢にはどの位の弾丸が残っている?」
「約240発です……」
「マガジンにして8個分か……いよいよだな」
コリンは不敵に笑う。
「お前は可能な限りマガジンに弾を込めろ。射撃はわたしが行う」
「……コリン班長……」
「なあに、いざとなれば拳銃もある……最後まで諦めるな」
「イエス、マム」
コリンは不安そうなユーリの頬を軽く叩く。
「さっきも言ったろ。そんな顔をするな……辛い時こそ、笑え……」
ユーリは黙って頷くのだった。
◆
コリンとユーリが話し合っている頃、迂回していたアビゲイルの騎馬騎士達が近づいてくる音が響いてきた。
その数約十騎。
負傷者の救護と後方への移送の為、騎馬騎士の数が減っていた。
アビゲイルはエドガー達の元へと向かって行く。
岩陰からコリンとユーリがその様子を見つめる。
「此処から見える範囲で約四十騎……」
そう言ってからコリンはロゼの方を見る。
「彼女は? 逃げるなら今のうちだと伝えておけ」
「イエス、マム」
ユーリは不安そうにしているロゼのもとに近づく。
『もうすぐ、騎士達が此処に押し寄せてくる……ロゼ。逃げても良いんだよ』
ユーリの言葉にロゼの目が大きく見開かれる。
『ロゼの身体能力なら、この斜面を降りる位できるでしょ?』
その言葉を聞いて、ロゼが大きく首を振る。
『嫌です……逃げたりしませんっ……最後まで……一緒に居させてくださいっ!!』
『ロゼ……でも、凄く危険なんだよ? あたしも守り切れるか……』
『守って下さらなくて大丈夫です。自分の身は自分で守ります』
『……ロゼ』
黙って俯くロゼの肩を優しく叩く。
『ありがとう、ロゼ』
その言葉にロゼが顔を上げる。
『あたしの後ろから離れないように……』
『ユーリさん』
ユーリはロゼに優しく微笑みかけると、大きく頷くのだった。




