第75話 全員で帰るために
コリンは、クレイモアの爆発によって混乱する騎士団を観察していた。
しかし指揮官らしき騎士が何かを指示すると、穏やかに混乱が収まっていく。
「優秀な指揮官のようだ……これ以上はのってこないか……」
コリンは構えていた銃を下ろす。
「しかし、すぐに追いかけてこない所を見ると、相当に罠を警戒しているようだ……」
コリンはほんの少しだけ口角を上げる。
「(仕掛けたクレイモアはあと一つ……これは回収せずに保険だな)」
そう呟くと、素早く茂みの中に身を隠す。
「そろそろユーリに合流しないと……トランシーバーが煩くてかなわん」
そう言ってコリンは岩山を見つめる。
「後ろ側はなだらかな斜面になっているのか……奴ら馬で攻めてくるか?」
コリンは思考を巡らせながら、岩山を目指すのだった。
◆
アビゲイル騎士団長は悩んでいた。
「(このまま『魔女』を追撃するべきか……それとも、エドガーと合流すべきか……)」
アビゲイルは『魔女』の仕草を思い出す。
「明らかに挑発していた……そして挑発に乗った結果がこれだ」
目の前の惨状を見つめる。
「これで終わりとは考えられない……くっ」
苛立ちから思わず手綱を引いてしまう。
ブヒヒヒッ
馬が悲鳴のような声を上げる。
「(冷静になれ……アビゲイル……可能性の問題だ……こちらのルートを進むのはリスクが高すぎる)」
「……撤退だ……一時撤退して、エドガー達と合流する」
「は?」
傍らにいた騎士が思わず尋ねる。
アビゲイルが顔を上げる。
「一時撤退する。撤退して、エドガー達と合流するっ」
その命令を聞いた騎士達がアビゲイルの方を凝視する。
「聞こえなかったのかっ!! エドガー達の元に向かうぞっ!!」
「「「はっ!!」」」
騎士達がワンテンポ遅れて返事をする。
苦渋の選択だった。
「(くそっ……この屈辱は忘れぬぞっ……魔女どもめっ!!)」
◆
その頃。
「(いたっ!!)」
シャムは視界の先にアグネスを捉えた。
アグネスは大きく茂った草の根元に座っていた。
シャムがゆっくりと近づいて行く。
「(そうだ……合図をしないと……魔道具で撃たれちゃうってユーリさんが言ってたっけ)」
シャムは一旦立ち止まると、舌を鳴らす。
チッ、チッ、チッ
チッ、チッ、チッ
アグネスの頭が上がり、シャムの方を見る。
シャムは草を掻き分けて顔を出す。
それを見てアグネスの顔が綻ぶ。
『しゃむ』
下手糞な発音だったが、シャムの名を呼ぶ。
シャムはアグネスのもとに駆け寄ると、抱えていたグレネードランチャーを手渡す。
『ありがと……しゃむ』
『どういたしまして……』
何故だか分からなかったが、シャムの目から涙が零れ落ちる。
それを見てアグネスが無言で慌てる。
そんなアグネスを見て、シャムは泣き笑いするのだった。
◆
「ヴァスケス先輩……起きてますか?」
ユーリが担架の上のヴァスケスの耳元で囁く。
ヴァスケスの目がゆっくりと開いていく。
「……ユーリか……てことは、進展なしか……」
「何で分かるんですか?」
「……救助されてりゃ、サワコの鬼みたいな顔が見えた筈さ……」
「……佐和子先生に言いつけちゃいますからね」
ヴァスケスは口角を上げる。
「……コリンは?」
「まだです……アグネスも」
「……そうか……」
ヴァスケスが大きく息を吸い込む。
「状況は?」
「良くありません。下に騎士達が集まっています……突入してくるのも時間の問題かと」
「なるほど……」
ヴァスケスがそう言ってから顔を横に向ける。
手元に置いておいた拳銃を握る。
「……先輩」
「しっ」
ヴァスケスの右手が視線の先に照準を合わせる。
ユーリも腰のホルスターに手を伸ばす。
チッ、チッ、チッ
チッ、チッ、チッ
舌を鳴らす音が聞こえる。
「コリン班長っ!!」
思わずユーリが声を上げる。
岩の向こうからコリンが姿を現す。
「でかい声を出すな、ユーリ。せっかくの符牒が台無しだぞ?」
コリンは岩を乗り越えてユーリとヴァスケスのもとに駆け寄る。
「ヴァスケス……どうだ?」
「最悪……お前の顔を見たせいかな……」
「ばかもの……」
コリンはそう言って小さく笑う。
「下に騎士達が集まっています」
「知っている……もうすぐもっと増える」
コリンの答えにユーリが情けない表情を浮かべる。
「アグネスは?」
「まだ下に居ます。シャムにグレネードランチャーを持って行って貰いました」
「……ああ……弾を持たせていたな……良い判断だ」
「コリン班長……」
ユーリはコリンの目を見つめる。
コリンもじっとユーリの目を見て答える。
「そんな顔をするな……みんな連れて帰ってやる。お前も、ヴァスケスも、アグネスも……」
「……イエス、マム」




