第74話 信頼を繋ぐ光
『シャム。本当に大丈夫? 頼んでおいてこんな事を言うのはおかしいと思うけど』
ユーリは身支度を整える猫獣人のシャムに話し掛ける。
『大丈夫ですよ。隠密性のある動きは、シャムの方が得意ですから』
傍らにいたロゼがシャムの代わりに答える。
『危険な任務だよ……』
ユーリがそう言うと、シャムはニコッと笑う。
『こう見えて、あたし身が軽いんですよ? この位の高さから飛び降りる位、なんてことありません』
『シャム……』
シャムは両手でグレネードランチャーを抱える。
『必ず届けます。信じて下さい』
『……うん』
シャムがそう言うと、岩陰から草原の様子を観察する。
岩が垂直に切り立っていて、昇るのも、降りるのもきつい場所。
シャムはそこから身を投げる。
「……!?」
ユーリが思わず息をのむ。
シャムは空中でくるっと回転をして、ほとんど音を立てずに地面に着地する。
『すごっ』
『猫獣人ですから……』
少し羨ましそうにロゼが答える。
「(シャム……頼んだよ)」
ユーリはシャムを見送りながら、障害となる冒険者がいないかを探るのだった。
◆
「(何でこんな事引き受けちゃったんだろ)」
シャムは空中に飛び出した時にそんな事を考えていた。
「(……あの恐ろしい魔道具を使う女性達……)」
シャムの中では、彼女たちが何者なのかよくわからない。
「(でも……)」
くるっと空中で一回転してから、なるべく音を立てないように着地する。
「(あの、アンソニーから解放してくれた女性達……)」
「(銀色の髪の人はまだ怖いけど……ユーリは優しい……)」
シャムはいつも食事を分けてくれるユーリを不思議に思っていた。
「(ユーリは獣人だからって差別しない……ご飯も分けてくれる)」
草むらの深い場所に身を潜める。
一度停止して、周囲の音を感じ取る。
自分でも耳が大きく動いているのが分かる。
「(周囲に人の気配は無い……)」
シャムは耳を後ろに倒して頭を上げる。
「(さっき、あそこから見えた場所はあそこだから……あっちだ)」
シャムは草むらの中を、ほとんど音を立てずに移動していく。
騎士の集団が近づいてくる。
「(けっこう分散してる……どうしよう)」
シャムはグレネードランチャーをぎゅっと抱える。
「(今更戻れないし……)」
それでもシャムが移動を続けていると、騎士の一人が不自然に揺れる草に気付く。
『ん、おい。誰かいるのかっ!?』
騎士は大きな声で誰何する。
「(やばい……見つかっちゃう……)」
シャムは必死に体を小さくして身を隠す。
『おいっ!! 誰かいるのかっ!?』
騎士の大きな声に、他の騎士達も近づいてきてしまう。
「(ど、どうしよう……近づいてきちゃう……)」
大声で誰何していた騎士が、耐えきれずにガチャガチャと鎧を鳴らして近づいてくる。
「(ひいっ……やっぱりやめておけばよかった……)」
シャムの耳が完全に後ろに折りたたまれてしまう。
ガシャンッ!!
突然、近づいてくる騎士の横の空間に、白いひび割れが浮かび上がる。
『な、何っ!?』
騎士が驚愕して、足を止める。
ガシャ、ガチャーンッ!!
魔道障壁が破壊され、騎士の周囲にキラキラと小さな光の粒が現れて、消えていく。
『岩の上から狙っているぞっ!!』
背後の騎士達が岩の上を指さす。
そこにはユーリが銃を構えている姿が見えた。
『くそっ!! こざかしい真似をっ!!』
シャムに近づいていた騎士が踵を返す。
騎士がユーリに向かって駆けだそうとすると、背後からエドガーの怒声が響く。
『勝手に動くのではないっ!!』
『し、しかし……』
『アビゲイル団長の指示を待つのだ……何処に罠が仕掛けられているか分からんのだぞ』
『……はっ』
騎士は悔しそうに肩を揺らす。
その様子を見てエドガーが声を掛ける。
『指示を待て……いざ突撃となれば、そなたの出番ではないか』
『……エドガー副団長』
エドガーは騎士に頷いて見せる。
そして岩の上のユーリを睨みつける。
『(必ず、仕留めて見せる……)』
そして騎士達はシャムの傍から離れていく。
シャムは大きく息を吐く。
「(助かったのかな……怖いけど……今のうちに)」
シャムは震える膝を叩くと、移動を再開するのだった。
◆
シャムの周囲から騎士達が引いていく。
その光景を見てユーリは大きく息を吐く。
『ユーリさん。ありがとうございます』
ロゼがユーリに頭を下げる。
『え? お礼を言われるような事はしてないよ?』
『いいえ。ユーリさんはシャムを守ってくださいました……人族の方に虐げられる事はあっても、庇われる事なんてありませんでしたから』
ロゼはそう言って目を伏せる。
『先程はああ言いましたが……本当はシャムが使い捨てに……見殺しにされるんじゃないかと……』
『そんな事しないよっ!!』
ユーリが食い気味に否定する。
ロゼは目を潤ませて首を振る。
『疑ってしまって……申し訳ありませんでした……ユーリさんはいつも食事を分けてくれたり、寝床の心配をしてくれたりして下さっていたのに』
ユーリはその言葉を聞いて、吐き出し掛けていた言葉を飲み込む。
『ユーリさんが魔道具を使ってシャムを庇って下さったこと……決して忘れません』
そう言ってロゼはユーリの顔を見る。
『こちらこそだよ……シャムに危険な思いをさせてしまって……でも、感謝している。これでアグネスが生き残る可能性が高くなったんだもの』
『ユーリさん』
ユーリはロゼに微笑みかける。
『さあ、準備しよう。いよいよ敵が押し寄せてくるみたいだしね』
『はい』
ユーリとロゼは頷きあってヴァスケスのもとへと移動するのだった。




