第73話 光が繋ぐもの
エドガー達が陣形を整えていると、岩山の向こう側から爆発音が聞こえてきた。
「何事だっ!?」
「おそらく、奴らの魔道具が弾けた音かと……」
「奴らはまだ魔道具を持っているのか……侮れんな」
「……はい」
エドガーの言葉に、傍にいた騎士が悔しそうに頷く。
「向こうにはアビゲイル団長がいらっしゃる……酷い状況にはなっていないと思うが……」
「団長と合流しますか?」
その言葉にエドガーは岩山の裾を見つめる。
「(アビゲイル団長が苦戦するほどの罠が張り巡らされているとしたら……うかつには動けんな)」
既に多くの騎馬と騎士を失っている。
これ以上の損害を出す事は許されなかった。
「……まだ救難信号も出ていない……当初の予定通り、挟撃を行う」
エドガーは自分に言い聞かせるように声に出す。
「聞けっ!! 我々はアビゲイル団長の合図とともに、挟撃を行う。いつでも出られるようにしておくのだっ!!」
「「「おおおおっ!!」」」
騎士達はエドガーの言葉に雄叫びを上げる。
「(……逸るな……数では圧倒的に有利なのだ……確実に仕留めるのだ)」
エドガーは固く拳を握るのだった。
◆
騎士達の突撃によって、幸運にも冒険者たちの追撃から分断されたアグネス。
しかし、その代償は大きかった。
「くそ……ドジった……」
アグネスの左肩から肘に掛けて、酷い裂傷を受けていた。
騎士達の突撃で混乱した冒険者が、闇雲に振り回した剣先がアグネスを捉えてしまったのだ。
アグネスは既に止血帯で出血を止めていたが、此処に来て左手が使えない事は非常に厳しかった。
「(全部片手かよ……参ったな)」
そう言いながら、今はマガジンの交換をしている。
「(しかし……騎士団の連中、動かないな)」
アグネスは草むらの深い場所に身を隠し、騎士団の様子を伺っている。
「(……ユーリ達と合流したいけど……騎士団が邪魔だな……かといって迂回する時間も無いし……せめてこれが使えれば……)」
アグネスは止血帯を取り出すときに、背嚢から取り出したグレネードの弾を見つめる。
全部で六発。
しかし、弾だけあっても使えない。
「(ランチャーがあれば……)」
アグネスはもう一度岩山を見る。
すると、岩陰から顔を出しているユーリの姿に気付いた。
「(ユーリッ……無事だったんだ)」
どうやらユーリは自分を探しているようで、何度も草原をキョロキョロと見ている。
「(トランシーバーは壊れているし……何とか、ユーリと連絡が取れないか?)」
アグネスは必死になって考える。
「(そうだ……鏡……確かコンパスの裏側が鏡になっていた筈)」
アグネスは肩のポーチに入れておいたコンパスを取り出す。
裏側が鏡になっている。
「(これなら……気づいてくれるか?)」
アグネスは鏡を反射させて、ユーリが顔を出した辺りを照らす。
「(気づいてくれっ、ユーリッ)」
アグネスは祈るような気持ちで、光を当て続ける。
◆
ユーリは騎士団に気付かれないように、草原の様子を確認する。
「(動かない……何で動かないんだろう……)」
コリン班長にトランシーバーで呼びかけているが、返事が返ってこない。
「(爆発音が聞こえたから……無事だとは思うんだけど……)」
ユーリは沸き上がる不安を押さえつけながら自分に言い聞かせる。
「(此処を任されたんだ……ヴァスケス先輩を託されたんだ……ロゼとシャムだって守ってあげないとっ!!)」
ユーリは奥歯を噛みしめて、もう一度草原の様子を見る。
その時だった。
目に光が飛び込んできた。
「な、何っ?」
思わず声が出る。
片手で目を隠すようにして光が差し込んでくる方向を見る。
「あ」
ユーリの目から涙が零れ落ちる。
視線の先でアグネスが、グレネードの弾を持って手を振っていた。
◆
アグネスはユーリが自分に気付いた事を理解した。
だからすぐに、グレネードの弾を持って手を振った。
「(ユーリに、この意味が通じてくれると良いんだけど……)」
「(でも、通じたとして、どうやって此処までランチャーを運ぶ?)」
「(投げて届く距離じゃないし……ユーリはあそこから離れられないだろうし……)」
アグネスは急に自分の心が萎んでいくのが分かった。
「(却って混乱させたかな……くっ……しかしなあ……他に手が無いし……)」
アグネスが頭を抱えていると、岩陰からユーリがランチャーを持って大きく振って見せてきた。
「(……意味は通じたみたい……でも、どうやって……)」
そんな事を考えていると、ユーリの横からシャムが顔を出してきた。
ユーリがアグネスの場所を指し示す。
シャムはアグネスの方を見ると、大きく頷いた後、その顔を引っ込めた。
「(……まさか……シャムたちに運ばせる気か!?)」
アグネスは手を振るのを止めて、草むらに座り込むのだった。




