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第72話 怒れる騎士たち


 岩山の上からユーリが草原を望む。


 右手からは激しい白煙が上がり、棚引いてきた煙で視界が塞がれる。


 その白煙の中に、アグネスの姿が見え隠れする。



「アグネスッ!!」



 ユーリがその名前を叫ぶが、アグネスには届かない。


 更によく見ると、数人の冒険者がアグネスを取り囲むように近づいているのが見えた。



「アグネスッ!! 囲まれるよっ!!」



 ユーリが更に大きな声で叫ぶ。



 ガシュッ、ガツンッ


 そこに弓矢が数本飛んできて、ユーリのすぐ傍に当たる。



「ちいっ!!」



 弾ける岩の破片がユーリに当たる。


 それでもユーリは怯まない。



「援護しなきゃっ」



 ユーリはアグネスに近づく冒険者に照準を合わせる。


 冒険者の動きが止まる。



 その瞬間をユーリは逃さない。



 パンッ、パンッ、パンッ



 ユーリの放った銃弾のうち、一発が冒険者の背中に命中する。


 咄嗟に反撃をしようとした冒険者がユーリの方へ振りむく。



 パンッ、パンッ、パンッ



 其処へ追加の銃弾を撃ち込むと、冒険者がこちらを向いたまま地面に崩れ落ちる。



「まず一人……次は何処だっ?」



 ユーリは次の標的を探す。



「(アグネス……)」



 ユーリが冒険者を仕留めた時、いよいよ騎馬騎士の集団が近づいてきた。


 先頭の騎馬騎士が設定したキルゾーンの中に侵入してくる。



「思ったより早いっ!!」



 ドドドドドドドッ



 騎馬騎士達は燃えさかる下草をものともせずに突っ込んでくる。


 低い蹄の音が不気味に響く。



 ユーリが騎馬騎士に向けて発砲する。



 パンッ、パンッ、パンッ



 騎馬騎士の前の空間に、蜘蛛の巣状の白い罅が浮かび上がる。


 銃弾は確かに命中したが、魔道障壁を破壊する事は出来なかった。



『俺に続けっ!!』



 アビゲイルの参謀でもあるエドガーが腰の剣を引き抜いて突っ込んでくる。



『『『おおおおっ!!』』』



 騎士達が雄たけびを響かせながら草原を切り裂いてくる。



 ドドドドドドドッ



 騎馬騎士達はアグネスと冒険者が戦っている場所を目がけて走り込んでくる。



 その突撃によって、白煙が大きく揺らぐ。


 彼らの目は既に冒険者達すら見ていなかった。



 二十騎を超える騎馬騎士が全てを薙ぎ払い、蹴散らしながら通過していく。



「アグネースッ!!」



 ユーリは絶叫しながら銃弾を撃ち込む。


 しかし、騎士は一人も倒れない。



「うああああああああああっ!!」



 騎馬騎士が通過した跡は、激しく地面が掘り返され茶色に変色している。


 白煙と土埃が混ざり合い、複雑なコントラストを生み出す。



『全員停止っ!!』



 そしてエドガーは騎馬騎士を停止させる。


 エドガーの視線の先には、『草原のへそ』と呼ばれる巨石が鎮座していた。


 ◆


 一方のアビゲイル。


 今は隊列を組んで慎重に馬を進めていた。



「あの挑発は明らかにおかしかった……絶対に何かある」



 アビゲイルは自分に言い聞かせるように呟く。


 先頭を行く、斥候役の騎士が片手を上げて進行を停止させる。



「何かあったか?」


「はい。前方に罠らしきものが……草むらに水平に糸のようなものが見えます」



「糸? 確かに怪しいな……よし、周囲を探索しろ」


「「はっ」」



 二人の騎士が、斥候役の騎士のもとに向かう。



「罠か……やはり『魔女』だな……実に狡猾だ」



 アビゲイルが呟くと、探索していた騎士から報告が上がる。



「何もありません。ただ、糸が引いてあるだけですっ!!」


「何? 何のために? よく探せっ」


「は、はい。しかし……」



 騎士が言い淀んでいる時だった。



 ガサッ



 騎士達の足元に、緑色の丸い物体が投げ込まれる。



「「!!」」



 騎士達がその物体を凝視した瞬間、轟音と爆風が彼らに襲い掛かる。



 手榴弾が爆発したのだ。


 騎士達に掛けられていた魔道障壁が一気に破壊され、手榴弾の破片が襲い掛かる。



 破片は簡単に金属鎧を貫いた。



「ぎゃああああっ!!」


「うがああっ!!」



 騎士達が悲鳴を上げながら、地面をのたうつ。


 後続の騎士達はその光景を黙って見つめている事しか出来なかった。



 アビゲイルの顔から表情が消える。



「だ、団長っ!! 指示をっ、指示をっ!!」



 傍にいた騎士がアビゲイルに声を掛ける。


 そしてアビゲイルが我に返る。



「救助だっ!! 負傷者を救助しろっ!!」


「「はいっ」」



 倒れた騎士達を助けるために、数名の騎士が駆け寄る。



 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ


 ガシャ、ガシャ、ガシャーンッ!! 



 騎士達の前の空間に白いひび割れが浮かび上がる。



「ど、何処だっ!!」



 騎士達が周囲を見回すと、二十メートルほど先の場所で、コリンが立位の姿勢で銃を構えているのが見えた。



「ふざけやがってっ!!」


「お、おいっ!! 救助が優先だっ!!」


「ふざけるなっ!! 仲間がやられているんだぞっ!! あいつにっ!!」



 騎士はコリンを指さす。



「お前が付いてこないなら、俺だけでも良くっ!!」


「お前は救助に向かえっ!! 残りの者は俺に続けっ!! ひっ捕らえろっ!!」


「「おおっ!!」」



 三人の騎士がコリンを追って行ってしまう。



「ま、待てっ!! 救助が優先だっ!!」



 残された一人が叫ぶが、他の騎士達にはその声は届かない。


 騎士達が草むらの奥に消えていく。



 そして。



 彼らは今度こそ、本当にクレイモアに接続されているワイヤーを足に引っ掛ける。



 カチッ



 ロックが外れる。


 湾曲したクレイモアの表面が弾ける。



 クレイモアが射出した無数の礫が騎士達をズタズタに切り裂く。


 今度は悲鳴も上がらない。



 その様子を、コリンはじっと見つめている。



「……まだだ……腹を立てろ。追いかけて来い……」



 コリンは挑発するように、こちらを見ている騎士達に向けて発砲するのだった。



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