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第71話 誘い込まれた騎士団

 アビゲイル率いる辺境伯騎士団が『草原のへそ』に近づく。


 騎乗したままアビゲイルが剣を引き抜く。



「半分は煙の上がっている方向へ進めっ!! 残りは我と共に反対側へ回り込むっ!!」


「「ははつ!!」」



 各集団の隊長の騎士がアビゲイルの指示に返事をする。


 綺麗に隊列が分かれて、巨石を挟み込むように進軍していく。



「アビゲイル団長、よろしいのですか?」



 副官の騎士がアビゲイルに尋ねる。



「一番槍の事か? 構わん。我々の目的は奴らの討伐であるからな。誰が討ち取ろうと目的を果たせればそれで良いっ」


「承知しました……」



 アビゲイルは並走する副官に逆に尋ねる。



「不服か?」


「い、いえ、そんな訳では……ただ、此処まで来て敵を討ち取れなければ……」



 副官は表情を曇らせる。



「安心しろ。機会は必ず来る……それより油断するなよ。数で圧倒しているとしても、相手は『魔女共』なのだからな」


「『魔女共』……ですか……確かに、しっくりきますね」



「なかなか良い名付けであろう?……我々はそんな『魔女共』を退治する正義の騎士なのだからな」


「はい」



 副官が返事をした時だった。



 ガシャガシャガシャーンッ、ガシャガシャガシャーンッ


 副官を守っていた魔道障壁に突然ひびが入り、数枚の魔道障壁が砕け散る。



「敵だっ!!」



 騎馬の騎士達が散開する。


 アビゲイルが馬の速度を緩め、前方に目を凝らす。



 そこにはコリンが立位の姿勢で銃を構えている姿が見えた。



「あの距離から……うぬうう」



 ガシャガシャガシャーンッ、ガシャガシャガシャーンッ


 再び、副官の魔道障壁が砕ける。



「狙われているっ!!」



 副官が馬を止める。



 ガシャガシャガシャーンッ


 副官を守っていた最後の魔道障壁が砕け散ると、次の瞬間、副官の鎧に小さな穴を穿つ。



「ぐあああっ」



 副官が馬の上から崩れ落ちる。



「アントニオっ!?」



 アビゲイルが副官の名前を呼ぶが、アントニオの身体がズルズルと馬上から地面へと落下する。


 アビゲイルは目の前の光景が信じられなかった。



 人が立っているとやっとわかる距離。


 そこから魔女共は正確に礫を貫かせる。



「お、お、おのれぇっ!! よくもっ!!」



 アビゲイルは、まだ立位の姿勢を崩さないコリンを睨みつける。



「……敵はたった四人だ……踏み潰してやるっ!!」



 アビゲイルの瞳に烈火のような炎が宿るのだった。


 ◆


 コリンは銃を構えたまま、騎士団を見据える。



「マガジンの半分を使ってやっと一人か……厄介だな、あの障壁は」



 視線の先で騎士達がこちらを見ているのが分かる。



「さあ、こっちに来い……追いかけて来い」



 コリンは挑発するように、騎士に向かって銃弾を放つ。



 パンッ、パンッ



 騎士の前の空間に、蜘蛛の巣のような罅が広がる。


 その光景を確認してコリンは銃を下ろす。



 そして挑発するように手を突き出して、指先を動かして見せる。



「さあ、こっちに来い」



 そう言ってから、コリンは騎士達に背中を向ける。


 背後で殺気が沸き立つのを感じながら、コリンは走り出すのだった。


 ◆


「くそっ!! 挑発してきやがった!!」


「見たかあの態度をっ!! 騎士団を舐めてやがるっ」


「団長の仰る通りだっ、踏み潰してやれっ!!」



 騎馬騎士達の殺意が急速に燃え上がる。



「ええい、俺が行くっ!!」



 堪えきれなくなった騎馬騎士の一人が飛び出してコリンを追いかける。


 それをきっかけに複数の騎馬騎士達が続いていく。



 アビゲイルはその時、何故か背中に寒いものを感じた。



「なんだ……この胸騒ぎは……」



 しかし、駆けだして行った騎馬騎士達を止める手立てはない。


 アビゲイルも胸の中に不安を抱えたまま馬を走らせる。



「……迷うな。敵は四人だ……数で押し切る」


 ◆


 コリンは背後から騎士団が追いかけてくるのを、振り返りながら確認する。



「追いかけてきたな……」



 コリンは素早くマガジンを入れ替える。


 フル装填されたマガジンを装着する。



 そして、中腰の姿勢になって騎馬騎士達に銃口を向ける。



「確かにお前たちは守られている……が、こっちはどうだ?」



 コリンの銃口がほんの少しだけ下がる。


 引き金を引く。



 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ



 銃弾はコリンが狙ったとおりに突き進む。


 騎乗する騎士ではなく、騎馬に向かって。


 ◆


 先頭を走る騎馬に銃弾が命中する。



 ブヒヒヒヒーン



 悲鳴にも似た嘶きが上がり、馬が転倒する。


 すぐ後ろを走っていた騎馬がそれを避けきれずに、落馬した騎士を跳ね飛ばす。



「うおおおおおおっ!!」



 密集陣形を取って騎馬を走らせていたために、転倒の連鎖が発生する。



「避けろっ!! 前をよく見るんだ!!」



 騎士達が掛け声を掛け合う。


 しかし、混乱する騎士達を尻目に、銃弾は馬達をターゲットにしていく。



 突然の激痛に、棹立ちになる騎馬。


 そして振り落とされる騎士。



 魔道障壁を纏っていても、落馬の衝撃は無傷という訳にはいかない。



 次々と行動不能になる騎馬と騎士が増えていく。



「馬を狙っているぞっ!!」


「なんと卑怯なっ!!」


「やはり魔女だな……こんな手段を採るとはっ」



 騎士達のヘイトが激増する。



「陣形を組み直す。負傷者は後方へ下がれっ!!」



 アビゲイルが混乱する場を収めるために大声で鼓舞する。



「奴らの魔道杖は一直線にしか飛んでこない!! 射線が向いたら避けろっ!! いいなっ!!」



 アビゲイルは混乱をわずかな時間で収束させると、コリンが姿を消した方向を睨む。



「何があるか分からんっ!! ここからは慎重に行くぞっ!!」



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