第70話 騎馬騎士、突入
辺境伯騎士団が蹄の音も勇ましく草原を疾走している。
先頭にはアビゲイル騎士団長。
その横を騎士団の旗を掲げる旗手が続き、その後ろから約五十騎の騎馬騎士達が続く。
目指す『草原のへそ』が見えてくると同時に、周囲の草原から白煙が上がっているのが見えてきた。
「どうやら、奴らと冒険者たちが戦っているようだっ!! このまま突っ込むぞっ!!」
「「「おうっ!!」」」
アビゲイルが鼓舞すると、背後の騎士達が雄叫びを上げる。
騎馬騎士達の疾走する速度が上がる。
「此処で決着をつけるっ!! 二手に分かれて進むぞっ!!」
アビゲイルが指示を出すと、後続の騎馬騎士達が二つに分かれる。
ドドドドドドッ
騎馬騎士達の疾走で地面が揺れる。
アビゲイル達が接敵するまで、あと僅かだった。
◆
騎馬騎士達の近づく音は冒険者たちにも聞こえ始めていた。
彼らは負傷して後方へ下がってきた冒険者達だった。
「な、何の音だ?」
「馬だ……しかも、相当な数だぞ」
「そんなにたくさんの馬が……なんで?」
冒険者たちが音のする方向へ振りむく。
草原の中に、辺境伯騎士団の旗がはためいているのが見えた。
「辺境伯騎士団だっ!?」
「な、何だってっ!?」
「街から相当離れているんだぞ、此処はっ!?」
冒険者たちが口々に声を上げる。
騎馬騎士達の蹄の音は確実に近づいていた。
◆
コリンが異変に気付く。
「(この音は……ユーリが言っていた騎士団の騎馬騎士達かっ!?)」
咄嗟に太腿のポケットに手を伸ばす。
「(想定より接近してくる速度が速い……くそっ)」
指先に手榴弾が触れる。
「(手榴弾が三つ……全然足らん……せめてクレイモアを設置した場所に引き寄せたいな)」
コリンは胸に手を当てる。
「(フル装填したマガジンが四つ……120発……厳しいな)」
コリンの顔が苦渋に歪む。
「(それでも……やるしかない)」
コリンはその場で立ち上がる。
草原の中を、旗が結構な速度で近づいてくるのが見える。
「(あのガラスみたいな障壁を身に纏っていると考えるべきだろうな……)」
コリンが騎馬騎士達を見つめていると、砂塵が二つに分かれるのが見えた。
「(二手に分かれた? 挟撃するつもりか……)」
コリンの口角がほんの少し上がる。
「(なら、やりようがある……分の悪い賭けだが……)」
そう言って暗い笑みを浮かべるのだった。
◆
ユーリは岩の陰に身を隠しながら草原を見つめる。
魔法が打ち込まれた辺りから白煙が上がり、煙の根元がオレンジ色に輝いていた。
「魔法攻撃で火が付いたんだ……白煙が凄い勢いで立ち込め始めている……」
アグネスが居ると思われる辺りから、散発的に発砲音が聞こえてくる。
「アグネス……がんばれ……」
ユーリは目を瞑る。
「(アグネスだって頑張っているんだ。あたしも、あたしに出来る事をやるだけだ……覚悟を決めろ、あたしっ!!)」
ユーリが目を開く。
もう迷いはなかった。
「(怖くないって言ったら噓になるけど……)」
ユーリは銃を構えて頭を上げる。
「此処には絶対近づけないっ!!」
岩陰から頭を上げたユーリを狙って、弓使いが灌木の陰から身を乗り出す。
その動きをユーリが素早く視界にとらえる。
「そこっ!!」
パパパパパパパパッ
灌木の後ろに人が倒れる。
「次は何処だっ!!」
ユーリは叫びながら草原の中に隠れている敵を睨みつけるのだった。
◆
アグネスは孤軍奮闘していた。
不意に現れる、近接戦に特化した冒険者と、中距離から攻撃を仕掛けてくる魔法使い。
「あたしだから良いようなものの……ユーリだったら持たないなっ!!」
今もアグネスは大型のナイフで、冒険者の斬撃を受け止めていた。
『くっ……女のくせに……強いっ!!』
冒険者が何か言っているが、お互いに言葉が分からないので理解できない。
ただ一つ理解できるのは、お互いに殺意を持って戦っているという事だけだ。
焦れた冒険者が、もう一度斬撃を繰り出そうとして長剣を引く。
その瞬間を見逃さずに、アグネスは冒険者に抱き着くように間合いを詰める。
『くそっ、こいつっ!!』
冒険者が引き剥がそうと後退する足に、アグネスが自分の足を絡ませる。
『ぐあっ!!』
冒険者が仰向けに押し倒される。
マウントを取ったアグネスは、素早くナイフを振り下ろす。
『ぐあああああっ!!』
返り血でアグネスの顔が染まる。
「ふうっ、ふうっ、ふうっ」
アグネスが大きく肩で息を吐く。
すぐに体を起こして、その場から移動する。
そしてその時、地面に伝わる振動を感じ取る。
「この振動は……何が近づいてきている?」
アグネスがその場で立ち上がる。
視線の先に大きな旗がはためき、銀色の鎧を陽光で反射させながら近づいてくる集団を捉える。
「……辺境伯……騎士団か」
アグネスはそう呟くと、振り返って背後で燃え上がる草原を見る。
「引き連れていくのは気が引けるが……合流しなけりゃ……やられる」
アグネスは素早く踵を返すと、白煙の中へと飛び込んでいくのだった。




