第69話 増援、迫る
「アグネスッ!!」
ユーリは岩山の上から大声で叫ぶ。
ガツガツと弓矢が岩に当たり破片が飛び散る。
パパパパパパッ
ユーリはフルオートで撃ち返す。
空薬莢が岩山の地面に金属音を立てながら散乱する。
「アグネスッ!! アグネスッ!!」
ユーリが必死になって同期の名前を呼ぶ。
ほぼ同時に手榴弾が弾ける音が響く。
それはまだ、アグネスが無事だという事の証でもあった。
しかし、油断はできない。
弓矢が複数の方向から打ち込まれる。
「もうっ……しつこいっ!!」
ユーリは岩陰から顔を出して弓の射手を探す。
その時、視界の端にあるものを捉える。
「えっ?」
思わず声が出る。
「……まじ……」
動きを止めたユーリに弓矢が襲い掛かる。
しかしユーリは弓矢に気を取られること無く、遠くを見つめる。
「……あれは……辺境伯騎士団の騎馬騎士……」
ユーリの視線の先には、辺境伯騎士団の団旗を掲げる騎馬の集団があった。
「何騎いるの……十どころじゃない……二十……三十……いやもっといるっ!!」
ざっと数えただけでもその数、約五十騎。
騎馬の後方には激しい砂塵が舞い上がっている。
「……まずい……まずい……まずいっ!!」
ユーリは慌てて岩陰に身を潜ませる。
「此処に騎馬騎士が追加されるなんて……聞いてないよっ!!」
ユーリの叫び声が、弓矢が岩を削る音にかき消される。
「コリン班長……まずいですっ!!」
ユーリは肩口に着けておいたトランシーバーを掴むと、必死になってコリンを呼ぶのだった。
◆
コリンが匍匐前進をしている時に、不意にトランシーバーからユーリの声が聞こえてきた。
『コリン班長っ!! 聞こえますかっ!?』
コリンはトランシーバーを取り出すと、すぐに応答する。
「落ち着け。どうした?」
『まずいです……こちらに向かって騎馬に乗った騎士団がやってきます。その数約五十です!!』
「ちっ……増援か……」
『あと、アグネスが敵に囲まれてますっ!! ヤバいですっ!!』
「ユーリ、よく聞け。わたしはアグネスの援護に向かう。お前は敵の接近を牽制しろっ!!」
『で、でもっ!!』
「良いからやれっ!! お前ならできるっ!! いいなっ」
コリンはそう言うと通信を切る。
その直後、手榴弾の破裂音が響いてきた。
「アグネス……もう少し頑張れ」
コリンは匍匐の状態から立ち上がると、腰につけていた銃剣を取り出して銃に着剣する。
ガチャッ
そして中腰の姿勢で一気に走り出す。
「こんな所で……死ぬ訳にはいかないんだっ!!」
コリンは草むらの中へ突っ込んでいくのだった。
◆
アグネスは十数人の冒険者たちに囲まれていた。
しかし、姿は見えない。
お互いに気配だけで、魔法を打ち込んだり、銃弾を撃ち込んだりしている。
時折、近接戦闘が得意な冒険者と接敵してしまう。
長剣を振りかぶり、冒険者が斬りかかってくる。
「ちいいっ!!」
アグネスはストックの部分で剣を受け止める。
ガチッ
ガキガキガキッ
アグネスが鍔迫り合いになる前に、前蹴りを冒険者の腹にお見舞いする。
「ぐあっ!!」
冒険者との間合いが開く。
すかさず、アグネスが冒険者に向けて引き金を引く。
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
冒険者の身に着けていた鎧に小さな穴を穿つ。
「ぐあああっ」
冒険者の身体が崩れ落ちると、すぐさま死角から魔法が打ち込まれてくる。
「もうっ!! 勘弁しろよっ!!」
アグネスは叫びながら体を捻って、魔法攻撃をかわす。
着弾した炎の矢が下草に燃え移り、白い煙がくすぶり始める。
アグネスは魔法が飛んできた方向に、牽制射撃を行う。
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
しかし手ごたえが無い。
冒険者たちもヒット・アンド・アウェイの戦術を取り始めている。
「(このままこいつ等を引き連れていくわけにはいかない……少しでも数を減らさないと)」
アグネスは太腿のポケットに手を突っ込む。
中には数少なくなった手榴弾の手触り。
「(……使い切る事になっても、生き延びる事が優先だっ!!)」
アグネスは手榴弾を一つ掴むと、周囲の様子を伺うのだった。
◆
コリンは敢えて迂回してアグネスのもとへ向かう。
「(アグネスの奴……よほど余裕が無いようだ……下手に近づくと同士討ちになる……)」
コリンが注意深く進んで行くと、こちらに背中を向けた弓使いの姿がみえた。
「(此処まで接近されているのか……)」
コリンは物音を立てないようにして銃を構える。
弓使いはまだ気づいていない。
照準を弓使いの背中に合わせる。
「(いまっ)」
コリンが引き金を引く。
銃弾が弓使いの背中に吸い込まれて、そのまま前のめりに倒れていく。
コリンはすぐさま移動する。
「(騎士団の動きも気にはなるが……今は眼前の敵を倒す事が優先のようだ)」
コリンはそう呟いて移動を再開するのだった。




