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第68話 見えざる包囲網


 ユーリが岩山の上から下を覗き込むと、草原の上を黄色の煙が大きく揺らめきながら広がっていくのが見えた。


 その煙の中に、うっすらと人影らしきものが動くのが見える。



「アグネスッ!!」



 ユーリが岩山の上から声を掛けるが返事が無い。


 それどころか、草むらから弓矢が曲射されてきた。



 ガツンッ、ガツンッ



 弓矢は岩に当たり弾かれる。


 ユーリは移動すると、草むらの中を注意深く見る。


 こんもりとした草の陰に人影が動いている。



「そこかっ!!」



 ユーリは人影に向けて射撃を開始する。



 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ



 草むらが大きく動き、掻き分けるようにして人が倒れる。



「(弓矢を持っていないっ?)」



 そう思った瞬間、ユーリのすぐ横に弓矢が飛んできた。



 ガツンッ



「どこからっ!?」



 再び草原を注視する。


 今度は少し離れた場所の灌木の横に人影が見える。



 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ


 ガシャッ、ガシャッ、ガシャーン



 ガラスの砕けるような音が聞こえる。



「(魔道障壁ってヤツだっ!!)」



 ユーリが灌木の陰に向けて再び射撃を行う。


 同時にユーリに向けて複数の弓矢が飛んでくる。



 ガツッ



 一本の矢がユーリのヘルメットを掠る。



「あうっ!!」



 衝撃でユーリが尻もちをつく。


 その間に岩山の右側から爆発音が響く。



 バンッ



 間髪を入れずにもう一度爆発音。



「(アグネスが手榴弾を使っている? そんなに近づかれているんだ……)」



 ユーリは銃のセレクタを切り替える。



「うああああああああっ!!」



 ユーリは叫び声を上げて岩山の縁に体を預ける。


 頭を上げずに、銃だけを出して乱射する。



 パパパパパパパパッ


 バラバラと空薬莢が地面に落ちる。



 パパパッガチッ


 弾を打ち尽くした音が響く。


「くっ」



 ユーリはすぐさまマガジンを外し、新たなマガジンを装着する。



「今度は……絶対見定める」



 ユーリは大きく息を吸い込むと、顔を出して草原を睨む。


 灌木の横に、こちらに向けて弓を構えている人物を見つける。



「そこっ!!」



 パパパパパパパパパッ



 激しい反動で銃身が跳ね上がる。



「(しまった……連射モードのままだった)」



 すぐさまセレクタを切り替える。



 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ



 弓を構えていた冒険者が倒れる。


 しかしすぐに別方向から弓矢が飛んでくる。



「くっ、このやろうっ!!」



 ユーリは大きな声で悪態を吐くのだった。


 ◆


 岩山の左手に展開しているコリン。


 コリンの相手に反して、反対側から激しい射撃音が聞こえてきた。



「こっちではなかったか……ぬかった」



 コリンは思わず歯噛みする。



「いや……判断するのはまだ早い……」



 コリンは気配を消して地面に伏せる。



「向こう側が陽動とも考えられる……きついだろうが、二人にはもう少し我慢してもらう……」



 そう言ってコリンは草むらの中を匍匐前進して行くのだった。


 ◆


「残り五個か……くそっ、しつっこい奴らだっ!!」



 アグネスはポケットの中の手榴弾の数を手探りで数える。



「(いっその事、突っ込んでやろうか……)」



 そう考えて慌てて首を振る。


 自分の中にそんな破滅衝動がある事にアグネスは苦笑する。



「(冷静になれ、アグネス。一人で飛び込んでどうする……やはりここはユーリとの合流を優先だ)」



 アグネスは耳を澄ませる。


 手榴弾の攻撃が功を奏したのか、周囲から冒険者の気配が消えている。



「(今のうちに……移動だっ)」



 アグネスが中腰になり、その恰好で駆け出す。


 と、数歩進んだところで、強烈な悪寒が体を駆け巡る。



「(なんかヤバいッ!!)」


 ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ



 アグネスが急停止すると、目の前を炎の矢が数本通り過ぎていく。



「(また、魔法かよっ!!)」



 アグネスは炎の矢が飛んできた方向に銃を構える。


 草むらの向こうに人影が消えていくのが見えた。



「こいつっ!!」



 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ


 ガシャンッ、ガシャンッ、ガシャーンッ!! ガシャンツ



 魔道障壁の砕ける音が響く。



「(あのガラスみたいな奴か……面倒だなっ!!)」



 アグネスは更に引き金を引く。



 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ


 ガシャンッ、ガシャーンッ!!



 魔道障壁の砕ける音が聞こえなくなる。



「逃がしたかっ!?」



 アグネスは再びその場に足止めされるのだった。


 ◆


 辺境伯騎士団。


 冒険者たちの救護が終わる頃、『草原のへそ』の方向に見慣れない色の煙が立ち上るのが見えた。



「あれは何だ? 冒険者たちの狼煙か?」



 アビゲイルが傍にいた騎士に尋ねる。



「いえ。狼煙ならもっと垂直に上る筈です……それに黄色の煙は見た事がありません」



 そう言って冒険者たちを見る。


 すると救護を受けていた冒険者たちも口を開く。



「確かに狼煙の色には意味がありますが……黄色は聞いた事がありません」



 その言葉に、アビゲイルの表情が強張る。



「という事は……あの煙のもとに奴らがいる可能性が高いという事か……」



 アビゲイルは煙を見つめながら、傍らの騎士に尋ねる。



「すぐに出陣できる騎馬騎士は何人だ?」


「おおよそ三十から四十騎かと」


「半分か……しかしそれなら何とかなりそうだ」



 アビゲイルは不敵な笑みを浮かべる。



「魔法使いたちを集めろ。出陣前に可能な限り魔道障壁を掛けさせる」


「はっ」



「幾ら礫の攻撃が強力であろうと、魔道障壁が壊される前に接近すればよいだけだ」



 アビゲイルはそう言って親指の爪を噛むのだった。




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