第67話 草むらの敵影
冒険者たちのあまりの惨状に、アビゲイルは馬を降りて冒険者に駆け寄る。
その中に以前会話を交わした事のある冒険者がいる事に気付いた。
「おい、しっかりしろ。目を覚ませっ!!」
アビゲイルは冒険者の頬を叩く。
パシッ、パシッ
「う、うう……」
冒険者の目がゆっくりと開いていく。
「気づいたか……何があった。説明しろっ」
アビゲイルは冒険者の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「……き、騎士様……」
「何があった。この惨状は何だっ!?」
冒険者は声を震わせながら、途切れ途切れに答える。
「わ、罠だ……魔道具が……いきなり……弾けたんだ」
「それで?」
「仲間が逃げ出したんだ……おれは止めたのに……そうしたら……」
そこまで言うと冒険者の目から涙が零れ落ちる。
「いきなり吹き飛ばされたんだ……何が何だか分からねえ……わからねえよっ!!」
その答えを聞いて、アビゲイルは掴んでいた胸ぐらを離す。
「誰かあるっ!!」
「はっ」
騎士の一人がアビゲイルのもとにきて跪く。
「此処から『草原のへそ』までどの位の距離だ?」
「騎馬で行けば一時間もかかりません」
「そうか……お前たちは此処で冒険者の救護を行え。隊長級の騎士は我のもとに集まれと伝えてこい」
「はっ」
騎士は素早く頷くと、後方の騎士達のもとへと駆けていく。
アビゲイルは抉れた地面を見つめる。
「……油断はしない……今度こそ、奴らを……」
アビゲイルはそう言って拳を固く握りしめるのだった。
◆
クレイモアの爆発音を聞いたコリンは、草むらの中で後方に振り返る。
草が高く生い茂っているために見通しは効かないが、草むらの向こうに煙が立ち上るのが見えた。
「もう猶予が無いな……ユーリとの合流を急ぐか」
コリンは左手に見える巨石を睨む。
「キルゾーンを設定したいな……しかし、時間が……」
コリンは思わず奥歯を噛みしめる。
「……いや、そんな事を考えている場合ではない。今出来る事を、最大限行うだけだっ」
コリンは背嚢を降ろすと、残ったクレイモアを取り出す。
「残り二つ……無駄には使わん」
コリンは背嚢を背負い直すと、クレイモアを抱きかかえる。
「……回り込んできた奴らを……仕留める」
◆
アグネスにもクレイモアの爆発音が届いた。
「ちっ……追っ手の進行速度が速いな……」
アグネスが振り返ると、後方の草むらが不自然に揺れているのに気付く。
「敵かっ!?」
アグネスが腰を下げて銃を構える。
その瞬間、冒険者が草むらから飛び出してくる。
「このっ!!」
アグネスは引き金を引く。
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
『ぐああっ!!』
至近距離から銃弾を浴びた冒険者が、その場で崩れ落ちる。
しかし、草が激しく揺れる音が周囲から複数聞こえてくる。
「(拙い……囲まれる……)」
アグネスは揺れる草むらに、片っ端から銃弾を撃ち込む。
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
『ぐあああっ』
『囲めっ!! 相手は一人だっ!!』
『誰か後ろに回り込めっ!!』
冒険者たちの声がステレオになって聞こえる。
「やむを得ない……」
アグネスは銃撃を中断すると、太腿のポケットから発煙手榴弾を取り出す。
「(確かこれもあと二つだったような……くっ)」
アグネスは手榴弾のピンを引き抜くと、声が聞こえてきた方向に放り投げる。
バンッ
バシュッ
弾ける音と共に黄色の煙が激しく立ち上る。
『うわあ、何だこれはっ!?』
『煙だっ!! あいつ等また火を付けたのかっ!!』
『気を付けるんだ。同士討ちは避けるんだっ!!』
冒険者たちが声を上げる。
アグネスはその声のする方向へ向けて銃を構える。
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
『ぐあああああっ!!』
『気をつけろっ!! 傍にいるぞっ!!』
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、ガチン
「ちっ」
アグネスはマガジンのリリースボタンを押す。
足元に空になったマガジンが落ちる。
胸のポシェットから装填済みのマガジンを取り出して、銃に装着する。
ガションッ
ボルトを引いて、再び銃撃を始める。
「敵が見えない……もうっ!!」
アグネスは気配と声だけを頼りに銃撃を続けるのだった。
◆
岩山の頂上。
そこは比較的に平らな部分があった。
岩の周囲が盛り上がっているので、天然の防壁のようになっていた。
『とりあえず、その岩陰に運んでくれる?』
ロゼとシャムはユーリに言われた通りに岩陰にヴァスケスの乗った担架を降ろす。
ユーリは背負っていた荷物を降ろすと、ヴァスケスの頭を庇うように置いた。
そして通信機を見る。
何度試しても、応答の無かった通信機。
「(気休めかもしれないけど……)」
ユーリは通信機のスイッチを入れる。
微かなノイズが聞こえるだけ。
「(それでも……)」
ユーリが通信機を弄っていると、ヴァスケスが目を開ける。
「……此処は?」
「岩山のてっぺんです……此処で籠城戦になります」
ユーリはヴァスケスに答える。
「何でオレを置いて行かなかった……お前らまで巻き込むことになるぞ」
「安心してください。もう巻き込まれてますって」
ユーリが軽口を返すと、ヴァスケスが苦笑する。
「おい、ユーリ。頼みがある」
「……何ですか?」
「オレの拳銃を渡せ」
「……駄目ですよ……班長の許可がありません」
するとヴァスケスは口を尖らせる。
「……アイツは全く……昔っから融通が利かねえ……」
「……そうなんですね」
ヴァスケスは大きく息を吐く。
「ユーリ。頼むから拳銃を渡せ。あれはオレの相棒なんだ……長い付き合いなんだ……最後は一緒に居たいんだよ」
「そんなっ……縁起でもない」
「嘘を吐くな、ユーリ。ヤバい状況なんだろ」
「……」
ユーリは答える事が出来ない。
「……大丈夫だ……自分に向けて撃つことはしない。だから拳銃を寄越せ」
ユーリは暫く考えてから、ヴァスケスに尋ねる。
「本当に自分に使ったりしませんか?」
「オレが嘘ついたことがあるか?」
「ええ。沢山……」
「そうだったっけ……」
ユーリはヴァスケスから視線を外すと、背嚢の中からヴァスケスの拳銃を取り出す。
「……予備マガジンは途中で隠してきました……弾はそれだけです」
そう言ってユーリは拳銃をヴァスケスに手渡す。
ヴァスケスは横たわったまま拳銃を受け取ると、その胸にしっかりと抱きしめる。
「わがまま言って悪いな……」
「……いえ……いつもの事じゃないですか」
ヴァスケスは目を瞑って、静かな寝息を立て始める。
「ヴァスケス先輩……約束は守ってくださいね」
ユーリはそう言うと、ロゼとシャムに近づいて行く。
『あなた達も、無理してあたし達に付き合う事は無いんだよ』
『いえ。最後までお付き合いします』
『そうですよ……それに、何となくですけど、ユーリさんと一緒にいた方が良い気がするんです』
シャムはそう言って顔をほころばせた。
『二人とも……』
ユーリがそう言った時だった。
岩山の右手から激しい発砲音が響き始めた。
「(この音は……アグネスだっ)」
ユーリが音のする方へ移動する。
右手の草むらから黄色の煙が激しく立ち上る。
「アグネスっ!!」
ユーリは置いておいたM4を拾い上げると、岩山の上から銃を構えるのだった。




