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第66話 罠の先に

 

 コリン達の視線の先に、巨石が見えてきた。



「あれが、『草原のへそ』と呼ばれる巨石か……」


「はい。冒険者たちが草原での移動時に目印に使用しているそうです」



「確かに良い目標物だな」


「高さが五メートルほどあって、頭頂部は平らになっているそうです」



「登れるのか?」


「此処からだと分かり辛いのですが、後ろ側はなだらかな斜面になっているそうです」



 ユーリが獣人たちから集めた情報をコリンに伝える。



「なるほど。ユーリは先行してヴァスケスを頭頂部へ運べ。我々は周囲を確認してから合流する」


「イエス、マム」



「アグネス。わたしとお前は迂回して巨石に向かうぞ」


「イエス、マム」



 ユーリとアグネスが行動を開始しようとした時だった。



「ユーリ。お前は待て」


「はい?」



 コリンは肩から下げていた無線機をユーリに差し出す。



「スイッチを入れておけ。気休めにしかすぎんが……」


「コリン班長……」



「そんな顔をするな。ヴァスケスを頼むぞ」


「イエス、マム」



 ユーリはそう答えてから、無線機を受け取る。



「行ってまいります」



 ユーリは無線機を抱えて、コリンに敬礼するのだった。


 ◆


 追撃する冒険者たち。


 彼らはコリン達が野営していた場所にまで辿り着いていた。



「見て下さい……奴ら、ここで野営していたみたいですぜ」



 そう言って冒険者が指さす先には、コリン達が置いて行ったアモカンや信号弾が点在していた。



「相当慌てていたみたいだな……随分と置き土産があるじゃないか」



 冒険者の一人が地面に落ちていた着替えのシャツを拾い上げる。



「……見たことの無い生地だな……随分と柔らかい」


「おい、こっちに魔道具っぽいものがあるぜ」


「おおっ、戦利品代わりに貰って行こうぜ」


「おい、俺が見つけたんだ」


「先に手にしたやつのもんだろ」



 冒険者たちが散らばっている信号弾を拾い上げた時だった。


 その下に隠されていた手榴弾のレバーが外れる。



 カチャッ



「ん? 何だ、これも魔道具か?」



 冒険者が手榴弾に手を伸ばす。


 その瞬間、手榴弾が弾けた。



 バンッ



「ぎゃああああああああっ!!」



 冒険者の悲鳴が上がる。


 片手を失った冒険者が悲鳴を上げながら地面を転げまわる。



「何事だっ!?」


「罠ですっ!! 急に魔道具が弾けてっ!!」


「何だとっ!?」



 リーダー格の男が振り返る。


 この騒ぎの中、別の冒険者がアモカンを持ち上げる。



「止めろっ!! 罠だっ!!」



 アモカンの下に隠されていた手榴弾のレバーが外れ、数秒後弾ける。



 ドカンッ



「っぐあああああっ!!」



 今度は足が吹き飛ばされた冒険者が地面に転がる。



「誰かっ!! ポーションはあるかっ!?」



 冒険者たちが叫ぶ。


 僅か数十秒で、この場所が地獄絵図になる。



「いやだ……俺はもう嫌だっ!!」



 一人の冒険者がこの状況を見て逃げ出す。



「俺も嫌だっ!! もう、沢山だっ!!」



 数人の冒険者がワラワラと逃げだして行く。



「おいっ!! 戻れっ!! 戻ってこいっ!!」



 リーダー格の男が叫ぶ。


 そして数秒後、この日最大の爆発が起こる。



 ドバーンッ



 閃光と爆音が冒険者たちを襲う。


 巻き上げられた土砂と、冒険者だったものが頭上から降ってくる。


 爆風で吹き飛ばされたリーダー格の男がフラフラと立ち上がる。



「……何が起きた……何が起きたんだぁ!?」



 朦朧とする意識の中で男が叫ぶ。


 そしてその視線の先に、辺境伯領の旗を立てた一群が近づいてくるのが見えた。


 男はそれがなんであるかを理解する前に意識を失うのだった。


 ◆


 時は少しだけ巻き戻る。


 辺境伯領騎士団の一行が宿営地を畳み始めている時だった。


 指令本部にしている大きなテントに一人の騎士が駆け込んできた。



「団長っ!! 前方から破裂音が聞こえましたっ!!」


「破裂音だと? 奴らのものかっ!?」


「はい。あの時の音と、同じものと思われます」



 その言葉を聞いてアビゲイルはテントから飛び出す。


 草原の向こうに煙が上がっているのが見えた。



「あの煙か?」


「はい」



 アビゲイルは背後に控える隊長クラスの騎士達に号令をかける。



「敵が見えてきたぞっ!! わたしは先行して出るっ!! 用意が整った者から続けっ!!」


「「「おうっ!!」」」



 騎士達の太い声が響く。



「馬を持てっ!! 進軍するっ!!」



 宿営地が一気に騒がしくなる。


 従士たちが走り回り、馬を連れた馬丁たちが右往左往している。


 それでも準備の整った騎馬騎士達が次々と宿営地から飛び出していく。


 アビゲイルも届けられた愛馬に跨ると、腰の剣を引き抜く。



「我に続けっ!! 敵は近いぞっ!!」



 そう言ってアビゲイルは馬を走らせるのだった。


 ◆


 アビゲイルが立ち上る煙を目印に進んでいると、再び小さな破裂音が聞こえてきた。



「この音は……」



 アビゲイルは馬の腹を蹴る。



「急げっ!! あの音には聞き覚えがあるっ」



 実際にアビゲイルが耳にしたのは手榴弾の爆発音だったが、地面を揺らす振動や、舞い上がる土砂と煙を見て、『彼女達』の魔道具と確信したのだ。


 アビゲイルの横に辺境伯領騎士団の旗を持った騎士が並列になって進む。


 その旗を目印に続々と騎馬騎士達が集まってくる。



 ドドドドドドドッ



 その蹄の音は勇ましく草原に響き渡る。


 今度は間髪を入れずに大きな爆発が起こる。



 ドバンッ


 ヒヒーンッ



 数頭の馬が驚き、その場に棹立ちになる。


 しかしアビゲイルはそれを無視して馬を進ませる。



「敵は近いぞっ!! 進めっ!!」



 アビゲイルはそのまま煙が上がる場所を目指す。


 そして、急に視界が開け、其処に累々と横たわる冒険者たちを見つけるのだった。


 ◆


 ドバンッ



 クレイモアの爆発する音が聞こえた。


 ユーリ達は既に草原のへそまでやって来ていた。



「今の爆発は、昨日野営した辺り……もうそんな所まで来ているんだ……」



 ユーリはM4のグリップを握り直す。



『ロゼ、シャム。上まで先輩を運んでっ!!』



 ユーリの言葉に、ロゼとシャムがヴァスケスを載せた担架を岩山の上に運んでいく。



「アグネス……コリン班長……」


 ユーリは二人の名前を呟いてから、ロゼたちの後を追いかけるのだった。



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