第65話 追跡者の足音
草原に朝日が差し込む。
朝露に濡れる葉に陽光が反射して、キラキラと光の海を生み出す。
ユーリが目を覚まし、眠い目を擦りながら身支度を整える。
傍にはロゼとシャムの二人が、お互いを抱きしめあって眠っている。
ユーリは振り返ってヴァスケスの元に向かう。
ヴァスケスの横には、既に身支度を整え終えたコリンが佇んでいた。
「おはようございます。班長」
ユーリが挨拶すると、コリンが敬礼を返す。
「眠れたか?」
「はい……あの、先輩の様子は?」
「今は眠っている。明け方までブツブツ文句を言っていたがな」
コリンはそう言って苦笑する。
「もうすぐアグネスが偵察から戻って来る。アグネスが戻り次第移動を開始する。彼女たちを起こして来い」
「イエス、マム」
ユーリは返事をすると、眠っているロゼとシャムのもとへと戻っていく。
その後姿を見ながら、コリンは呟く。
「(追いつかれるなら……今日だな……)」
そう言って腰に下げたナイフケースから銃剣を取り出す。
朝日が刀身に反射して、白く輝くのだった。
◆
偵察からアグネスが戻ってきた。
「二キロくらい後方に人の気配がありました。冒険者たちが野営しているようです」
「二キロか……近いな」
アグネスがコリンに報告をしている。
その横でユーリが獣人の二人と野営の痕跡を消そうとしていた。
「ユーリ。ちょっと待て」
コリンがアグネスの報告を遮ってユーリに声を掛ける。
「何でしょうか?」
「アモカンの中身を全部お前の背嚢に仕舞え。代わりに、すぐに使わないものを出せ」
「は、はい」
ユーリは背嚢の中に物を引っ張り出して、使わなそうなものを取り出す。
「(とはいえ、いつかは使うものばかりなんだけどな……)」
コリンがユーリの元に寄ってきて、取り出されたものを確認する。
「信号弾と着替え……アモカン……この位で良いか」
コリンはそれらを地面に並べる。
「アグネス。手榴弾を仕掛けろ」
「イエス、マム」
「……ブービートラップ……」
ユーリが小さく呟く。
コリンは自分の背嚢からクレイモアを取り出す。
「此処で爆発が起きれば……こっち方向に逃げる可能性が高い……」
そう言いながら草むらの中にクレイモアを持って姿を消す。
ユーリはじっとアグネスの作業を見つめる。
そしてロゼとシャムに話し掛ける。
『コリン班長が戻ったら移動開始だよ。今日もよろしくね』
ロゼとシャムは大きく首を縦に動かすのだった。
◆
「ねえ、アグネス」
「なに?」
ユーリは周囲を警戒しながらアグネスに話し掛ける。
「前に見た戦争映画でさ……兵隊が廃墟に落ちてたぬいぐるみを拾うんだよ……そしたらバーンって」
「ああ、あれね。あたしも見た事あるよ。前半のパートがウチの訓練所そっくりだった奴」
「それそれ」
ユーリは後方へ振り返る。
「見た事も無いものが落ちてたら、絶対に拾うよね……」
「人間の習性だからな……」
「怖いね。人間って」
「今更何を……」
そんな話をしているとコリンが二人に声を掛ける。
「おしゃべりも良いが、ちゃんと警戒しろ」
「「イエス、マム」」
ユーリとアグネスは返事を返す。
ドーンッ
その時、遠くで爆発音が響いた。
全員の動きが止まる。
「遠いな……昨日仕掛けたクレイモアだろう……確実に追いかけてきているな」
遥か後方に立ち上る煙を見つめながらコリンが呟く。
「迎撃ポイントを見つける必要があるね」
「それはそうだけど……」
その時ユーリとロゼの目が合う。
『ロゼ達ならどこか、追っ手を迎え撃てそうな所に心当たりがあるんじゃない?』
『迎撃……出来そうな場所ですか?』
『なら、『草原のへそ』は如何ですか』
シャムが途中で会話に加わる。
『『草原のへそ』? 何それ』
『巨大な岩なんです。草原にポツンとあって。みんな目印に使ってます』
『へえ。それで?』
『高さが五メートルくらいあります。岩の上に陣取れれば、良い迎撃ポイントになるかも……です』
ユーリは小さく頷く。
「アグネス、ちょっと班長と相談してくる」
ユーリはそう言ってコリンのもとへと駆け出すのだった。
◆
追跡する冒険者たち。
斥候の一人が少し離れたルートで進んでいる時だった。
足首に何かが引っかかる感触に、思わず動きを止める。
「なんだ?」
斥候は自分の足元を見る。
細い糸のようなものが足首に引っかかっている。
「糸? 紐? いや、これは金属かっ!?」
その瞬間、思わず足を動かしてしまう。
離れた場所でカチッと音が聞こえる。
斥候が次に見た景色は白い閃光だった。
ドカーンッ
冒険者たちがその音に驚愕し、動きを止める。
「何事だっ!?」
リーダー格の男が声を上げる。
爆発のあった方向から一人の冒険者が駆けつける。
「奴らの魔道具が作動したようです……」
「被害は?」
「斥候が一人……他の連中は離れていたので無事です」
「そうか……くそっ、姑息な手を……」
リーダー格の男が悔しがる。
「罠に警戒しながら進むようにみんなに伝えろ」
「しかし罠を警戒しながら進むと、進行速度が遅くなります」
「仕方ないだろう……これ以上、被害を増やしたくはないからな」
「……そうですね」
追撃している冒険者たちは、突然飛んでくる礫の攻撃や、今のような爆発で既に数人の仲間を失っていた。
「おっさんが言ってた、『手負いは怖い』の意味が分かってきたぜ……あいつら、なりふり構わなくなってきている」
「確かにな……しんどい戦いになりそうだ」
冒険者たちは頷きあって、追撃を再開するのだった。




