第63話 情けを掛けるな
獣人のロゼとシャムがヴァスケスの運搬を担う事になったため、コリン達の行動に少しだけ余裕が出来た。
太陽が大きく傾き、草原がオレンジ色に輝き始める。
コリンは再び移動を停止させる。
「アグネス。クレイモアを」
「イエス、マム」
アグネスは自分の背嚢の中からクレイモアを取り出す。
「残り四個です」
アグネスはクレイモアを取り出しながらコリンに報告する。
「わたしが持っているのが二個。全部で六個か……」
コリンは少し考えてから、クレイモアを二個持つ。
「お前達は此処で休憩していろ。わたしは、これを設置してくる」
「そ、そんな。設置なら我々が……」
「お前達には別な仕事を与える……空になったマガジンに銃弾を装填しておけ」
そう言ってコリンは、自分の胸に付けているポシェットから空になったマガジンを取り出す。
「これにも装填しておいてくれ」
「イエス、マム」
「行ってくる」
コリンはクレイモアを持ってオレンジ色に輝く草原の中へと姿を消していく。
アグネスは渡されたマガジンを握りしめると、ユーリの元へと向かうのだった。
◆
ユーリはヴァスケスの横に座って、その寝顔を見つめている。
「……顔色が良くない……血を流し過ぎたのかな」
そして少し離れた所に座っているロゼとシャムに話しかける。
『ロゼたちは治癒魔法とか使えないの?』
すると二人は少しすまなそうに俯きながら答える。
『私たちの種族は、魔法が使えないものが殆どなのです……例外的に身体強化が出来る者がいますが……それも少数です』
『そうなんだ……じゃあ、怪我とか病気の時はどうするの?』
『怪我だったらポーション、病気なら薬師に薬を調合して貰ったり、教会で祈って貰ったりですね』
『……そうか……前にあった魔法使いは治癒魔法が使えたからね……ひょっとしたらと思ったんだけど』
『ご期待に沿えなくてすいません……』
ロゼとシャムが頭を下げる。
『気にしないで。聞いてみただけだから』
ユーリはそう言って手を振って見せる。
そこにアグネスが戻ってきた。
「ユーリ。コリン班長からの指示だ。空になったマガジンに銃弾を装填しておけって」
そう言って手に持っていたマガジンを手渡す。
「了解。ここに来るまでにも結構使ったよね」
「ユーリは撃ち過ぎ。もう少し、引き寄せてから撃たないと」
アグネスは座り込んで、自分の背嚢から銃弾の入った紙箱を取り出す。
「そう言えば、アグネスの銃とあたしの銃じゃ、使っている銃弾の種類が違うんだよね?」
「ああ。こういう時に互換性が無いのは辛いな」
アグネスはそう言いながら空になったマガジンに銃弾を装填していく。
ユーリもアモカンから銃弾を取り出してからマガジンに銃弾を装填していく。
「残り少なくなってきたね……やっぱり、途中でもう一つのアモカンを隠してきたのが痛いな……」
「仕方ないだろ。あれを持ちながらヴァスケス班長は運べなかったんだから」
カチャッ、カチャッとリズミカルな音を立てて銃弾を装填していく。
「これを装填すると、コリン班長とあたしで約四百発。アモカンに残り四百発……アグネスは?」
「あたしも携行している分全部合わせて四百発ってところかな……後は、手榴弾が十個かな」
「あたしはグレネードを六発持ってる」
「それは勇ましい事で」
アグネスが揶揄う。
ユーリとアグネスが小さな笑い声をあげていると、不意にヴァスケスが目を覚ます。
「あ、ヴァスケス先輩」
ユーリがそれに気づき声を掛ける。
「……お前達……なんで俺を置いて行かない……そんな余裕はないだろ」
小さな声だったが、はっきりと聞こえる声だった。
「先輩を見捨てたりしません……」
ユーリの返事を聞いて、ヴァスケスは顔を顰める。
「コリンの奴だな……くそっ……」
そう言ってヴァスケスは目を瞑る。
そしてヴァスケスはアグネスの名前を呼ぶ。
「……おい、アグネス。オレの拳銃はどうした?」
「持ってきていますよ……重量物は運べないので、途中で隠してきましたけど」
「そうか……なら、オレの拳銃を寄越せ」
「えっ? なぜです?」
「いいから寄越せ」
「コリン班長の許可を頂ければ、お渡しします」
「アグネスッ!!」
ヴァスケスは思わず体を起こそうとする。
「うぐっ」
途端に激痛に襲われ、再び倒れ込んでしまう。
「ヴァスケス先輩っ」
そこにコリンが戻ってきた。
「どうした?」
「コリン班長……ヴァスケス先輩が……」
その言葉にコリンの視線がヴァスケスに注がれる。
「目を覚ましたのか?」
「コリン……何故オレを見捨てない……このままじゃ全滅するぞっ!!」
「ヴァスケス」
「つまらねえ情けを掛けるな……お前らしくねえぞっ!!」
ヴァスケスの言葉にコリンの顔が歪む。
そこにアグネスが口を挟む。
「ヴァスケス先輩が……拳銃を所望しています……コリン班長の判断を仰がなければならないと伝えてあります」
「アグネス……てめえ……」
コリンはヴァスケスを見下ろしながらその目を見つめる。
「ユーリ。医療パックは残っているか?」
「はい」
「『モルヒネ』をヴァスケスに打て」
「え……」
「ユーリ、復唱だ」
「は、はい。ヴァスケス曹長にモルヒネを投与します」
「てめえ、やめろっ!!」
ヴァスケスが声を上げるが、ユーリは医療パックから小さな薬液の入った小瓶とシリンジ、そして注射針を取り出す。
「ユーリッ!! ふざけんなっ!!」
「すいません……失礼します」
用意が出来たユーリはヴァスケスにモルヒネの注射を行う。
「く、くそっ……コリン……おぼえて……いろ……」
ヴァスケスの目がゆっくりと閉じていく。
その様子をコリンが静かに見つめている。
やがてヴァスケスの呼吸する微かな音が聞こえ始める。
「……野営できる場所まで移動するぞ……ロゼとシャムにもそう伝えろ」
「イエス、マム」
コリンはそう言ってから、もう一度ヴァスケスの顔を見つめるのだった。




