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第61話 弔い戦


「何だと……アンソニーが……」



 領主の顔から色が失せる。


 ゴライアスは立ったまま顔を伏せている。



「何が……何が起きた……何があったっ!? 答えろ、ゴライアスッ!!」


「ついさっき、『鳥』がギルドに送られてきた……詳細は分からん」


「貴様っ!!」



 領主は思わずゴライアスの胸ぐらを掴む。



「アンソニーが……アンソニーが死んだだとっ!? そんな訳があるかっ!!」


「……俺もそう思いたいが……服装や背格好が同じだったそうだ……」



「何だそれはっ? 顔を見て確認したんじゃないのかっ!?」



 ゴライアスは胸ぐらを掴まれたまま首を振る。



「……顔は……確認できなかった……らしい」


「ふっ、ふっ、ふざけるなっ!!」



 領主はゴライアスの胸ぐらを掴んだまま強引に引き倒す。



 ドサッ



 ゴライアスは床に引き倒されたまま、領主を見上げる。



「俺だって……信じたくない……しかし、冒険者がわざわざ『鳥』を使って知らせてきたんだ……情報の確度は高い」



 その言葉を聞くと、領主はゴライアスの上に覆いかぶさる。


 そしてゴライアスの目を見ながら問いかける。



「アンソニーに……倅に何があったんだ……教えてくれっ……頼む……」


「……グリモア……」



 ゴライアスは覆いかぶさる領主の名前を呼んで、ギュッとその体を抱きしめる。



「……辛いだろうが……アンソニーは死んだんだ」



 その言葉を聞いた途端、領主は急に立ち上がる。



「グリモア……」



 ゴライアスがもう一度名前を呼ぶが、領主の瞳には何も映っていなかった。



「……アビゲイルを呼べ……弔い戦だ……」


「グリモアッ」


「その名で呼ぶなと言ったろっ!!」



 領主の目に、仄暗い炎が蠢いていた。



「もう、お前達には期待はしない……アビゲイルを呼べっ!!」



 領主は大声で叫ぶ。


 部屋の隅に控えていたメイド達が一斉に部屋から出て行く。



「全軍をもって、奴らに鉄槌を下すっ!!」


「……」



 ゴライアスは怒り狂う領主の姿を、ただじっと見つめているだけだった。



 ◆


 辺境伯騎士団の騎士団長、アビゲイルが領主の部屋に出頭する。



「騎士団長アビゲイル。お呼びと聞き、お伺いしました」



 開け放たれた扉を横目で見ながら、室内に立っている領主に声を掛ける。



「……アビゲイルよ。騎士団はいつでも出撃できるのであろうな」


「はい。お下知を頂ければいつでも」



 アビゲイルは頭を下げたまま答える。



「ならば、すぐに出陣せよ。これは下知であるっ!!」



 領主はアビゲイルに背中を向けたまま、命令を下す。


 アビゲイルは一瞬困惑するが、すぐに返事をする。



「畏まりました……直ちに出陣いたします」


「……」



 しかしアビゲイルはすぐに動かなかった。


 背中を向ける自分の主に問いかける。



「……出陣の理由をお教え頂けますか」



 すると領主がゆっくりと振り返る。


 その顔は、アビゲイルでさえ初めて見る表情だった。



 悲しみとも、怒りともつかない表情……無表情に近く、その目には何も映していなかった。


 ただ、その瞳の奥には仄暗い炎が揺らいでいるのが見えた。



 領主は口を開く。



「……アンソニーが死んだ……あの女どもが殺したらしい……」


「そ、それは……しかし、それならなおさら調査を行わなければ……」



「アビゲイル。わたしは『出撃しろ』と下知したのだ……」



 アビゲイルはあまりにも低く発せられた領主の言葉に、思わず頭を下げる。



「失礼いたしました。すぐに出陣いたします」



 その言葉を聞くと、領主は再びアビゲイルに背中を向け、窓の外を見つめる。


 雲一つない、青空が広がっていた。


 ◆


 辺境伯騎士団の宿舎が慌ただしくなる。


 従士たちが駆けまわり、馬や武具の用意に奔走する。



 事務方の連中は兵站の準備に追われ、気の早い騎士達はフル装備で練兵場に集まっていた。


 アビゲイルが練兵場に姿を現す。



 騎士達から歓声が上がり、アビゲイルは片手を上げて、歓声に応える。


 練兵場に続々と装備を整えた馬達が集められる。


 アビゲイルは参謀役でもあるエドガーを呼ぶ。



「どの位の準備が整った?」


「まだ半分といった所です……なにぶん、全員の出陣は想定していなかったので」



 エドガーは申し訳なさそうに答える。



「構わん。御屋形様の意向だからな……ならば、用意の整った者だけで先に出陣する」


「騎士団長……しかし」



「言うな。これは御屋形様よりの下知なのだ……否は無い」


「……はい」



「エドガー。お前には後発組の指示を任せる。用意が整い次第、追いかけてくるが良い」


「承知しました」



 エドガーは深く頭を下げる。


 アビゲイルは練兵場に設えられている台の上に移動する。


 騎士達の視線がアビゲイルに集中する。


 アビゲイルは大きく息を吸い込むと、練兵場に響く声で叫ぶ。



「聞けっ!! 騎士共よっ!! 御領主様から下知が下ったっ!!」


「「「おうっ!!」」」



「討伐対象は、『例の奴ら』だ……先日、我々が煮え湯を飲まされた、あの連中に鉄槌を下す時が来たのだっ!!」


「「「おおっ!!」」」



 騎士達の雄たけびが、練兵場にこだまする。



「用意が出来ている者は、我に続けっ、今出陣出来ぬ者は、準備ができ次第、エドガーと共に我を追えっ!!」



 アビゲイルの鼓舞により、練兵場に熱気が滾る。



「辺境伯騎士団、出陣するっ!!」


「「「おおおおおおおっ!!」」」



 騎士達が一斉に剣を抜いて頭上に掲げる。


 掲げた剣に陽光が当たり、反射してキラキラと光る。



「者どもっ、我に続けっ!!」



 アビゲイルはそう言って、自分の剣を引き抜き騎士と同様に頭上に掲げるのだった。



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