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第57話 魔道障壁を砕け


 ヴァスケスは大きく迂回して、残存する冒険者を警戒しながら進んでいた。



「(弓の攻撃は無くなったが……まだ、近接戦が得意そうな奴らが残っているな……)」



 ヴァスケスは再び耳を澄ませる。



「(射撃の音が止んでいる……コリンが一緒だから全滅って事は無いと思うが……)」



 周囲から聞こえるのは、次第に強くなってくる風の音と、バチバチと音を立てながら燃えている野火の音だけだった。



「(馬車が逃げ出して、結構な数の冒険者たちがそれに続いていた……コリンの作戦は順調って事かな……)」



 ヴァスケスはそう呟くと、白煙の中へと進路を変更する。


 焦げ臭い臭いが、呼吸する度に鼻や肺を襲う。



「(催涙ガスよりはマシだけどな……)」



 中腰のまま銃を構え、なるべく音を立てないように進んで行く。


 ヴァスケスは思いの外大きく迂回していたようで、まだコリン達の姿を確認する事が出来なかった。


 ◆


 コリン達も残存する冒険者たちを掃討しながら、前進して行った。


 今は先頭をアグネスが担当し、コリンとユーリが左右と後方を確認していた。



「アグネス……敵の気配は?」


「ありません……ただ、馬車の通った跡が続いてますが……どうしますか?」



「暫く馬車の後を追いかけよう……但し近づき過ぎないように気をつけろ」


「イエス、マム」



 アグネスはそう答えて、再び草むらの中を進む。


 時折、背後から強い風に乗って白煙と、焦げ臭い匂いが漂ってくる。



 ユーリが後方に注意を向けると、背後には巨大な白煙が聳え立っており、その白煙の根元ではオレンジ色の炎が鮮やかに輝いていた。



「火の勢いが止まらない……というより、逆に強くなっている」



 ふと横を見ると、コリンも背後の光景を見つめていた。



「……行くぞ。ユーリ」


「はい」



 ユーリは短く返事をすると、コリンの背中を追いかけるのだった。


 ◆


 アンソニー達は、白煙を避けながら野火に近づいて行く。



「どうだ? 何か臭うか?」


「煙の臭いが強すぎて……鼻が利かなくなっています」



 獣人が答えると、アンソニーは不愉快そうに顔を顰める。



「匂いがダメなら、耳はどうなんだよ? お前らの種族は耳も良いんだろ?」


「今の時間は風が強すぎて、小さな音がかき消されてしまうんです」



 もう一人の獣人が答える。



「ちっ、役に立たねえな……」



 アンソニーはそう言って煙が立ち上る方向を見つめる。


 その時、獣人の一人が、草原の中で動く人影を見つけた。



「あそこに、人影が……」


「何っ?」



 アンソニーは獣人の傍に駆け寄る。



「どの辺だ?」


「あの……前方の丸い灌木の辺りです……すぐに草むらの中に消えてしまったんですが……」



 獣人がアンソニーに怯えながら答える。



「なら、お前らが先に行け……もし、その人影が奴らだったら……ふふふ」



 アンソニーはそう言って首輪に繋がっている鎖を引っ張る。



「せいぜい、金額分の働きをしろよな……考えてやるからよ」



 その言葉に、二人の獣人は静かに頷くしかなかった。


 ◆


 ヴァスケスは、丸い灌木の根元に身を隠すと、再び周囲の気配を探る。


 時折風にあおられた白煙が漂ってきて、周囲の視界を塞いでしまう。


 それでもヴァスケスは、耳と目に神経を集中させる。



「(そろそろコリン達と合流してもおかしくない筈なんだが……)」



 そう呟きながら煙の中を進んで行く。


 煙の向こうに草原が広がっているのが見えてきた。



「(オレの方が先行している?)」



 ヴァスケスが再び行動を開始しようとした時だった。



「(っ!?)」



 不意に背筋を冷たいものが走る。


 思わず、後方に飛びのくと、今までヴァスケスがいた場所の地面が弾けた。



「なにっ!?」



 ヴァスケスが警戒しながら周囲を確認する。



「(人の気配は無かった筈だ……くそっ、隠れていたな)」



 草むらの向こう側に、一人の冒険者の姿が現れる。



『ふん。今の一撃を逃れるとはな……』



 冒険者はヴァスケスに向かって剣を構えて、話し掛けてくる。



『流石、グノーシアス達を打ち負かした事はあるな……』



 ヴァスケスも銃を構えて、照準を冒険者から外さない。



「(……どうする? 撃つか……いや、嫌な予感がする……)」



 じりじりと二人の間の距離が縮まっていく。



「くそっ」



 ヴァスケスは迷いながら引き金を引く。



 パンッ、パンッ


 ガシャンッ、ガシャンッ!



「銃弾がっ……弾かれたっ!?」



 冒険者の前の空間に、蜘蛛の巣のようなひび割れが広がり、放った銃弾が弾かれる。



「でりゃああっ!!」



 ヴァスケスが驚愕している瞬間に、一気に冒険者が間合いを詰めてくる。



「ちいいっ!!」



 振り下ろされる剣を、ヴァスケスが銃で受け止める。



 ガキンッ



 激しい衝撃でヴァスケスの身体が後退する。


 冒険者の剣戟は速く、すぐに二度目、三度目の斬撃がヴァスケスを襲う。



「くそっ……いい加減に……しやがれっ!!」



 ヴァスケスが前蹴りを放つ。



 ドガッ



 ブーツの爪先が冒険者の鳩尾に突き刺さる。



『ぐはあっ!!』



 思わず腹を押さえて、冒険者が後ろに下がる。



「まずは、そのめんどくせえガラスみたいなのをぶっ壊すっ!!」



 ヴァスケスは距離が開いた事を利用して、再び銃撃を加える。



 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ


 ガシャーンッ!! ガシャ、ガシャ、ガシャーン!!



『ぐああっ』



 魔道障壁が砕け散り、銃弾が冒険者を捉える。


 冒険者が思わず剣を取り落とし、その場に蹲る。



 ヴァスケスが間合いを詰め、銃口を冒険者の眉間に突き付ける。



「勝負あったな……」



 大きく肩を上下させながら、ヴァスケスが口を開く。



「……引くなら見逃してやる……」



 しかし、冒険者はヴァスケスの言葉が理解できない。



『一思いに殺せっ……』



 冒険者はそう言ってヴァスケスを睨みつける。



「ちぃ……面倒だな……」



 そう言いながらも、太腿のポケットから結束バンドを取り出す。



「悪いが、手は拘束させてもらうぜ……」



 ヴァスケスは冒険者の腕を掴むと、一気に背中側に捻り上げる。



『ぐあああっ』



 冒険者は傷が痛むのか、大きな声を上げるが、ヴァスケスはそれを無視して手首の拘束を続ける。



「運がよけりゃ、生き延びられるだろうぜ……悪く思うなよ……」



 冒険者の拘束が終わり、ヴァスケスが立ち上がる。


 その時、自分を見つめている存在に気付く。



「まだいたのかっ!?」



 ヴァスケスは再び銃を構える。


 しかし、ヴァスケスの視線の先に居たのは、頭から犬のような耳が生えた女性の姿だった。



「(獣人……って奴か……)」



 獣人は怯えたような目でヴァスケスを見つめている。



「(んっ……首に何か巻いているのか?)」



 ヴァスケスは獣人を観察する。



「(武器らしいものは持っていないようだが……)」



 ヴァスケスは、ゆっくりと獣人の方へ近づいて行くのだった。



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