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第54話 煙幕の向こう側

 冒険者連合、楕円形に陣取ったそのほぼ中央部にビクターは居た。


 ビクターは前方に立ち上る白煙を目にして、思わず大声を出す。



「誰だっ!? 草原に火を放ったのはっ!?」



 冒険者たちの不文律。


 草原にみだりに火を放ってはいけない……。


 それは必要以上に獲物を殺傷してしまう事と共に、冒険者たちの身の安全を守るためにも言われている事だった。



 草原の草は青々としているくせに、意外に火が点きやすい。


 それは下草が枯れているのが見えづらい事と、植物の特性からくるものだった。



 ビクター達が気付いたときには、既に白煙ははるか上空まで立ち上り、遠くの草むらがオレンジ色に輝いているのが見えた。


 しかも自分たちは風下にいる。



「おい、此処はヤバいぞっ!! 撤退だっ!!」



 ビクターが周囲の冒険者に指示を出す。


 しかし。



「何を言っているっ!? 結構な数の冒険者が前に行っているんだっ、彼らをどうするんだっ!?」


「勝手に逃げるだろうさっ、それより見ろっ!! あの煙の量は尋常じゃない!!」



 ビクターは食って掛かる冒険者に怒鳴り返す。



「このままじゃ火に巻かれる……焼け死にたいのかよっ!?」



 その言葉が引き金となり、冒険者たちが浮き足立つ。


 特に兵站を担当している冒険者たちは、既に馬首を返していた。



「これから風が強くなる時間だっ、とっとと逃げろっ!!」



 ビクターが大きく手を振り上げて叫ぶ。


 後方に控えていた魔法使いたちが一斉に駆けだす。



 そして兵站を担当していた連中も馬車を走らせ始める。


 にわかにビクターの周囲が慌ただしくなる。



 そこに最悪な連絡が舞い込む。



「先陣を切っていた狩人たちが……全滅だと……?」


「ああ。あの派手に爆ぜる魔道具の所為だ……同行していた魔法使いたちとも連絡がつかんっ」


「くそっ!!」



 ビクターが手袋を剥いで地面に叩きつける。



「相手はたった四人なんだぞっ!? 何でこうなるっ!?」



 ビクターの叫び声が、混乱する冒険者たちにかき消されていく。



「とにかく、このままじゃ火に巻き込まれる。一度、撤退して陣形を整え直すのが先決だ」



 冒険者の一人がそう言って、ビクターに行動を促す。



「くっ……そうだな……おい、後方へ移動するぞっ!!」



 しかし、ビクターの判断を打ち砕く様な音が聞こえ始めた。



 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ


 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ



 煙の中から、乾いた破裂音と共に、礫の攻撃が飛んできたのだ。


 ビクターの周りの冒険者たちが、礫攻撃の犠牲になる。



「ぎゃああああっ!!」


「うぐっ!!」



 数人の冒険者が、突然その場に蹲る。



「な、何事だっ!?」



 ビクターが大声を上げる。



「奴らですっ!! 奴らが、煙の中からっ!!」


「な、何っ!?」



 混乱する冒険者たちの前方に、一人の女性兵士が姿を現す。



「あれっ、煙幕を抜けちゃったっ!!」



 ユーリだった。


 ユーリは急に開けた視界に驚愕する。



 そして、多数の冒険者が、自分を見つめている事に気付く。



「げっ!!」



 冒険者たちも、いきなり煙の中から姿を現した、奇妙な服と装備を身に纏っているユーリに戸惑っていた。



「な、何を見ているっ!! 奴が敵だぞっ!!」



 ビクターが、いち早く叫び声を上げる。



「えっ?」



 ユーリと冒険者たちの距離はおよそ20メートル。



「敵は一人だっ!! 取り囲めっ!!」



 ビクターの声に冒険者たちが、一斉に剣を引き抜く。


 ユーリの目が大きく見開かれる。



 同時にユーリの親指が銃のセレクタを切り替える。


 フルオート。



 ユーリは身体を小さく丸めて、連射の衝撃に備える。


 冒険者たちが一気に距離を詰めようと、駆け出す。



 ユーリは息を吐く。


 右手の人差し指が引き金を引く。



 パパパパパパパパパパパパッ



 銃から勢いよく、空の薬莢が吐き出される。


 冒険者たちは、訳も分からないうちに体に激しい衝撃を受け、その場に転倒する。



 パパパパパパパパパパパパッ


 カチンッ



 その音を聞いたユーリが素早くマガジンを外す。


 胸ポケットからフル装填されたマガジンを取り出して、銃に装着する。


 そして再び引き金を引く。



 パパパパパパパパパパパパッ


 パパパパパパパパパパパパッ



 時間にして数十秒。


 既に立っている冒険者の数は少ない。



 そしてビクターは、目の前で繰り広げられる光景を、信じられないものを見るような目で見つめるしか出来なかった。


 ◆


 同時刻。


 コリンはまだ白煙の中にいた。



 呼吸を整えながら、銃からマガジンを外して残弾数を確認する。



「残弾は半分といったところか……残り四マガジン……」



 そう呟いて、再びマガジンを銃に装着する。


 不意に、右前方から激しい発砲音が聞こえてきた。



「(方向的に……ユーリか)」



 コリンは即座に全員の位置関係を考慮する。



「(突出しすぎて接敵したか……いずれにしても、援護に向かうべきだな)」



 コリンは激しく発砲音が響く方向へ進路を変更する。



「(しかし、フルオートで撃ちまくっているな……残弾の事を考えていないんだろうな……ユーリの奴)」



 コリンは顔を顰める。



「(とにかく合流を急ごう……)」



 不意に後方から風が吹いてくる。


 焦げ臭い白煙が再び視界を奪う。



「(ヴァスケス達にも、この音が聞こえていると良いんだが……)」



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