第52話 不協和音
「上手い具合にヴァスケスが牽制してくれたようだな」
コリンは魔法攻撃の着弾を見て判断する。
「ユーリ。手榴弾を用意しておけ。敵の人数は多い。囲まれると厄介だ」
「イエス、マム」
その会話の直後、ドカドカと冒険者たちが駆け寄ってくる音が響く。
コリンとユーリは手榴弾のピンを抜く。
「三、二、一、投擲っ!!」
コリンの掛け声に合わせて、足音が迫る方向に手榴弾を放り投げる。
数秒後。
ドバンッ
ドバンッ
地面を揺らす振動と共に爆煙と土砂が舞い上がる。
「ぎゃああああっ!!」
「何事だっ!?」
「地面が爆ぜたっ!!」
冒険者たちは混乱し、動きが止まる。
其処へコリンは容赦なく銃弾を叩き込む。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ
射撃を終えると、コリンはすぐに移動を開始する。
ユーリも囲まれないように、周囲を警戒しながらコリンの後を追う。
突然、斜め前方の草むらが揺れる。
バサバサバサッ
二人の冒険者の男が草むらから飛び出してきた。
「ひええええええっ!!」
「ユーリっ!!」
コリンが振り返ると、ユーリが冒険者の男に斬りつけられそうになっていた。
バンッ、バンッ
コリンは躊躇いなく冒険者に向けて発砲する。
冒険者の一人が、剣を振り上げたままその場に崩れ落ちる。
「ユーリ、撃てっ!!」
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
コリンが続けて発砲するが、冒険者の男は踵を返して草むらの中に飛び込む。
ユーリが四つん這いになったままコリンの元に駆け寄っていく。
「は、班長っ!!」
「ユーリ、銃剣をつけろっ!! 敵の接近が速いっ!! 」
「イ、イエス、マム」
コリンとユーリはその場で銃剣を装着する。
「今のような状況が起こる可能性が高い……気を抜くなっ」
ユーリは大きく頷く。
「ユーリ、お前が先を行け。援護する」
コリンはそう言ってユーリのヘルメットを叩く。
「イエス、マム」
ユーリは中腰の姿勢で銃を構えた。
そして草むらの中の前進を再開するのだった。
◆
冒険者連合。
前衛職の連中が突撃して行った。
ビクターはその様子を背後から見つめている。
其処に魔法使いの代表者が近づいてきた。
「ビクター、この状況で魔法が放てないぞっ!?」
「何?」
ビクターは魔法使いの方へ振り返る。
「何故だ……前衛職の連中を援護しろよっ」
「この状況で魔法を放ったら、仲間にも被害が出るぞっ!?」
「くっ……」
「何で奴らを前進させた? まずは魔法攻撃で掃討するのがセオリーだろ?」
「仕方ねえだろっ、奴らが動き出しちまったんだ……」
「少しは連携を考えろっ、何のためのリーダーだよっ!?」
「ウルセエなっ!! てめえらこそ、ガチャガチャ言ってねえで、いつでも魔法攻撃できるようにしとけっ!!」
ビクターと魔法使いの代表者が睨みあう。
そうしている間にも、散発的に発砲音と、冒険者たちの悲鳴が聞こえてくる。
「くそっ!! 前衛の連中は何をやってんだっ!!」
ビクターは魔法使いの代表から視線を逸らす。
「早く奴らの位置を特定させろっ!!」
ビクターはそう叫ぶが、誰も動こうとはしない。
「てめえら、動けよっ!!」
怒鳴られた冒険者たちが、不服そうな表情を浮かべながら前進を始める。
冒険者たちの間に、少しずつ不協和音が広がっていく。
◆
ヴァスケスとアグネスたちの前方にも冒険者たちの姿が見え始める。
「くっ、思いの外動きが速いじゃねえか……」
小さな声で文句を言うヴァスケスの近くに、弓矢が数本襲い掛かってきた。
バスッ、バスッ、バスッ、バスッ
「ちいっ!!」
ヴァスケスは身体を丸めながら横方向に移動する。
「(弓矢の射程内に入ったって事か……)」
ヴァスケスはそう判断すると、銃剣を装着する。
「(アグネス……ついて来いよっ!!)」
そう呟くと、大きく息を吸い込む。
「……まだ曲射だ……一気に距離を詰めるか……」
そう言ってヴァスケスは唇を舐めるのだった。
◆
一方、アグネスは魔法攻撃に晒されていた。
頭上を鋭い風が通り過ぎ、周囲の草を切り刻む。
「(何だよこれっ!? 怖いんだけどっ!!)」
アグネスはヘルメットを押さえながら様子を窺う。
「(このままだと位置を捕捉される……動かなきゃ……)」
アグネスは地面に伏せたまま、銃だけを持ち上げると、魔法攻撃が襲ってきたと思われる方向に向けて銃を発砲する。
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
すると、あの恐ろしい風の音が止まる。
「(今だっ!!)」
アグネスは跳ねるように体を起こすと、銃を構えたまま一気に走り出す。
しかし、今度はアグネスに向かって、無数の火の玉が迫ってくるのが見えた。
「(なんで、あたしばっかり魔法攻撃なんだよっ!?)」
アグネスは、火の玉から逃げるために、さらに速度を上げて走る。
「(ユーリっ!! 助けろっ!!)」
アグネスは此処にいない同期の名前を呼ぶのだった。




