第50話 見えない敵
夜明け。
草原に朝日が差し込み、朝露に濡れる葉が、朝日を反射してキラキラと光る。
今まで見張りを行っていたユーリが、腕時計で時間を確認する。
「……〇五〇〇……起床の時間か……」
ユーリはもう一度周囲を確認する。
「……何かが接近する感じはない……」
そう呟いてからユーリは、皆が寝ている場所へと移動する。
「お、ユーリ。戻ったか?」
既に三人は起きていて、身支度を整えている。
「はい。現在まで何者かが接近する気配はありませんでした」
ユーリがコリンに報告すると、コリンは小さく頷く。
「今日からは本格的な接敵が発生する確率が高い。十分に注意しろ」
「イエス、マム」
「ユーリ。早速だがドローンで前方の様子を探れ。状況の確認が取れ次第行動を開始する」
「イエス、マム」
ユーリは返事をすると、置いておいた荷物の中から小型のドローンを取り出すと、飛行の準備を開始するのだった。
◆
ドローンを飛ばして、前方の状況を探る。
モニターを見ながらコリンとヴァスケスが会話をしている。
「……確かに人の姿は見受けられないな……」
ヴァスケスがモニターを見ながら呟く。
「ああ。しかし、昨日あれだけ目立つ狼煙を上げたんだぞ? その割には静かすぎる」
コリンはそう言ってヴァスケスの目を見る。
「確かに……あの狼煙の色から察するに、『救援要請』とか『援護要請』だと思ったんだがな」
ヴァスケスの言葉にコリンも頷いて口を開く。
「いずれにしろ、『撤退』ではない事は確実だと思う。なのに人影が無い……これの意味するところは……何だと思う?」
「……『待ち伏せ』……あるいは『迎撃』……かな?」
「同感だ……静かすぎるこの状況がその証左だと考えている」
コリンとヴァスケスが視線を交わす。
「ヴァスケス。今のうちに言っておく。わたしに何かあった時は……ルーキーたちを頼む」
「何言ってやがるっ!!」
思わずヴァスケスの口調が荒くなる。
「落ち着いて聞け。これは逆もあり得る。もし、お前に何かあったとしたら、わたしはあの二人を生きて帰らせる事を優先させる」
「……コリン」
「こんな事を頼めるのは、ヴァスケスしかいない」
コリンの真剣な表情に、ヴァスケスは小さく頷く。
「わかった……覚悟をしておく。でも、絶対にそんな状況にはしないっ……全員で本隊に合流して、元の世界に戻ろうぜ」
そう言ってヴァスケスは握った拳を突き出す。
コリンもギュっと拳を握り、突き出されたヴァスケスの拳に軽くぶつける。
「生き残ろう」
「ああ」
二人は、固く拳を合わせるのだった。
◆
冒険者連合の宿営地。
一際大きなテントの中に、一人の冒険者が駆け込んできた。
「おい、ビクター。また街から追加の冒険者たちがやってきたぜ?」
「……クラスは?」
「Cクラスが殆どだな。Bクラスのパーティは一つだけだ」
「ちっ、そんなもん、役に立つのかよ?」
ビクターは苛立ったように顔を顰める。
「俺に当たるなよ。ギルドの方が勝手に送り込んできているんだ」
「……まったく……こういうのはグノーシアスとか、ジュディスの方が向いているっていうのに……あいつ等の状況はどうなんだ?」
「丁度、グノーシアスのパーティの弓使いが戻ってきてるぜ。こいつが狼煙を上げたみたいだ」
「そうか……此処に呼べるか?」
「疲れているようだが大丈夫だろう。連れてくる」
「ああ。頼むぜ」
ビクターはそう言って、出て行く冒険者の背中を見つめる。
「(まったく……損な役回りになっちまった……)」
そう言ってビクターは手の中でクシャクシャになった手紙を見る。
少し前に援軍で来た冒険者が持ってきた手紙。
それは、冒険者ギルドのギルドマスターからビクターに宛てて書かれていた。
『冒険者連合の指揮官を命ずる』
要約すると、そう書かれた手紙を、ビクターは読んだ瞬間握り潰していた。
しかし、これは公式文書。
ギルドマスターからの正式な依頼でもあった。
「(くそっ……どうしてこうなった)」
ビクターは思わず唇を噛む。
其処にグノーシアスのパーティの弓使いが、姿を現した。
「……大変だったようだな? 状況を教えてもらえるか?」
ビクターは余所行きの笑みを浮かべながら弓使いに話し掛ける。
「……あいつ等は化け物だ……グノーシアスがやられた……」
弓使いは下を向いたまま、ブツブツと喋っていた。
「おい、大丈夫か?」
ビクターが思わず弓使いの肩に手を乗せる。
すると、弓使いは激しく動揺して、後ろに飛び退る。
「おいっ!! グノーシアスの救援には行ったのかっ!?」
突然弓使いが大声で叫ぶ。
「落ち着けって。今二つのパーティが救援に向かっている……順調なら、今頃は合流している筈だ」
「……そ、そうか……助けてやってくれ……グノーシアスが倒されるなんて……」
弓使いは再び下を向いてブツブツと呟きだす。
「(これじゃ、情報も聞き出せねえな……)」
ビクターは一緒に来た冒険者を見る。
「おい、増員を連れてきた馬車はまだいるか?」
「ああ。今、馬に水と飼葉を食わせている。それが終われば、街に戻る予定だ」
「じゃあ、こいつも載せてやってくれ。混乱してる……」
そう言ってビクターは首を振る。
「そうか。分かった……御者と話を付けてくる」
「何度もすまんな」
冒険者は片手を上げて、再びテントから出て行く。
テントの中にはビクターと弓使いだけが残される。
「(……コイツの混乱ぶりから見ると……相当に酷い状況のようだな……さて、どうしたもんか……)」
ビクターはそう呟くと、折り畳みの椅子に座り込むのだった。




