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第49話 首輪


 二人の冒険者が暗闇の中に身を隠していると、女性の声がますます近づいてきた。


 男達の緊張感がますます高まり、乾いた口で唾を飲み込む。



 ユラユラと焚火の炎が揺れて、その周囲だけがぼうっと明るくなっている。


 やがて、草を掻き分ける足音が聞こえ始める。



「……こっちです……この先から……」



 女性が説明するような言葉を発しているのが聞こえた。



 男達はしゃがんだ態勢で長剣を構える。


 その女性の声と足音は明らかに、焚火に向かって近づいている。



「(どうする……先制攻撃するか?)」


「(待て……まだ姿を確認していない……)」



 じりじりとした時間が過ぎていく。


 焚火の炎が大きく揺れる。



 その中に二人の女性の姿が浮かび上がった。



「「(……っ!?)」」



 其処に浮かび上がったのは、二人の獣人の女性の姿だった。


 その背後から、低い男の声が響く。



「何だよ。誰もいねえじゃねえか……本当に此処なのかよ?」



 男はそう言って、彼女たちの首に巻かれている首輪を引っ張る。



「あぐっ」


「ぎゃっ」



 強く引っ張られたせいで、女性達がその場に倒れ込む。


 男が倒れている女性達の傍に近づき、爪先で女性の身体を突く。



「倒れ込んでんじゃねえよ……てめえら、獣人だろ? 体力には自信があんだろ?」



 焚火の明かりに浮かび上がった男……それはアンソニーだった。



「(アンソニーだ……)」


「(あいつ、何しに来やがったんだ?)」



 男達は顔を寄せ合って小声で話す。



「(どうするよ……)」


「(このまま朝まで隠れている訳にもいかねえしな……)」



 そんな相談をしていると、獣人の女性が男達の方を指さす。



「この方向から、人族の匂いがしますっ」


「ああん? どっちだ」



 アンソニーはそう言って、腰の剣を引き抜く。



「おい、誰かいるのかっ!? さっさと出てきやがれっ!!」



 アンソニーは大声で暗闇に向かって叫ぶ。



「(ちっ……獣人か……匂いで気づかれたか?)」


「(此処でアイツとやり合うのも拙いな……仕方ねえ)」



 冒険者の男がその場で立ち上がる。



「剣をしまってくれっ!! 怪しいもんじゃねえっ!!」



 もう一人の男は立ち上がらずに様子を窺っている。



「てめえら、此処で何をしてやがるっ!?」



 アンソニーは剣を収めるどころか、くるくる回しながら暗闇を睨みつける。



「俺達はビクターのパーティの者だ……此処で探し物をしている……その物騒な物を仕舞えよ、アンソニー」



 男がアンソニーの名前を呼ぶと、アンソニーは意外そうな表情を浮かべる。



「何だよ……俺を知っているのか……とにかく姿を現せよ。姿を見せれば、剣を仕舞ってやるさ」



 アンソニーは二人の獣人を盾にするようにして、暗闇の中の男に話しかける。



「……分かった……そっちに行く……」



 冒険者の男は、ゆっくりと焚火のもとへと移動を開始するのだった。


 ◆


「それで、何でお前たちは此処にいるんだよ?」



 アンソニーが焚火で干し肉を炙りながら、冒険者たちに尋ねる。



「……」



 冒険者たちは口ごもる。



「今更隠すなよ……どうせビクターの奴から何か言われたんだろ?」



 アンソニーは干し肉に齧り付く。



「……そうだよ。俺達はあいつ等が使っていた、『馬がいなくても走る馬車』を探しているんだ……」



 冒険者がそう答えると、アンソニーは興味の無さそうな表情を浮かべる。



「ふん。そうか……見つかると良いな」



 そんなアンソニーの言葉に思わず冒険者が尋ねる。



「お前は興味ないのかよ? あの魔道具を見つければ、領主様から報奨金が貰えるだろう?」


「……親父から? 確かにな……その可能性はあるか……」



「だろう? 俺達はその為に此処まで来たんだ。それよりお前はどうなんだよ? 獣人まで連れて……魔道具探しじゃねえのかよ?」


「ああん? 違えよ……偶々、こいつ等に匂いを追いかけさせてたら、此処に辿り着いただけさ」



「……じゃあ、何が目的なんだよ?」


「俺の目的か? 俺の目的は、俺に恥をかかせたあいつ等に思い知らせてやりたいだけさ……」



 アンソニーの瞳の中に仄暗い炎が揺らめく。



「……どいつもこいつも、奴らを必要以上に怖がりやがって……奴らだって人間だぜ……やろうと思えば、いくらでも手段はある筈だ……」



 そう語るアンソニーの目は冒険者たちを見てはいなかった。


 パチパチと弾ける焚火の炎をじっと見つめている。



「ふん……少しばかり喋り過ぎた……オレも此処で寝かせてもらうぜ。見張りにはこいつ等を使う」



 そう言ってアンソニーは獣人たちを指さす。



「そうすりゃ、お前達も寝られるだろ?」


「……それは……そうだが……」



「大丈夫だよ。服従の条件さえ破らなきゃ、ちゃんと言う事を聞くぜ?」



 アンソニーはそう言って、焚火に背中を向けて草むらに横になる。



「その代わり、そいつらに水を分けてやってくれ。明日使い物にならねえと困るからな……」



 冒険者たちは顔を見合わせてから、獣人たちを見る。


 獣人たちは怯えた表情を浮かべながら、肩を寄せ合っている。



 冒険者たちの長い夜はまだ終わらない。



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