第48話 夜の訪問者
泉での攻防を終えたコリン達は、再び草原地帯へと移動した。
「しかし、追撃の手が止まらねえな」
ヴァスケスはそう言って、額の汗を拭う。
「追っ手の人数も増えている気がします……何だか、冒険者の全てが敵に回ったような感じですよね」
ユーリがヴァスケスの呟きに答える。
「冒険者はともかく、騎士達の動きが無いのも気になるな……」
コリンはそう言って黒い手帳に何かを書き込んでから、ユーリに指示を出す。
「ユーリ、ドローンを飛ばすぞ。用意しろ」
「イエス、マム」
ユーリは自分の背嚢の中から、小型のドローンを取り出す。
コリンも自分のタブレットを取り出して、ドローン操作のアプリを立ち上げる。
「用意出来ましたっ」
ユーリが答えると、コリンは操作画面からドローンの離陸を指示する。
モーターの音が響いて、小さなドローンが飛び立っていく。
するとヴァスケスがコリンの横に移動して、タブレットを覗き込む。
「……何だよ……ずっと草原が続くのか……遮蔽物がねえな」
「草むらの背が高いのが移動するには救いだが……逆に敵の接近の感知も遅れるデメリットもあるからな」
「遠距離はともかく、中距離の魔法攻撃は警戒が必要です……」
いつの間にかアグネスもタブレットを覗き込みながら、口を挟む。
「アグネスは二回もでかい魔法を味わっているからな……相性が良いんだろ?」
「勘弁してください……もうこりごりですよ」
ヴァスケスがからかうと、アグネスが眉尻を下げる。
「前方400から500メートルの範囲に敵影はないな……」
コリンはモニタに表示される数値を見ながら呟く。
「(いずれにしろ、ストライカーの方向を目指すしかないんだがな)」
コリンは心の中だけで思う。
「よし、このまま前進する。但し、フォーメーションを変える。先頭はアグネス。左翼はヴァスケス。右翼はユーリ、殿を私が務める」
その言葉に三人の視線がコリンに集まる。
「それぞれが距離を取っての行動となる……いつも以上に連携を考慮しろ」
「「「イエス、マム」」」
三人の声が重なり、其処に小さなドローンのモーター音が聞こえてきた。
「ドローンを回収後、行動開始だ」
◆
一方、草原に残されたバギーの痕跡を追っている冒険者たち。
狼煙が上がったせいで、ほとんどの仲間が救援に向かってしまったため、今此処にいるのはたった二人だった。
「……ちきしょう……たった二人で何が出来るって言うんだ、ビクターの奴め、親分風吹かせやがって……」
「まあ、そう言うなって。おかげであのおっかない連中を相手にしなくて済むんだから、良しとしようぜ?」
「確かにな……しかし、この痕跡……どこまで続いてんだ?」
「このまま進むと森に入っちまいそうだな」
二人の冒険者は顔を見合わせる。
「草原狼にでも見つかるとヤバいな……」
「脅かすなよ。本当に現れたらシャレにならねえぞ」
もう一人の冒険者が顔を顰めながら文句を言う。
「とにかく、この痕跡を追い掛ければ、何かがある筈だ」
「……そうだな」
二人はもう一度視線を交わすと、痕跡の追跡を再開するのだった。
◆
数時間経過後、二人は森の入り口までやってきた。
「森まで着ちまったぜ……」
「森の中まで入っていったとなると、ちと荷が重いぜ?」
二人は森の入り口から、森の中の様子を窺う。
入り口付近はまだ日が差し込んでいるので様子を見る事が出来るが、その奥となると日も差し込まず、薄暗く鬱蒼とした光景しか見えない。
「どうするよ?」
「既に日も陰ってきやがった……今日中に街に戻るのも難しいな」
「野宿かよ?」
「仕方ねえだろ。今から森の中に入るのは危険だぜ?」
そう言って男は少し離れた場所にある灌木を指さす。
「あの木の根元なら、身を隠すには丁度良いんじゃねえか? で、明日明るくなってから調べようぜ?」
「……それしかねえか……」
二人は周囲を見回し、枯れ枝を集め始める。
「此処までやるんだ……大したお宝じゃなかったら大損だぜっ」
「ぼやくなって……明るいうちに寝床と竈を作るぞ」
二人はそう言って今夜の野宿の用意を始めるのだった。
◆
夜中。
二人の冒険者は交代で睡眠をとる事になり、今は文句の多い男が焚火の近くで見張りをしていた。
小さくなってきた炎に枯れ枝を数本放り込む。
暫くすると、小さかった炎が少し大きくなり、明るさとあたたかさが増してくる。
周囲は静寂に満ちていて、聞こえるのは虫の音と、時折焚火の中の枝が弾ける音だけだった。
そんな時、不意に遠くから女性の声らしきものが聞こえてきた。
「……っ?」
男は脇に置いておいた長剣に手を伸ばす。
全神経を集中させ、声らしきものが聞こえた方向に耳を向ける。
「…… ……っ」
「(やっぱり……人の声だ)」
男は音を立てないように、静かに焚火から離れていく。
灌木の下で眠っている相棒の元に近づく。
「(おい、起きろ……人が近づいてくる)」
長剣の鞘で相棒の身体を突く。
「う、うーん……何だよ……」
不機嫌そうな声が響く。
「起きろ……人の声が近づいてくる……しかも女の声だ」
「……っ!?」
寝ぼけていた男の顔が、一瞬で真顔になる。
「……どっちからだ?」
「痕跡の向こうから聞こえてきたように思う」
「マジか……焚火は?」
「そのままにしてある……焚火の方に気を取られるだろ?」
「……確かにな……しかし、俺達がいる事も感づかれるぜ?」
「見られなきゃいいんだ……この暗闇だ、気づかれねえよ」
男は相棒の言葉に頷くと、草むらの中へと身を隠す。
「……、……」
今度ははっきりと声が聞こえた。
「(女の声だったな……確かにこっちに近づいてきている)」
「(とにかく、姿を確認しようぜ……相手の人数も分からねえんだ……下手に動かねえ方が良い)」
「(ああ、分かってるよ)」
二人は長剣を鞘から引き抜くと、近づいてくる女の声に集中するのだった。




