第47話 追跡者
コリンとユーリは無事にヴァスケス達と合流した。
「しかし……凄い有様だな……」
コリンが魔法によって変えられた泉を見ながら呟く。
「凄かったぜ……雷が雨みたいに降ってきやがってさ……その度に地面が吹き飛ぶんだぜ? 信じられねえよ」
「よく無事だったな?」
「アグネスがすぐに反応してくれたからな……さもなきゃ今頃黒焦げだぜ」
ヴァスケスが呆れた様に両手を広げる。
「やはり、魔法使いが厄介だな……爆轟といい、落雷といい……ふん。なんでもありだな」
「その辺はユーリが詳しいんじゃねえか?」
「え、あたしですか?」
ユーリは空になったマガジンに、アモカンから取り出した銃弾を詰めている最中だった。
「ところで、ユーリはどの位使った?」
「銃弾ですか? そうですね……5マガジン位ですね」
「わたしも2マガジン使用した……あの魔法使いが使っている透明な障壁を打ち破るのに結構弾を使うからな」
そう言ってコリンはヴァスケスを見る。
「オレも2マガジンは使ったかな……アグネスはそれ程使っていない筈だ」
「概算で300発近い消費か……痛いな」
「残弾は幾つだ?」
コリンの問い掛けにユーリが答える。
「アモカン二つで約1300発。後は各人の携行弾数が約200から250ってところです」
「全部で2000発強ってところか……これを多いとみるか、少ないとみるか……」
コリンが考え込む。
「(やはりストライカーに戻るべきか……しかし、戻るまでの遭遇戦でどの位消費する? もし、ストライカーが敵の手に墜ちていたら……2000発強で奪還までしなければならない)」
「(やはり、ストライカーから離れるべきではなかったのか……)」
コリンが奥歯を噛みしめる。
そんな時、ヴァスケスがコリンの肩を叩く。
「何を深刻に考えてんだよ?」
「……ヴァスケス……」
「オレ達にそんなにたくさんの選択肢はないんだぜ? 逆に言えば、やれる事は限られている……で、やらなきゃ、俺達は全滅だ……シンプルじゃねえか?」
そう言って不敵に笑う。
「難しく考えるなよ……シンプルに行こうぜ」
そう言って再びコリンの肩を叩く。
コリンは一度目を瞑る。
そして覚悟を決めた様に目を開く。
「最優先はストライカーとの合流だ。もし奪われていたら……奪還する。ストライカーが我々の生命線だからだ」
コリンの言葉に、三人が頷く。
「草原を最短距離で突っ切る。打通作戦を取る……立ち塞がる敵は排除する!!」
「「「イエス、マム」」」
「GO!!」
◆
辺境伯領領都の外れに位置するスラム街。
その奥の一角にある怪しげな店から、アンソニーが二人の獣人の女性を連れて店から出てきた。
女性達の首には、禍々しい文様が刻まれた首輪が嵌められている。
「早速だが、お前達には仕事してもらう……ついてこい」
アンソニーはその首輪に繋がる、細い鎖を引っ張る。
「きゃっ!!」
急に首輪を引っ張られたせいで、体勢を崩して地面に倒れ込む女性。
しかし、アンソニーはそんな女性を鬱陶しいものを見る目つきで睨む。
「グズグズすんなっ!! さっきも言ったろう。お前達には仕事をしてもらうんだ……さっさと立ち上がれっ!!」
「……はい」
女性が立ち上がると、アンソニーはもう一度鎖を引っ張る。
「くそっ……出遅れた分を何とかしねえとな……」
そう言ってアンソニーは冒険者ギルドを目指すのだった。
◆
冒険者ギルド。
今は、赤黒い狼煙が上がった事で、室内が慌ただしく人が行き交っている。
「用意が出来たパーティから出発してください!! 表に移動用の馬車が用意されています!!」
受付のマリアが大きな声で冒険者たちに指示を出している。
そんな混乱したギルドの中に、アンソニーと獣人の女性達が入ってきた。
「何だよ? 随分と混乱してるじゃねえか?」
「アンソニーさん……」
マリアが気付き、思わず眉間に皺を寄せる。
「今は、アンソニーさんの相手をしている時間がありません……申し訳ありませんが……」
そこまで言ったときに、アンソニーが言葉を被せる。
「何だよ……あいつ等の討伐だろ? 折角協力してやろうと思って、こういう用意をしてきたんだぜ?」
そう言ってアンソニーは女性達の首輪に繋がっている鎖を引っ張る。
「キャッ」
「ぐぅっ」
二人の女性達からくぐもった悲鳴が上がる。
「……まさか……奴隷……ですか?」
マリアが軽蔑したような表情でアンソニーを睨む。
しかし、アンソニーは全く気にした風も無く、鎖を見せびらかすように振って見せる。
「だったら何だよ? お前たちが斥候職を紹介しなかったんだ……仕方ねえだろ?」
そう言ってアンソニーは嗤う。
「……だったらなおの事……どのような御用件です?」
マリアの声が一段低くなる。
「そう尖がるなよ。奴らの情報を貰おうと思ったんだが……あれか? 狼煙が上がったのも奴らの所為か?」
「……」
マリアが答えない。
しかし、逆にマリアが黙っている事が、アンソニーの推測が正しかった事を証明してしまう。
「ふん……それで十分だぜ……邪魔したな」
そう言ってアンソニー達はギルドの外へと出て行ってしまう。
その後姿を見つめながら、マリアは大きく息を吐くのだった。
◆
アンソニーはギルドの外に出ると、建物の裏側に向かう。
そしてある場所に来ると、不意にしゃがみ込んで、地面の土を握る。
「おいっ」
アンソニーは握った土を女性達の顔の前に突き出す。
「匂いを嗅げっ!!」
女性達は怪訝そうな顔をするが、アンソニーが真面目な顔をしているのを見て、ゆっくりとその掌に顔を近づける。
「「ぐっ……臭いっ」」
二人は揃って顔を背ける。
アンソニーはそんな二人に問いかける。
「お前達、今までにこの匂いを嗅いだことがあるか?」
二人の女性は揃って首を振る。
「……初めてです……何の匂いなんですか?」
片方の女性が恐る恐るアンソニーに尋ねる。
アンソニーは握っていた土を地面に投げ捨てる。
「……此処に、奴らの魔道馬車が置いてあったんだ……動き出すとき、臭せえ煙が出たり、黒い油みたいなのが落ちている事があってな……」
アンソニーはそう言って、二人の獣人の目を見る。
「この匂いを覚えて、追いかけるんだ……見つけたら、奴隷の件に関して考えてやってもいいぜ?」
アンソニーの言葉に、女性達は顔を見合わせる。
「……もし、見つけたら……奴隷から解放してくれるんですか?」
「約束はできねえ……だが、考えてはやる……どうする?」
アンソニーを信じる事など出来なかったが、結局二人の女性は頷いてしまう。
「上等だ……さあ、さっさと匂いを覚えろ。そしたら出発だ」
アンソニーはそう言って嗤うのだった。




