第46話 赤黒い煙
青空を切り裂くように立ち上る赤黒い狼煙。
それは宝探しに興じていた冒険者達の目にも入った。
「の、狼煙だっ!!」
「何色だっ!?」
「赤……いや、赤黒だっ!!」
その叫び声に、冒険者たちの顔色が変わる。
「まさか……グノーシアスとジュディスのパーティだぞっ!?」
「Aランク冒険者が二組でも駄目なのかっ!?」
冒険者たちが右往左往し始める。
「落ち着けっ!! まだ、狼煙が上がっただけだっ!!」
冒険者たちに声を掛けたのはビクターだった。
「しかしよぉ、このままにしておく訳にもいかねえだろ?」
「そうだ。この狼煙は辺境領の街からでも見えるぜ」
ビクターは苦虫を嚙み潰したような表情で狼煙を見上げている。
「(くそっ……グノーシアスの奴、何をやってやがるんだ……せっかく奴らのお宝の痕跡を見つけたっていうのに……)」
ビクターの呟きをかき消すように、冒険者たちが勝手な事を言い始める。
「俺達も追撃した方が良いんじゃないかっ?」
「ふざけんなっ、グノーシアス達が勝てない相手に、どうやって立ち向かうんだよ」
「しかし、狼煙が上がった以上、何か行動しないと……ギルドの規約違反になるぜ?」
「どうする、ビクター?」
ビクターに同じパーティの冒険者が駆け寄って、小さな声で耳打ちする。
「狼煙が上がった以上、知らんぷりは出来ねえ……かといって、今から追撃しても間に合わねえよ……」
そう言ってビクターは口角を上げる。
「とりあえず、二、三パーティには救援に向かってもらうとして……俺達は草原を突っ切っていく……全部合わせりゃ、40、50名にはなるだろ……」
そこまで言ってから、ビクターは隣の冒険者に小さく耳打ちする。
「お前達は引き続きお宝探しを続行しろ……せっかく痕跡を見つけたんだ……人数が減って丁度良いじゃねえか?」
そう言って嗤って見せる。
「そんな事して大丈夫か?」
男は不安そうに表情を曇らせる。
「大丈夫だって……俺が上手く言っておいてやるさ……だから」
ビクターは男の両頬を掌で掴む。
「……絶対に見つけて来いよ……良いな?」
男は頬を掴まれたまま、大きく頷いた。
その様子を見てビクターは男を解放する。
そして混乱している冒険者たちに大声で指示を出す。
「まずは、グノーシアスの救援に二パーティ行ってくれ!! 回復職がいるパーティが良いっ!!」
そう言うと、丁度二つのパーティのリーダーが手を上げる。
「俺達が行こう……但し、あまり状況が酷かったら退却するぞっ!!」
もう一人のリーダーも頷いている。
「分かっている。こんな状況だ。無理はしなくていい……残りのパーティは俺と一緒に草原を突っ切って、狼煙の元へ向かうっ!!」
「し、しかし……」
一人の冒険者が意見を言おうとするが、ビクターはすぐさま声を被せる。
「お前だって、赤黒の狼煙の意味ぐらい分かるだろう……『全滅の危機』だぞ……救援に向かわなけりゃ、ギルドから懲罰があるんだぞっ!!」
ビクターの言葉に、全員が黙り込む。
「そんな顔するな……まずは狼煙を上げた奴と合流するぞ……いいなっ!!」
「「「お、おうっ」」」
冒険者たちは、不承不承ビクターの指示に返事をする。
「(ちっ、損な役回りだぜ……)」
そう言いながら、ビクターは森に消えていく仲間の後姿を見つめるのだった。
◆
赤黒い狼煙はコリン達からも見えていた。
「……意図的に着色された煙……狼煙だな……」
「のろし……ですか?」
ユーリがコリンに尋ねる。
「色の意味までは分からんが……我々の戦闘の結果と関係していると判断すべきだろうな……」
そう言ってコリンは周囲を見回す。
「此処はこのままにして、ヴァスケス達との合流を急ぐ。ユーリ、支度しろ」
「イエス、マム」
ユーリが荷物を回収するために動き出す。
コリンは再び肩のポーチからトランシーバーを取り出す。
『こちらコリン。ヴァスケス聞こえるか?』
暫くノイズが続いた後、ヴァスケスから返事が入る。
『こちらヴァスケス……狼煙の事か?』
『ああ、どうやらこの状況を見られたらしい……すぐに合流して移動を開始する』
『こいつらはどうする?』
『狼煙を見た奴らが救援に来る確率が高い……そいつらに任せよう』
『オッケー。どこで落ち合う?』
『我々がそちらに向かう。合流次第、移動開始だ』
『イエス、マム』
そして通信が終わる。
其処にユーリが駆け込んできた。
「移動準備完了です」
「よし、ヴァスケスの元に向かう」
コリンとユーリは倒れているグノーシアス達を振り返る事も無く、ヴァスケスの元に移動を開始した。
◆
そして辺境伯領の街でも、その狼煙が確認された。
冒険者ギルドのギルド長の部屋に職員が駆け込んできた。
「ギルド長っ!! 狼煙ですっ!!」
「何色だっ!?」
「……赤黒……です」
職員の報告を聞いたギルド長ゴライアスは、思わず椅子から立ち上がる。
「赤黒……だと……?」
「はい。ご覧になりますか?」
そう言って職員は窓の方を指さす。
ゴライアスは窓の方に近づき、窓を開ける。
そして体を乗り出して空の様子を伺う。
すると、西の空にくっきりと赤黒の煙が高く立ち上っているのが見えた。
「……パーティ全滅の危機……まさか、グノーシアスが……」
「それは考えられません。他のパーティの可能性の方が高いかと……」
「いずれにしろ、狼煙が上がった以上、救援に動かねばならん……今動ける冒険者たちはいるか?」
「Cクラスパーティが殆どですが、Bクラスパーティも一つ動けると思います」
「すぐに救援に向かわせろ……報償に関しては後で決める。まずは行動が先だっ!!」
「承知しましたっ!!」
職員は慌ててギルド長の部屋から出て行く。
ゴライアスは西の空を睨みつけながら独り言ちる。
「……俺達は……とんでもない奴らを相手にしているのか……」
ゴライアスはそう言って、固く拳を握り締めるのだった。




