第45話 狼煙
ユーリが男達の元に近づいたとき、既に其処にコリンの姿があった。
コリンは倒れている男達を爪先で突いている。
褒められた行為ではないが、銃の先端で突いた場合、もしも銃を掴まれたり、銃口に物が詰まったりするのは命に係わる。
それを考えれば、爪先で蹴飛ばすのが確実と言える。
コリンは男達の状態を確認しながらユーリに話し掛ける。
「酷い事をしていると思うか?」
「……いいえ。ヤードで教わりました……勝ったと思った時が一番危ないと……」
「……そうか……」
コリンはユーリの方へ振りむく。
「ガタイのいい奴と、教職者みたいな恰好をしている奴はまだ生きている……念のため、拘束しておけ」
「イエス、マム」
ユーリはそう言うと、結束バンドを掴んで教職者のような格好の男に近づく。
『返事出来る?』
ユーリは男に問いかける。
男は呻き声を上げるだけで、身体を動かす事も出来ないようだ。
ユーリは両手首、両足首を結束バンドで締める。
「(後はあっちか……ちょっと怖いんだよね)」
ユーリはそう言って、自分の二倍くらいありそうな男を見つめて、小さなため息を吐いた。
◆
コリンは肩口に着けていたポーチからトランシーバーを取り出す。
『こちらコリン。こちらの状況は終了した……そちらはどうだ?』
暫くすると、トランシーバーに応答が入る。
『こちらヴァスケス。こっちも状況終了だ……ただ、捕虜が出来ちまった……すまん』
『気にするな。こちらも似たような状況だ……合流できそうか?』
『ちょっと難しい。動かせない奴がいるんでな……』
『ふっ、こっちも似た感じだ……また連絡する』
そう言ってコリンが通信を終える。
そして視線をユーリの方へ移動させると、ユーリが恐々といった感じで、でかい男に近づいて行くのが見えた。
「……んっ?」
不意に違和感に襲われる。
「ユーリっ!! 離れろっ!!」
咄嗟に叫ぶが、ほぼ同時にグノーシアスが体を起こして咆哮を上げる。
「ひええええええっ!!」
ユーリが驚いて、後ろに飛び退る。
手と足に銃弾を受けているせいで立ち上がる事は出来ないが、動く方の手を振り回して何かを叫んでいる。
コリンはすぐにユーリの元に駆け付けると、ユーリの襟首を掴んで後方に引き摺っていく。
「す、すいませんっ!!」
「頑丈な奴だ……立ち上がる事も出来ん……仕方ない」
コリンはポケットから細身のスプレー缶を取り出す。
「そ、それは……」
「ペッパースプレー……これで少しは大人しくなるだろう」
コリンは冷静にグノーシアスの顔目がけてペッパースプレーを吹きかける。
「ぐあああああああっ!!」
グノーシアスは一際大きな雄叫びを上げると、顔を水の中へと突っ込ませた。
「……ああ、気持ちは分かる気がします……分かりたくないけど」
ユーリの呟きは誰の耳にも届く事無く消えて行った。
◆
「(くそっ、まさかグノーシアスがやられるとはっ!!)」
その男は、グノーシアスのパーティで弓を担当している男だった。
泉の近くでの打ち合わせの後、後方に偵察に出ていたのだ。
しかし、すぐに高位階魔法が行使されるわ、グノーシアスのスラッシュの音が聞こえるわで、男はすぐに引き返してきたのだった。
其処で見た光景は信じられないものだった。
グノーシアスの巨体が湿地帯に倒れ込み、其処に無数の礫が襲い掛かる。
魔法使いが魔道障壁を張って、何とかグノーシアスの救出を試みるが、無慈悲に魔道障壁が破壊される音だけが響いていた。
そして突然の爆発。
水と土砂、そして周辺の草が上空から降ってきた。
灰色の煙が晴れたと思ったら、其処に立つものはいなかった。
その瞬間、男は後方に走り出したのだ。
「(この事を迎撃班の連中に知らせなければっ!!)」
男は必死に走って距離を取る。
そして腰につけていた袋の中から煙玉と火打石を取り出す。
灌木の陰に隠れながら、男は必死に火打石をぶつける。
小さな火花が枯草や小枝に燃え移り、小さな炎が上がる。
男は周囲から枯れ枝を集めると、小さな炎にくべていく。
炎は次第に大きくなる。
男はもう一度周囲を見回すと、炎の中に煙玉を放り込む。
ボンッ
小さな破裂音と共に、赤黒い煙が激しく沸き上がる。
男はそこに更に枯れ枝を放り込む。
赤黒い煙は次第に上空高くへと昇っていく。
雲一つない真っ青の空を切り裂くように、その赤黒い煙は高く昇っていくのだった。




