第5話 森に眠るストライカー
翌朝の草原。
草原に似つかわしくない、ガソリンエンジンの排気音が響いていた。
バギーの運転席にユーリ、助手席にはヴァスケス。
後部座席にはコリンとアグネスが座っていた。
「ユーリ、GPSも無しで辿り着けんのかよ?」
助手席でヴァスケスがユーリに茶々を入れる。
「大丈夫ですよ。ドローンで撮影した地形データを使ってますし、まだ轍も残ってますから」
「ふん。そりゃ残念だ」
「何で残念なんですか?」
「道に迷って泣いてるユーリちゃんが見たかったなー」
「泣きませんて。どこまで意地悪なんですか、先輩は」
じゃれ合う二人を後部座席の二人は、華麗にスルーしている。
アグネスは流れる景色に夢中だし、コリンはいつものように黒い手帳に何事かを書き留めている。
そして、一時間弱移動したところで、森の入り口に到着する。
ユーリとアグネスが素早くバギーから降りると、荷台に乗せていた偽装網を取り出す。
そして慣れた手つきでバギーに偽装網を掛けていく。
「重量物は置いていく。携行火器と弾薬を忘れるなよ」
「「イエス、マム」」
コリンの指示に二人の声が重なる。
ヴァスケスは印をつけた巨木の周囲を確認している。
「こっちも侵入者の痕跡はない。クリア」
「よし。ユーリを先頭に、ヴァスケス、わたし、アグネスの順で移動する」
「「「イエス、マム」」」
ユーリが腰に下げたマチェットを右手に持つ。
ヴァスケスがその後ろでM4を構えてからユーリの肩を叩く。
「慎重に行け」
「イエス、マム」
それを合図に、ユーリたちは森の中へと侵入していくのだった。
◆
森の中に入ると、急に視界が悪くなる。
巨木の根元には灌木が生い茂り、侵入をより困難なものにしていた。
ユーリがマチェットで邪魔をしている枝を払いながら前進する。
一歩進むごとに、森の中の空気が湿った緑の匂いを孕んでくる。
ユーリの後方では、コリンとアグネスが周囲の警戒を行いながら、残してきた痕跡を探す。
「コリン班長、十一時の方向に印を発見」
アグネスがコリンに報告する。
コリンは印を確認すると、手帳に書かれた情報と比較する。
「ユーリ、進行方向が少し左にズレているぞ。修正しろ」
「イエス、マム」
そして其処から一時間ほど進んだ場所にユーリたちが到着する。
其処には数十メートルの高さはあろうかという巨木が無数に伸びていた。
◆
「相変わらず、でかい木だよな……レッドウッドみてえだな」
ヴァスケスが木の幹を叩きながら、周囲の警戒を行う。
やがて巨木の周りを一回りしてきたヴァスケスが、ユーリとアグネスに声を掛ける。
「よーし、周囲確認。クリア」
その声に、ユーリとアグネスが偽装網のかかった巨大な塊に近づく。
そして、両方向から偽装網を外していく。
やがてそこには、八輪のタイヤを持つ、巨大な戦闘装甲車の姿が現れた……『ストライカー』だ。
ヴァスケスがデザートイエローに塗装された車体の後部に近づき、リアハッチを開ける。
ガキンッ
ロックが外れる音がして、油圧のダンパーによってゆっくりとハッチが開いていく。
ヴァスケスが中腰で車内に入る。
M4のハンドガードに付けたマグライトで車内を照らしていく。
ユーリとアグネスはハッチの両脇で、ヴァスケスからの指示を待つ。
やがて、車内からヴァスケスの声が聞こえてきた。
「車内、クリア。大丈夫だ」
ユーリとアグネスは目線だけでうなずきあうと、ストライカーの車内へと入っていく。
ストライカーの車内には、弾薬や携行糧食、医療品などが詰め込まれていた。
「今回は弾薬だけで良い」
「イエス、マム」
ユーリとアグネスは床に置かれた銃弾の入った金属ケースを持ち上げる。
そして二人がそれらを持ち出し、ヴァスケスが最後にその場に戻ってきた。
「コリン、M4の銃弾と、大口径銃弾とスラッグ弾を持ってきたぞ」
「御苦労」
コリン達が円陣を組んで、運び出した銃弾を見つめる。
「M4の弾はあと二ケース。大口径はあとケース半分、スラッグ弾はこれが最後だ」
ヴァスケスの報告に、コリンが顔を顰める。
「スラッグ弾は戻せ……代わりに手榴弾を補給しよう」
「だな……」
ヴァスケスが小さく頷く。
「アグネス、スラッグ弾を戻して手榴弾と白燐弾を持ってこい。ユーリはジェリ缶にガソリンを補給しておけ」
「「イエス、マム」」
ユーリとアグネスがそれぞれの方向に走り出す。
ヴァスケスが二人を見送ると、コリンに話しかける。
「厳しいか……?」
「ああ。しかし、今のところ、こいつの出番は無いからな。節約して何とかするさ」
ヴァスケスは無言でコリンを見つめる。
ヴァスケスにはこの古い友達がどれだけ胃を痛めているかが、痛いほどわかる。
「おい、ヤバい時は早く言えよ。お前ひとりで抱え込むんじゃねえ」
「煩いよ……」
そう言いながらコリンは嬉しそうな表情を浮かべた。
やがて、二人が作業を終えて、コリンの元に戻ってきた。
「「作業完了しました」」
「よし、偽装を掛けろ。痕跡も出来るだけ残すな」
「「「イエス、マム」」」
散開していく三人の背中を見送り、コリンは一人視線を上空に向ける。
レッドウッドに似た巨木のはるか上空には青空が広がっていた。




