第39話 餌
「おい、ジュディス。お前、この森には詳しいのか?」
「詳しいって程じゃないけど……何度か潜ってるわ。アンタ達は?」
「俺達もそこそこだ……多少、土地勘がある位だな」
ジュディスは怪訝そうな表情でグノーシアスを見つめる。
「どうしたのよ、急に?」
「いや……そろそろ補給の事を考えないといかんなと……肉は魔獣の肉で構わんが……水がな」
「ああ、なるほど」
ジュディスはグノーシアスの答えを聞いて納得する。
「そうだ。ちょっと待ってて」
ジュディスはそう言って先頭を歩く斥候職の男の元に駆け寄る。
「ジニー。この辺りに水を補給できる所あったっけ?」
ジニーと呼ばれた男がジュディスの方へ振り返る。
「この先に泉がありますよ。水は綺麗で飲めます。但し、足場が悪い……泉の周りが湿地になってるんですよ」
「ああ。あそこね……そんな所まで入り込んでいるの?」
「そうですね……でかい魔獣に出くわさなくてよかったですよ」
「わかった。ありがと。先頭は大変だろうけど、よろしくね」
「どういたしまして。リーダー」
ジニーはそう言うと、再び藪を払うための短剣を構える。
ジュディスは森の様子を見回してから、グノーシアスの元へ戻る。
「結構、森の奥まで来ているわ……そろそろ中層部になるわね」
「そんなに来ているのか……ちっ」
グノーシアスが舌打ちをする。
「それで、この先に泉があるの。水の補給はそこで出来るわ……ただ、足場が悪いって」
「おお、そうか。それは助かる。ついでに、そこまで行ったら休憩にするか?」
「そうね。今のところ、彼女たちの気配も無いし……一旦休憩して、其処で作戦会議かしらね」
「賛成だ……そうと決まれば、俺はメンバーに知らせてくる。お前もそうするか?」
「……あたしの所はいいわ。ジニーが止まれば、勝手に休憩するでしょ」
そう言ってジュディスは苦笑する。
「あたしより、ジニーの判断の方が信じられているからね」
「ははは。それは……難儀だな」
そう言ってグノーシアスは片手を上げる。
「いずれにしろ、此処の警戒を解く訳にもいかんしな……後は頼む」
「ええ」
そして、グノーシアスは仲間の元へ、ジュディスは先頭を行く、ジニーの傍へ移動するのだった。
◆
ジニーが藪を払いながら進んで行くと、前方にぽっかりと樹々の無い空間が姿を現す。
「……泉だ……」
ジニーが呟く。
其処にジュディスが近寄る。
「此処ね……前に来た時は、カエルの魔獣が出たんだっけ?」
「……蛇ですよ。リーダーが雷魔法で止めを刺したんでしょ?」
ジニーが呆れた様に答える。
「そうだっけ? 忘れちゃったわ……」
そこまで言ってジュディスが真剣な面持ちに変わる。
「……どう? 怪しい気配はある?」
ジニーは無言でジュディスに動かない様にハンドサインを送る。
ジュディスは慌てて口元を押さえる。
ジニーは慣れた様子で、大きな草の根元を障害物にしながら、偵察を進めていく。
やがて、ジュディスのパーティと、グノーシアスのパーティが追いついてきた。
しゃがんで前方を睨んでいるジュディスに、グノーシアスが小声で尋ねる。
「何かあったのか?」
「今、ジニーに偵察に行って貰ってる……まあ、何もないと思うけど……ちょっとね」
「ちょっと……何だよ? 気になるじゃねえか」
ジュディスはそんなグノーシアスを一瞥すると、小さな声で答える。
「少し、静かすぎるのが気になるの……前に蛇退治に来た時もこんな感じだったけど……用心にこした事はないでしょ?」
「確かにな……」
そしてグノーシアスとジュディスのパーティは、ジニーの帰りを待つのだった。
◆
泉を挟んで反対側には、ヴァスケスとアグネスが草むらに身を隠しながら、双眼鏡で冒険者たちの様子を伺っていた。
「追いついてきましたね」
「ああ……土地勘のある奴らには敵わねえな……何人認識した?」
「自分は九人……最初の奴を入れて十人です」
「オレも十人だ……奴らの後ろにまだいるかもしれねえが……」
そう言いながら、ヴァスケスは最初に来た斥候の男から目を離さない。
「……良い動きだ……基本に忠実……経験も豊富そうだ……」
「どうします?」
ヴァスケスは思案してから、口角を上げる。
「奴には『餌』になってもらう……殺さないように足を止めろ」
「イエス、マム」
アグネスはXM-7を構える。
照準の先に斥候の男を捉える。
「……いきます」
そう呟いて、アグネスは引き金を引いた。
◆
ジニーは、突然太腿に激痛を感じた。
そしてほぼ同時に何かが弾ける音が泉の周囲に響く。
ジニーの身体が、意志とは関係なく地面に倒れ込む。
「罠かっ!?」
ジニーは周囲を見回すが、それらしいものは見えない。
太腿を見ると、両側に大きな傷が出来ている事に気付く。
「(何かが突き抜けたっ!?)」
その瞬間、ジニーの脳裏に、礫の魔道杖を使う女達の話が蘇る。
「(待ち伏せされたっ!?)」
ジニーは大声で叫ぶ。
「罠だっ!! みんな気をつけろっ!!」
ジニーは傷口を布で縛り付ける。
「くそっ!! あいつらは魔獣じゃないっ!! 人間なんだっ!!」
ジニーの悲痛な叫び声が響く。
次の瞬間、再びジニーの肩口に激しい衝撃が伝わる。
「ぎゃあああああああっ!!」
ジニーは堪えきれずに悲鳴を上げる。
しかし、未だに敵の姿は見えなかった。




