第38話 泉の待ち伏せ
森の中を行く、グノーシアスとジュディス一行。
先頭をグノーシアスのパーティの若い剣士が、枝を払いながら進んで行く。
「そう言えばジュディス。お前、『魔道の頂』の連中から何か聞いていないのか?」
グノーシアスがそう言うと、ジュディスは何とも言えない表情を浮かべる。
「それがね……クリスの奴、珍しく何も言わないのよ……『経験するのが一番よ』とか言って……情報が重要なのは分かるけど……あの言い方には何か含みがあるわ」
「……そうか……お前たちは仲が良いから、何か知っていると思ったんだがな」
「別に、仲がいい訳じゃないわ……まあ、幼馴染だし、腐れ縁ではあるけれど……」
「……魔道学園も一緒だったのか?」
「まあね。クリスは炎属性と土属性。あたしは水属性と雷属性……被らなかったのが長続きの秘訣かしら」
「魔法使いの関係は分からねえ……しかし、何の情報も寄越さず、『経験するのが一番よ』とはなあ……」
「多分、相当痛い目に会ったんじゃないかしら……特にダロスだっけかな? 盾役の男なんて、良く生きてたって感じだったし」
「ダロスって、ミノタウロスとドツキ合った奴だろ?」
「……アンタみたいね?」
「ほっとけ。確か相当なバフ使いでもあった筈だ……身体強化や、防御力向上位掛けていたろうに」
「……まだ見た事はないけど、彼女たちが使う魔道杖は相当な威力と考えた方が良いわ」
ジュディスが真剣な表情でグノーシアスを見つめる。
「わかった……気を付けるさ」
そしてグノーシアスは戦闘を行く剣士に話し掛ける。
「おい、そろそろ先頭を交代しろ。少し休めっ」
その言葉に、先頭の剣士と、ジュディスのパーティの斥候の男が入れ替わる。
「さあ、とっとと追いつくぞっ!!」
グノーシアスの鼓舞する声が森の中に響いた。
◆
コリン達が森の中を進んで行く。
すると前方にぽっかりと日が差し込んでいる一角を見つける。
「……あの辺りだけ森の樹々が無いな……アグネス、先行して見てこい」
「イエス、マム」
アグネスは銃を構えながら先行して様子を見に行く。
「何だと思う?」
「分からねえけど……そんなに嫌な感じはしねえな」
ヴァスケスがコリンの問い掛けに応える。
「ユーリは後方の監視」
「イエス、マム」
森の中に静寂が広がる。
何故か魔獣の鳴き声も、鳥の囀りも聞こえない。
ただ、森林特有の濃厚な大気だけが周囲に立ち込めている。
「随分と静かな場所だな……」
「ああ……静謐な感じさえ感じるな……」
コリンとヴァスケスが呟きあっていると、暫くして、先行していたアグネスが戻ってきた。
「報告します。前方に泉があります。直径約50メートルほど……水質はとても綺麗でした……ただ、泉の周囲は湿地になっています」
「泉か……どうするかだな……」
アグネスの報告を受けてコリンが思案する。
「どうするかって……泉があるなら水の補給だろ?」
「それはそうなんだが……この状況を利用できないか、考えている」
「状況を利用?」
ヴァスケスは怪訝そうにコリンに尋ねる。
「ああ。泉の発見は我々にとって朗報だ。森の中での水の確保は結構大変だからな」
「それが何か?」
するとコリンは残念なものを見るような表情でヴァスケスを見る。
「な、何だよ。そんな目でオレを見るなよ」
「……水が貴重なのは追跡してくる連中も一緒だ……ひょっとすると、奴らはこの場所を知っている可能性が高い」
「……それで?」
「……アンブッシュには最適だと思わないか?」
コリンがそう言うと、ヴァスケスがハッとしたような表情になる。
「アグネス。泉の向こう側はどんな感じだった?」
「見ただけですが、こっちとあまり変わりませんでした」
コリンとヴァスケスが目だけで頷きあう。
「クレイモアはどうする?」
「下手に罠を張っていると、アンブッシュに気付かれる可能性がある……それよりはグレネードで対応しよう」
「……上等だ……おい、アグネス。オレ達は先行するぞ。付いてこい」
「イエス、マム」
其処へユーリが戻って来る。
「後方から何か来る様子はありませんでした」
「そうか。ユーリ、我々は此処でアンブッシュする。今、ヴァスケスとアグネスが先行している……わたし達は迂回して、横から叩ける場所を探す。行くぞ」
「イエス、マム」
コリンはユーリを連れて、森の中に入っていく。
コリン達が姿を消すと、泉の周辺は再び静けさに包まれていくのだった。
◆
一方、草原を探索していたビクター達は、草原の中にある痕跡を見つける。
それは一直線に草を圧し潰していく、不思議な痕跡だった。
「これって……魔獣の類かな……」
冒険者の一人が折れた草を観察しながら、仲間の冒険者に問いかける。
「痕跡だけ見ると、大型の魔獣っぽいが……こんなに一直線に進まないぞ、あいつらは」
大型の魔獣は、突進するときは一直線に進んでくるが、普段の行動は用心深く、普段は用心深く、つづら折りのように移動するという事を知っていたからだ。
「……じゃあ、何だ?」
冒険者たちは、周囲を見回す。
その痕跡は、一方は『魔道の頂』達が戦った場所の方向へ、もう一方が森の方へ続いている。
「……ひょっとして、アレか?」
「……可能性は高い……」
冒険者たちがお互いの顔を見合わせる。
「へへ、意外とあっさり痕跡を見つけられたな……後は追いかけるだけってか?」
「ふふはははは」
彼らは、既に宝を見つけた様な笑みを浮かべる。
「一応、ビクターにも知らせておくか……のけ者にするとうるせえからな」
「違えねえ……はははは」
草原に冒険者たちの下卑た笑い声が響くのだった。




