第37話 追跡者たち
グノーシアス達が森の中に姿を消す。
すると、居残り組のビクターが周囲の連中に声を掛ける。
「さあて、厄介者は森の中へ消えた……俺達は宝探しを始めようぜ?」
すると、冒険者たちから疑問の声が上がる。
「宝探しって言っても、何を探すんだよ?」
「奴らがそんなお宝を持っているようには見えなかったぞ?」
「そうだ、そうだ。今からでも遅くない……グノーシアス達を追いかけるか?」
冒険者たちは勝手な事を言い始める。
しかし、ビクターはそれを予想していたかのように、自信満々に答える。
「思い出せよ……奴らが乗っていた、あの魔道具をっ!!」
そう言ってビクターは冒険者たちの顔を見回す。
「あの、馬もいないのに動き回る荷車……あれを森の中に持ち込んだとは思えねえ……だろう?」
その言葉に冒険者たちが黙り込む。
「草原か……あるいは森の浅い部分に隠してあると……俺は思う」
「確かに……あれだけの大きさの物では、森の中を移動するのに都合が悪い」
「そう言えば……あの荷車の音もしなかったな……聞いた事無い、唸り声みたいな……」
冒険者たちが少しずつ推論を重ねていく。
「確かにあの魔道具を領主に差し出せば……相当な褒美を貰えそうだな」
「あの連中と戦わずに済むし、良い考えに思えるな」
そんな冒険者たちの声に、ビクターがほくそ笑む。
「じゃあ、決まりだ」
ビクターはわざとらしく大きく手を広げる。
「どうせ、グノーシアスの連中も、すぐに接敵する訳じゃない……狼煙が上がったら、その時考えりゃ良いんだ……だろ?」
冒険者たちはビクターを見つめながら、小さく頷いて見せる。
「そしたら……鼻の利く奴を集めろ……あの荷車、変な匂いをさせたろ。あれを追いかける……」
ビクターの言葉に、冒険者のリーダーたちが顔を見合わせる。
「誰か、獣人をメンバーにしている奴いたか?」
「俺の所にはいないな……お前の所は?」
「うちもいない……例の奴隷騒動で大半の奴らがこの街を出て行ったからな……」
ビクターは冒険者たちの呟きを聞きながら思案する。
「……仕方ねえな……足の速い奴にギルドに行ってもらうか……匂いを追い掛けられる奴を貸してくれってな」
ビクターの言葉に、数人の冒険者が頷いて見せる。
「それ以外の連中は、宝探しを始めるぞ……まずは、『魔道の頂』の連中と戦闘があった場所に移動する」
ビクターの掛け声で、冒険者たちはノロノロと動き始めるのだった。
◆
辺境伯領の下町。
正確にはスラム街と呼んだ方が良い場所。
其処にアンソニーの姿があった。
「ふん。相変わらず汚ねえ場所だ……全部燃やしちまえばいいのにな……」
アンソニーが悪態を吐く。
スラムの住人達は、アンソニーの姿を見ても、見えない振りをするか、物陰から仄暗い視線を浴びせるかだった。
アンソニーはそんなスラム街を進んで行く。
この場所にしかない、ある場所を目指して。
やがて、スラム街の深層部までやってくる。
此処はある意味治外法権であり、領主の力も及ばない、厄介な場所だった。
そんな深層部にある、訳ありの店にアンソニーはノックもせずに入り込む。
「おい。邪魔するぜ……」
アンソニーが声を掛けると、奥から冷たい目つきの男が一人現れる。
「……アンソニーか。何の用だ?」
冷たい目つきの男が尋ねると、アンソニーは悪びれる様子も無く答える。
「奴隷商だろ?……奴隷を買いに来たに決まっている」
「……奴隷の売買は禁止されている筈だが?」
「今さらそんな事言うなって……知ってんだからよ」
「……」
アンソニーは部屋の中にあった、小さなスツールを掴むと、勝手に其処へ腰を下ろす。
目つきの冷たい男は、そんなアンソニーを見下ろすだけだった。
「……鼻の利く獣人が欲しい……出来れば二人。金は……ある」
そう言ってアンソニーはポケットから金貨の入ったきんちゃく袋を取り出す。
男の目の前でそのきんちゃく袋を開けて見せる。
「金貨二十枚……これで足りるだろう?」
そう言ってアンソニーは男にきんちゃく袋を放り投げる。
男は左手で袋を掴むと、すぐに中身を確認する。
「疑り深けえ男だな……ちゃんと二十枚入ってるって……」
「最近は贋金も多いんでな……」
男は掌に何枚かの金貨を載せると、チャラチャラと音を立てて弄ぶ。
「ふむ……それで、鼻の利く獣人……と言ったか?」
「ああ。ちょっと探し物があってな……」
男は金貨の入った袋を握ったまま、何事かを考えている。
アンソニーは忙しくなく視線を彷徨わせている。
暫くして男は、アンソニーに話し掛ける。
「明日、もう一度此処に来い……見繕っておいてやる」
そう言って金貨の入った袋を、自分の上着のポケットに仕舞う。
「……明日のいつぐらいだよ?」
「今と同じ時間で構わない……気に入らなかったら、金は返す……手間賃は頂くがな」
「けっ……それでいい。明日また来る」
アンソニーはスツールから立ち上がると、男に向かって片手を上げる。
「じゃあな」
男は目を瞑って頭を下げる。
そしてアンソニーは、その店から出て行くのだった。
◆
森の中。
コリン達は樹々が込み入っている一角に身を隠していた。
「どうだ……敵の斥候の気配はあるか?」
「今のところ、追いかけてくる気配はないですね……はう、このまま諦めてくれるといいのに」
「そうはいかないだろうな……まあ、いずれ接敵すると考えておいた方が良い」
「それはそうなんだけど……アグネスは冷静だね?」
「ユーリはもっと大局を見ないと……一喜一憂してると疲れるぞ?」
「はう……アグネスまで……」
そんな二人のやり取りを見ていたヴァスケスが苦笑する。
「この中で一番危機感が無いのはユーリだな」
「えー、そんな事無いですよ。憂いてますよ。心配してますよっ!!」
そう言いながらユーリはリュックから、小型のソーラー充電器を取り出す。
「休憩時間を無駄にする訳にはいきませんからね」
そう言って、パネルを日光の下に広げる。
「そういう所だよ……緊張しているのか、抜けているのか分からねえ奴だ」
「だって、充電しておかなきゃ、イザっていう時に使えないじゃないですか?」
すると今まで黙っていたコリンが口を開く。
「そうだな。ユーリの言う通りだ」
「えっ?」
「お前がそういうガジェットを持ち込んでいなければ、我々は此処まで行動出来ていたか分からん」
「……それってどういう……」
するとヴァスケスがユーリの頭を軽く叩く。
「珍しくコリンが褒めてるんだ……ありがたく受け取っておけ」
「……全然褒められている気がしませんよ」
ユーリの言葉にコリンが珍しく表情を崩す。
「……これは推測だが……あの冒険者たち全員が追撃してくる訳では無さそうだな…‥」
「えっ?」
「……斥候の数が減ったのは、あいつらの足並みが揃っていないのではないかと考えている……」
コリンはそう言って、三人の顔を見回す。
「敵の実力を過小評価するのは危険だがな……大人数に追い回される可能性は低いと考えている」
「但し……それだけに、これから森の中で遭遇する冒険者は……強者だ」
「心して掛かれ……決して油断するな」
コリンが言い終えると、三人が大きく頷く。
「「「イエス、マム」」」
「水分を補給しておけ。もう少し距離を稼ぐぞ」
コリンは三人にそう声を掛けるのだった。




