第36話 思わぬ戦力
冒険者連合が行動を開始している頃。
アンソニーが冒険者ギルドに姿を現した。
アンソニーはカウンターに近づくと、中にいたマリアに話し掛ける。
「おい。臨時にパーティを組みたい。獣人の斥候を二人ほど雇いたい」
そう言ってアンソニーは金貨の入ったきんちゃく袋をカウンターに放り投げる。
「金貨十枚だ。それで雇えるやつを紹介しろ」
マリアは袋の中の金貨を検めると、アンソニーを見つめる。
「どのような目的か聞いてもよろしいですか?」
「おいおい、いちいちそんな事をギルドに報告する義務があるのかよ?」
「今、斥候職の紹介は非常に困難になっております。ましてや獣人に限定した場合、難しいかと」
「……金が足らねえってか?」
「違います。斥候職の冒険者にも『選ぶ権利』があると言っています」
その言葉に、アンソニーの顔が一気に赤くなる。
「てめえっ!!」
「ギルド職員への暴行は重罪です。それでも良ければ……どうぞ」
マリアは一歩も引かずにアンソニーを睨む。
「……クソッ……じゃあ、獣人以外でも構わねえから……斥候職の冒険者を紹介しろ」
「ですから、今は斥候職の紹介が非常に困難です」
「何でだよっ!?」
アンソニーは大声でマリアに詰め寄る。
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえます。まず第一に、Bクラス冒険者パーティの多くが手配書の探索に参加している事で、通常の依頼をCクラスパーティが請け負う事になっています」
「それが、何の関係があるんだよ?」
「Cクラスパーティの依頼成功率を上げるには斥候職の協力が不可欠です」
「……」
「その為、多くの斥候職の方たちが、Cクラス冒険者たちと行動を共にしています」
「それで、人手不足……って訳か」
「もう一つ」
マリアはそこで言葉を切ってから、アンソニーをじっと見つめる。
「ギルド内でのアンソニーさんの評価が著しく低い事です。はっきり言って、今の貴方に信用がありません」
「ふ、ふ、ふざけんなぁっ!!」
思わずアンソニーが受付のカウンターを殴りつける。
しかしマリアは冷静にその行為を見つめている。
「そういう所ですよ。自分の思う通りにならないと癇癪を起す……そんな人に、貴重な冒険者の方を紹介する訳にはいきません」
マリアは毅然とアンソニーに対して言い切る。
「お引き取り下さい。抗議がある場合は、王国のギルド本部に書面で訴えて下さい」
マリアは慇懃に頭を下げる。
アンソニーが更に文句を言おうとした時だった。
周囲の冒険者達が、じっと自分を見つめている事に気付く。
しかも視線の全てが、アンソニーに好意的でない視線だった。
「くっ、くそ。覚えていろっ!!」
アンソニーはその場に居たたまれなくなり、カウンターに背を向けて歩き出す。
「(くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!!)」
アンソニーがギルドの門を潜り外に出ると、中からアンソニーを嘲笑う笑い声が聞こえてきた。
「(くそっ、俺がこんな目に会うのも、全てあいつ等の所為だっ!!)」
アンソニーは固くこぶしを握り締める。
そしてその目には仄暗い炎が揺らめいていた。
◆
同時刻。
森の奥。
ユーリ達は森の中の道なき道を、延々と進んでいた。
「うー、腕が抜ける。アモカンってこんなに重かったんだっけ? もう、捨てちゃいたいくらいだよぉ」
「駄目だよ、ユーリ。これには貴重な弾丸が入っているんだから」
アグネスは平気な顔でユーリを諭す。
「アグネスは凄いよね……アモカン持って、クレイモアも持って、そして手榴弾でしょ? なんだかんだで四十キロ越えだよ?」
「体力だけは自信があるんだ。実家では漁業を手伝っていたからね」
「漁業と体力って関係するの?」
「勿論。獲れた魚の運搬とか、後は濡れた網とか……あれは結構重いんだぞ」
「へえ、そうなんだ。あたしは学校の鞄以上に重い物を持った記憶が無いな……」
「……なんか、無性にイラっと来たぞ」
「ええっ、仕方ないじゃん」
「おい、ガキども。もう少し緊張感を持て……何処に敵や魔獣がいるかもしれないんだぞ」
ヴァスケスが二人に注意する。
「……せめてドローンがあればな……あれをストライカーに置いてきたのが悔やまれるぜ」
「んっ? ありますよ。ドローン。小さいので良ければ」
「「何ッ?」」
先頭を歩いていたコリンとヴァスケスが、ほぼ同時にユーリの方へ振り返る。
「何で持ってるんだ……いや、何処にそんなものがあるんだよっ!?」
「えーと、玩具ですよ。こんなちっちゃい奴」
ユーリが両手で大きさを示そうとして、持っていたアモカンの重さで身体が傾く。
「丁度良い。ここで休憩する。ユーリ、そのドローンを見せてみろ」
「えっ? はい」
ユーリは適当な場所に荷物を降ろすと、背嚢の中から手のひらサイズの、折り畳み式のドローンを取り出す。
「小さいんで、バッテリーもそこそこなんですけど。玩具にするにはちょうど良くて」
そう言いながら、ユーリはドローンを広げていく。
「本当はスマートフォンがあれば良いんですけど、コリン班長のノートパッドなら接続できると思いますよ」
「……そうなのか……やって見せろ」
「あ、はい。ドライバのインストールは……ネットが無いから無理か……あ、でも汎用のドライバで行けた気がする……」
ユーリは勝手にノートパッドの中を弄りながら、小型ドローンが使用できるようにセッティングする。
「ユーリ。お前、隠れた才能があったんだな」
「そうですか? 今時のJKならこれくらいで来ますよー」
「……お前、時々『JK』って言うけど、何だそれ?」
ヴァスケスの質問に、ユーリはキリっとした表情で答える。
「『女子高校生』ですっ!!」
◆
ヴァスケスに頭を叩かれながら、何とかドローンのセッティングが終わる。
ユーリは頭を撫でながら、コリンに操作方法を説明する。
「画面をタップ、あるいはスライドで指示が出せます。まずは上昇ですね」
コリンが画面上のボタンを操作すると、四つのモーターが可愛い音を立てて、小さなドローンが浮上する。
小型ドローンから送られてくる映像が、ノートパッドに表示される。
「軍用のドローンみたいに多機能じゃないですけど、映像位ならこれで見る事が出来ますね」
ユーリがそう言うと、コリンがユーリを見つめる。
「……作戦行動中に、こんな玩具を持ち込む勇気に免じて、今回は不問に付してやる。本来なら没収物だからな」
「ええっ、ひどっ」
ユーリが文句を言うが、コリンは全く聞いていない。
「(……これがあるだけでも、相当なアドバンテージになるぞ)」
ユーリがヴァスケスに弄られているうちに、休憩時間はあっという間に終わるのだった。




