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第35話 それぞれの思惑

 森の奥。


 ユーリ達は周囲を警戒しながら、偵察から帰ったアグネスの報告を聞いている。



「くっ……バギーとの間に入り込まれたようだな……」


「はい。今回は敵の数が多いです……複数の冒険者パーティが連携して動いている感じです」


「せめてバギーは回収したかったが……難しいか」



 コリンの発言にアグネスが無言で頷く。



「前回みたいな魔法使いがいると厄介だしな。中距離……目視の効く範囲は魔法の方が有利のようだぜ」



 ヴァスケスがアグネスの発言を補足する。



「ユーリ。バギーの偽装は?」


「一応、偽装網と、雑草でのカモフラージュは施してきましたが……目の良い斥候を欺く事は難しいかと……」


「確かにな……」



 コリンは素早く決断する。



「バギーは放棄する。無理に回収に向かうと、全面的な戦闘状態に陥る可能性が高い」


「ううっ……バギーちゃん」



 ユーリがべそをかくが、コリンは華麗にスルーする。



「とにかく、ある程度森を進んでから草原に出る。なおも追撃が掛かるなら……各個撃破で対応する……全員を一気に相手にするのはリスクが高すぎるからな」


「各個撃破は良いが、いつまでこんな事を続ければ良いんだよ?」



 ヴァスケスがコリンに尋ねる。



「もう、社則に定められている四週間は過ぎた……そろそろオレ達の好きにしても良いんじゃないか?」



 コリンは厳しい目つきでヴァスケスを睨む。


 気まずい沈黙が流れる。


 そして、先にコリンが口を開く。



「もう一度森へ出てから、本隊との交信を試みる……駄目なら……」



 そこでコリンは一度言葉を切ると、全員の顔を見回す。



「ストライカーを起動する。但し、街の占領は行わない……一気に領主を叩く」



 その言葉に、三人は息を飲む。



「領主を叩く事でどのような問題が発生するかは分からない……しかし、このまま逃げていてもジリ貧なのは変わらないからな」


「コリン班長……」



 ユーリが何か言いたそうにコリンの名を呼ぶ。



「ユーリ。何か言いたい事があるのか?」


「はい。できれば、街の人達には被害を出したくないです……」



「お前の気持ちは理解できる……が、全ては領主の出方次第だ……それは理解しろ」


「イエス、マム」



「よし。ここで各人の荷物に内容を決める……まず、アモカンはアグネスとユーリが持て」


「「イエス、マム」」



「通信機はわたしが持つ……クレイモアは……アグネス、持てるか?」


「はい。大丈夫です」



「いや、クレイモアは半分をヴァスケスが持て。その代わり、手榴弾をアグネスに託す」


「イエス、マム」



「細かなものはダッフルバッグに放り込め。これはわたしが持つ」



「一時間の休憩後、行動を再開する」


「「「イエス、マム」」」



 コリン達はその場で荷物の整理をしながら、つかの間の休憩を取るのだった。


 ◆


 冒険者連合。


 ギルドに貼り出された手配書に反応した、七つの冒険者パーティたちで作られた集団。



 何度かの会合ののち、グノーシアスという戦士が全体のリーダーとなり、魔法使いのジュディスがサブリーダーという立場になった。



「しかし、グノーシアス。全員で森の中に突っ込むのは少し無謀じゃねえか?」



 メンバーの一人の冒険者がグノーシアスに意見する。



「そうだ。闇雲に追いかけても、追いつける保証はねえ。それどころか返り討ちに逢う可能性だってある」


「森の中には、俺達でも手を焼く魔物が出るんだ……幾ら徒党を組んだと言っても、騎士団の様な連携は出来ない」



 グノーシアスが森の中での追撃を提案した途端、メンバー達からは多数の反対意見が出てしまった。



「じゃあ、どうするんだ? このまま見逃すのか?」


「そうは言っていない。ただ、森の中を全員で追いかけるのはやりたくないと言っている」



「……反対するなら、対案を出せよ」


「……奴らだって、いつまでも森の中に居られる訳じゃない……必ず草原に戻って来る筈だろ……そこで叩くのが定石だろうが」



 グノーシアスはジュディスの方を見る。


 ジュディスは各パーティのリーダーたちに話し掛ける。



「貴方達の懸念は理解できるわ。なので、追撃隊と、迎撃隊に分けましょう」


「ジュディス……」



 ジュディスはグノーシアスの方に手を上げて制止する。



「嫌がっている連中に無理強いしても成果は期待できないわ……だから、追撃隊にはグノーシアスのパーティと、あたしのパーティが参加。残りのパーティは迎撃隊とする……これでどう?」


「俺達はそれで構わないが……リーダーとサブリーダーが不在になると、迎撃隊のリーダーは誰がやるんだ?」


「それは、貴方達で決めて。何かあれば、狼煙か鏑矢で教えて」


「……しかし……」



 迎撃隊に割り振られたリーダーたちが不安そうな表情を浮かべる。


 するとそこに、にやけ顔のビクターが現れる。



「ならさ……アンタ達が奴らを追いかけている間、俺達が宝探しをしても文句はねえんだよな」



 その言葉にグノーシアスとジュディスの表情が険しくなる。



「おいおい、そんな怖い顔をするなよ……良いじゃねえか、その位の余禄があっても」



 そう言ってビクターは大きく両手を広げて見せる。



「どうせ、今から追撃を開始しても、追いつくのに二、三日……下手したら一週間位掛かるかもだろ……その間、ずっと待っているのも時間の無駄だろう?」



 ビクターの言葉に、冒険者たちの多くが頷いて見せる。



「この条件でどうよ? 追撃での成果は全部あんた達に渡す。その代わり、宝探しで見つけたお宝は俺達の物……悪くない条件だろ」



 そう言ってビクターは右手をグノーシアスに差し出す。



「いけ好かない奴だな……」


「てめえみたいに正義感で飯は食っていけねえんだよ……」



 そう言いながら、ビクターは狡猾な笑みを浮かべ、それを見ていたジュディスが顔を背ける。


 グノーシアスは、握手はせずに、ビクターの手を叩いて叩き落とす。


 それでもビクターは嬉しそうに口を開く。



「話は決まった。俺達は暫く宝探しをする……あんた達は真面目に追撃をする……いいな」



 いつの間にか、冒険者連合は、グノーシアス、ジュディスを中心にするグループと、ビクターを中心とするグループに分かれていた。



「大丈夫だよ。あんたらの合図を見逃す事はしないぜ……その位は信用しろよ」



 ビクターの言葉にジュディスが小さく呟く。



「(何のために連合を組んだのか……理解できていないようね)」



 ジュディスの懸念をよそに、話はどんどんと纏まっていくのだった。



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