第34話 追撃
森の中。
ユーリ達は連携を取りながら、見えた人影を探す。
「ユーリ。人影はどの辺で見たんだ?」
「はい。草原に置いてきたバギーとストライカーを結ぶ線の中間あたりです」
「ちっ、ストライカーのエンジン音を聞かれたのか……」
「はい。その可能性は高いかと……冒険者の斥候職は目も耳も、鼻も効く連中が多いですから」
「バギーが発見された可能性は?」
「偽装は施してありますが……ストライカーほど厳重には行っていないので」
アグネスが眉を顰めながら報告する。
コリンが腕を組んで思案する。
「それよりはまず、ユーリが見た人影を探そうぜ。このままにしておくと厄介そうだ」
ヴァスケスの意見にユーリとアグネスが頷く。
しかし、コリンの下した判断は逆だった。
「我々はこのまま森の奥を目指す……大きく迂回してから草原へ戻る」
「何故っ?」
「これ以上、我々がストライカーの傍にいる事は危険だ……一度、斥候の連中と距離をおく」
「バギーはっ?」
「最悪、鹵獲されることを覚悟する」
「ふ、ふざけんなっ!!」
思わずヴァスケスが大きな声を上げる。
「でかい声を出すな……冷静になれ」
ヴァスケスは顔を真っ赤にしてコリンを睨みつける。
「……何で、そんなに弱腰なんだよ……」
ヴァスケスは怒りを抑え込みながらコリンに尋ねる。
「我々の最重要案件は、ストライカーの秘匿だ……今はまだ、奴らに見つかる訳にはいかない」
「さらに、それと同等で我々の生命を守らなければならない」
「なら、なおさら何故ストライカーを出さないっ!?」
するとコリンはヴァスケスをじっと見つめる。
「わたしは『魔法』を恐れている……アグネスに向けられた魔法がストライカーに襲い掛かった場合、RWSに損傷を受ける可能性が高い」
「そ、それは……」
「ありえない話ではない。現にあの魔法の痕跡では、地面の一部がガラス化していた……それほどの高温に、各種センサやレンズが耐えられるか?」
コリンは更にヴァスケスに語り掛ける。
「ストライカーを効率的に運用する為にも、今はまだ見つかる訳にはいかんのだ」
コリンの言葉に、ヴァスケスが俯いてしまう。
「勿論、この判断の責任はわたしが取る。いいな」
「……イエス、マム」
ヴァスケスが小さな声で返事をする。
コリンはユーリとアグネスに振り返ると、すぐに指示を出す。
「バギーは使えないものとして行動する。荷物が嵩むが辛抱しろっ」
「「イエス、マム」」
「よし、全員森の奥へ移動する」
コリンの号令の下、四人は森の奥へと移動していくのだった。
◆
「何? 奴らは森の奥へと向かっただと?」
冒険者の男が斥候からの報告を聞いて、思わず問いただす。
「はい。奴ら、森の中で何かしていたんですが……我々の接近に気付くと、すぐに森の奥へと移動していきました」
「……交戦はせずにか」
「はい」
報告を受けた複数の冒険者パーティのリーダー達が、皆黙り込む。
ここは冒険者パーティが連合を組んだ、言わば連合司令部。
七つの冒険者パーティが共同で、コリン達の討伐部隊を編成したのだ。
その連合司令部は今、草原の北端に陣取っていた。
総勢で四十名を超える冒険者たちが、コリン達の追撃を開始したのだ。
「しかし……『魔道の頂』は不参加かよ……日和ったな、あいつらも」
「そう言ってやるな。魔法戦士と盾職が重症じゃ、すぐには戦えんだろう」
「まあ、Aクラスパーティとか言っていたが、あっさりと負けて帰ってきたじゃねえか」
「それだけ相手の実力が上だって事だわ……舐めてかかると『魔道の頂』の二の舞よ」
「はん。それは奴らが下手こいたからだ。オレ達ならそんな事はしねえ」
各パーティのリーダーたちによる、マウントの取り合いが始まる。
そんな中、一際ガタイの大きな冒険者が一喝する。
「止めろ!! 今やるべきは仲間の悪口ではない。賞金首を如何に討伐するかを話し合うべきだろう」
男の名はグノーシアス。
『破壊王』の二つ名をもつ戦士だ。
グノーシアスの一喝に、他のパーティのリーダーたちが静かになる。
「しかし、グノーシアス。奴らが森の奥へ逃げ込んだとなると……当初の作戦が無駄になるぜ?」
その声の主にグノーシアスがギロリと一睨みする。
「ふん。奴らもいつまでも森の中に潜伏は出来まい……必ず、草原に舞い戻ってくる」
「そうね……今は我々の追撃を振り切って、反撃の算段をしているのかもしれないわね」
そう言ったのは魔法使いのジュディス。
『魔道の頂』のクリスとは、良いライバル関係だったようで、今回『魔道の頂』の代わりに魔法使いをメインにしたパーティで参加している。
「いずれにしろ、奴らが森に隠れてしまった以上、作戦は変更だな」
「……」
「どうだろう。ここは奴らが移動に使っていた、馬のいらない馬車とやらを探すというのは?」
チャラい感じの冒険者、ビクターが提案する。
「もし、それを見つけて領主に差し出せば、結構な恩賞ものだと思うぜ?」
ビクターは口角を気味が悪いほど上げて嗤う。
「ふん。やりたければ、お前達だけでやれ……儂は参加せんぞ」
グノーシアスがそう言うと、ビクターは両肩を竦めて見せる。
そしてグノーシアスはジュディスに顔を向ける。
「おい、少し話がある……顔を貸せ」
「女性への誘い文句としては最低ね」
「……」
グノーシアスは眉を顰めると、仲間達から距離を取る。
ジュディスもその後に続いて、仲間の輪から外れる。
グノーシアスは周囲を見回してからジュディスに話し掛ける。
「どうやら、話が通じるのはお前さんだけのようだ……今のうちに連携を取りたい」
身体に見合わない提案だった。
「あなた……ただの脳筋だと思ったけど……違ったのね」
グノーシアスは苦笑しながら顎を撫でる。
「まあ、この商売、舐められたらお終いだからな……処世術ってやつよ」
その言葉にジュディスも苦笑する。
「気に入ったわ……こちらこそよろしく。グノーシアス」
そして二人の密談が始まるのだった。




