第32話 戦訓
『魔道の頂』が街へ帰還して数日後。
ギルドマスターであるゴライアスは、再び辺境伯騎士団の本部を訪問していた。
ゴライアスが訪問すると、すぐに辺境伯騎士団の団長であるアビゲイルが姿を現す。
「突然の訪問を陳謝する……どうしてもすぐに伝えたい事が出来たのだ」
「構わんよ。こちらも情報収集していたところだ」
そう言ってアビゲイルは、応接室のソファにゴライアスを誘う。
ゴライアスがソファに座ると、対面にアビゲイルも腰を下ろす。
「で、伝えたい事とは?」
早速アビゲイルが口を開く。
「……例の女達の件だ……ウチのAランク冒険者パーティが……打ち負かされて帰ってきた」
「ほう、Aランク冒険者パーティか……ちなみに、なんというパーティだ?」
「『魔道の頂』……強力な魔導士を中心とした、バランスの良いパーティだ……」
アビゲイルは眉を顰める。
「魔導士がいても勝てなかったという事か……」
「ああ……伝えたかったのは、奴らの戦い方についてだ……」
「戦い方……なるほど、それは確かに興味があるな」
アビゲイルが前のめりの姿勢を取る。
それに応えるようにゴライアスも体を起こす。
「……奴らは非常に狡猾だ……それに情報収集能力が高い」
「情報収集能力か……それは例の空を飛ぶ魔道具の事か?」
「知っているのか?」
「まあな……時々街の上を飛んでいる奴だろう……騎士団でも噂になっている」
その答えにゴライアスは驚いたような表情を浮かべる。
「流石は騎士団……既に周知の事実であったか」
「まあな。ただ、アレを戦場に持ち込まれると確かに厄介だな……」
アビゲイルは腕を組んで小さな声で唸る。
「後は、奴らの礫の魔道具についてだ……あの礫は魔道障壁で防ぐ事ができる……但し、二、三回程度だが……」
「なるほど……それほどの威力があるのか……ならば複数枚展開しておけば」
「それがな、あの魔導杖、連発が可能なのだ」
「それは……厳しいな。それほどの威力か」
「しかも、魔道攻撃の範囲外から届くようだ……」
ゴライアスの言葉にアビゲイルの表情が曇る。
「滅茶苦茶な火力だな……それが四人……たった四人だが、されど四人も、といった所か」
「最初に狡猾だと言ったのは、奴らは集団対集団の戦いをしない……どちらかというと各個撃破で攻めてくる……『魔道の頂』もそれでやられた」
「むう……」
「しないのか、出来ないのかは分からんが……ただ、効率的に敵を倒す事を理解している事は事実だろうな」
ゴライアスとアビゲイルの話し合いは、まだまだ続くのだった。
◆
「良かったね、アグネス。戦闘服が新しくなって」
ユーリはそう言ってアグネスの尻を叩く。
「いやあ、ユーリが繕ってくれたのでも良かったんだけど……やっぱり新品には敵わないな」
そう言ってアグネスは履いている戦闘服のズボンをペタペタと触る。
ユーリ達は今、森に隠してあるストライカーに補給に来ていた。
ヴァスケスはじゃれている二人に声を掛ける。
「おい、此処のアモカンを運んでおけ。アグネス、お前の弾丸は特殊だからな、自分で運ぶんだぞ」
「イエス、マム」
アグネスはそう言われて、XM-7用の弾丸の入ったケースを確保する。
「コリン、クレイモアはどうする?」
「在庫は後どの位ある?」
「丁度十個だな……まあ、元々の作戦が護衛任務だったからな……数が少ないぜ」
ヴァスケスが答えると、コリンが頷く。
「クレイモアは全て持って行こう……追っ手が数を頼りにしてきた時の対抗手段が必要だ」
「手榴弾は? こっちも数が少ないが……」
「手榴弾よりも、グレネードの弾を持って行く」
「イエス、マム」
コリンの指示にヴァスケスが返事をする。
「ユーリ、エンジンの始動試験を行え。アグネスは各種機器の動作確認だ」
「「イエス、マム」」
ユーリが車内に駆け込んできて、狭い運転席に体を押し込む。
続けてアグネスが入ってくると、そのままRWSの操作席に座る。
コリンとヴァスケスは壁に掛けてあったインカムセットを頭に装着する。
ユーリがエンジンを始動させると、車体の中に重低音のエンジン音が響き始める。
『エンジン始動、問題なし。各種計器モニタ、オールグリーン』
『RWSの起動確認。各センサを順に切り替えます』
『一週間近く寝ていた割には、寝起きが良いな』
『このまま動かしますか?』
『いや、エンジン始動とバッテリーの確認だけで良い。アグネス、センサの切り替えはどうだ?』
『問題ありません。順調です』
その答えを聞いたヴァスケスが、何か企むような笑みを浮かべる。
『なあ、コリン。このままコイツで移動しようぜ?』
その台詞を聞いてコリンがヴァスケスを睨む。
『始動試験だと言ったはずだ……確認が出来たらエンジンを切れ』
『イエス、マム』
暫くすると、急にストライカーのエンジンが停止する。
車内に鳴り響いていた重低音のノイズが消え、静寂が訪れる。
コリンがインカムセットを外す。
「ユーリ、アグネス。補給物資を車外に運び出したら、偽装網を掛けろ」
「「イエス、マム」」
その返事を聞いてからコリンはヴァスケスの顔を見つめる。
「少し話がある……」
そう言ってコリンは親指で車外を指さす。
ヴァスケスは小さくため息を吐くとコリンに指示に従って、車外へ出るのだった。
◆
「ヴァスケス。何故あんなことを言う?」
「あんな事って?」
「……ストライカーは移動させない。移動させるときは本隊と合流する時だと、既に何度も言っている筈だ」
するとヴァスケスが不機嫌そうに眉を顰める。
「じゃあ、その本隊様は何処にいらっしゃるんだよ?」
「……分からん……だから探している」
「もう四週間になるぞ? まだ、通信すら通じていないんだぞ?」
ヴァスケスが苛立ったように文句を言う。
「大体、作戦継続の目安の四週間って言ったって、今の現状は難民救済プログラムの護衛ですらねえだろが」
「……何が言いたい」
「あの街の騎士団とやり合った……冒険者も排除した……その結果はどうだ? 敵が増えただけじゃねえか」
「……」
「あの街すべてが敵に回る事だって、可能性が無い訳じゃない」
ヴァスケスが一気に捲し立てる。
「だったら、その前に奴らを殲滅する……コイツがいれば、それが可能だ……違うか?」
「ヴァスケス……我々は四人しかいない……この状態で街を占拠しても維持できない……その位は理解できるだろ?」
「だから来る当てのない本隊を待つっていうのかよっ!?」
「……そうだ。我々はPMCなんだ。殺戮者ではない」
「街の奴らはそう思ってないだろ? だからあんな連中をたきつけてきた……多分これからはもっと苛烈になるぞ?」
「……それは理解している」
「だったらっ!!」
「もう一度言う。我々はPMCなのだ……規律が無くなれば、ただの殺戮者になってしまう」
「くっ」
ヴァスケスが唇を噛む。
その時、ユーリが二人の元に駆け込んできた。
「森の中に人影を発見しました。偵察の可能性があります」
コリンとヴァスケスはお互いを見つめ合うと、大きく頷いた。
「すぐにストライカーから離れる。こいつを奴らに見られる訳にはいかない」
「イエス、マム」
そう言って、ユーリがアグネスの元に掛けていく。
「この話は後にしよう……現状の脅威を排除するのが先だ」
「分かってるよ……」
コリンとヴァスケスも走り出すのだった。




