閑話 敗北の意味
『魔道の頂』が乗車する馬車の中。
怪我人が三人も寝ているせいで、馬車の中は狭い。
そんな中で、クリスはソフィアから治療魔法を受けていた。
「あー、あー、あー」
クリスは喉を押さえながら声を出す。
「もう、大丈夫みたいですね?」
ソフィアが微笑みながらクリスに話し掛ける。
「ありがとう、ソフィア。 しかし、アイツ、なんて物を使うのかしらっ!?」
クリスが急に怒り出す。
「あの位の冗談、聞き流しなさいよっ!! もう、一生、声が出ないかと思ったわ」
「でも、あの人が教えてくれたじゃない。よく水で洗い流して、安静にしていれば数日で回復するって」
「ふん。そんな事しなくても、ウチにはソフィアがいるじゃない」
そう言ってクリスはソフィアに抱き着く。
「や、やめてよ……」
その時、ソフィアは気づいてしまった。
「……クリス……震えているの?」
その言葉に、クリスが静かに視線を逸らす。
「……正直言うと……凄く怖かった……声が出なくなるのもだけど……あの時、理解したのよ」
そう言ってクリスはソフィアとアデレードを見つめる。
「あいつらは、自分たちが理解できない『理』で生きているんだなって……」
クリスはそう言ってから俯いてしまう。
「クリス……」
ソフィアがクリスの手を取って、自分の掌で包み込む。
「確かに今回は負けたわ……でも、何とかこうして全員生き延びる事が出来たわ」
「それは、あいつ等が……」
「クリス。今回は確かに負けちゃったけど……それを補って余りある経験を積むことができたわ」
「……経験?」
「そう。例えば、彼女たちの武器に対する魔道障壁の強度についてとか、有視界なら魔法の方が火力が上とか……一番の経験は『考える敵』と戦えたこと」
「ソフィア……」
「クリスは色々プライドが折られちゃったみたいだけど……それもいい経験だったと思うわよ」
「な、なによ、それっ!?」
「だって、クリスなら同じ間違いは繰り返さないでしょ?」
そう言ってソフィアが微笑む。
アデレードも横で小さく頷いている。
「今回は、Aクラスパーティという名前に酔っていた自分達への、良い戒めだったと思うの……」
「ソフィア……」
「もう彼女達とは二度と戦いたくないけど……もし、もう一度戦う事になったら……もっと違った戦い方を選べるはずよ」
クリスはじっとソフィアの言葉を聞いていた。
そして握られていたソフィアの手を優しく振りほどく。
「クリス……」
ソフィアがクリスの名前を呼んだ時。
クリスの手がソフィアの目に突き出される。
「えっ?」
クリスの中指が親指にロックされると、一気に解放される。
パチン
「痛ったーい!! クリス、何するのよっ!!」
「ふん。ソフィアが偉そうにあれこれ言うからでしょっ!!」
「な、何ですってっ!! 落ち込んでいるかと思って慰めて差し上げたのにっ!!」
「ふん、誰も頼んでませんっ!!」
「……ク、クリスっ」
二人がいきなり口喧嘩を始めてしまい、アデレードは横でオロオロしてしまう。
「ちょ、ちょっと、二人とも……止めようよ……ねえ」
アデレードが二人の間に入って仲裁しようとした時だった。
「こ、此処は……どこですか」
一番傷の酷かったエレナが声を上げた。
「「「エ、エレナッ」」」
三人の声が重なる。
「気が付いたのねっ!! 良かったっ!!」
クリスがエレナの近くへズリズリと移動する。
「あたし……あの小柄な女の人と鉢合わせして……凄く体が熱くなって……気を失って……」
クリスはエレナの頭を優しく撫でる。
「エレナ……今は大人しく寝ていなさい。後でゆっくり、お話しましょうね」
「クリスさん……」
そう言ってエレナは再び眠ってしまう。
その姿を見届けてから、クリスが振り返りソフィアとアデレードに問いかける。
「……そう言えばまだ言ってなかったけど……『魔道の頂』には優秀な斥候役が必要だと思いませんこと?」
「え……それはそうだけど……」
「なので、エレナが復活した暁には、彼女を『魔道の頂』のメンバーにしようと思っていますのっ!!」
クリスはそう言って胸を張ってみせる。
「『魔道の頂』が、今後さらに成長する為ですわっ!!」
クリスの声が馬車の中に響くのだった。




