第30話 異なる理(ことわり)
既に周囲が薄暗くなった頃。
「コリン班長……クリスさんを連れてきました」
ユーリがクリスを連れてコリンの元に来る。
「ユーリ。猿轡を外してやれ……但し、魔法を使おうとしたら、躊躇なく撃て。いいな」
「イエス、マム」
ユーリはそう答えてから、クリスの猿轡を外す。
『ぶはああっ!! ああ苦しかった』
そう言ってクリスはコリンを睨む。
「此処に呼んだのは話があるからだ……まずは座れ」
コリンはそう言って、自分の向かい側を指さす。
「魔法を行使したら……撃つ。それだけでなく、お前の仲間達も全員死ぬ……そう伝えろ」
ユーリがコリンの言葉を伝えると、クリスは鼻で笑う。
『そんなに魔法が怖いの? 腰抜けね』
「何と言われようとも、自分の理解の及ばないものを恐れる……当然のことだ」
『面白味の無い女ね』
クリスはその場に胡坐をかくように座り込む。
クリスの横にはユーリが控えていて、M9をクリスに向けている。
「これから話す事は尋問ではない。わたし個人の疑問と思って貰っても構わない」
『……何が聞きたいの?』
「そうだな……まずは、我々ともう一度戦いたいか? 戦ったとして勝てると思うか?」
コリンのストレートな質問に、クリスの顔が引きつる。
『……そうね。お互い、戦い方を学んだのよ。あたし達も次は負けない……』
そこまで言って、クリスは首を振る。
『いえ、それは嘘ね。次に戦えば、メンバーの誰かが死ぬわ……アンタ達も、あたし達に見せていない魔道具がまだあるのでしょう?』
コリンはクリスと話をしながら、細い枝にナイフを当てて、細かなささくれを作っている。
それを何本か作ると、その上に乾いた枯れ葉を砕いて載せる。
ポケットからファイヤースティックを取り出すと、クリスの目の前に大量の火花を発生させる。
火花が枯れ葉に燃え移り、細く白い煙を上げる。
金属製のストローを口に咥えると、種火に息を吹きかける。
枝のささくれに火が燃え移り、次第に大きな炎になっていく。
時間にして、一分も経っていない。
クリスが驚愕の表情でコリンの行動を見つめる。
コリンは細い枝をくべながら、クリスに話しかける。
「これは魔道具ではない……魔力を一切使っていないのは、お前が一番よく分かるだろう?」
そう言ってコリンは顔を上げて、クリスを見つめる。
『……そんなに簡単に火を起こしたではないか……本当に魔道具ではないのか?』
コリンはファイヤースティックをクリスに放り投げる。
クリスは手の中の金属の棒状のものをしげしげと見つめる。
「それが何か、理解できないだろう? 我々が魔法を理解できないのと同じだ」
クリスはコリンに問いかける。
『何が言いたいのよ』
「我々は異なった『理』で生きている……本来なら重なる事が無かった……」
『……ことわり……』
「ああ。あんたの魔法の威力は凄まじい……正直、二度と食らいたくない……だが、二度と食らわない様に、対策を取る」
大きくなった焚火の中で、枝がパチパチと音を立てる。
「我々は死ぬ訳にはいかない……生きて帰る……それが我々の使命でもある」
そう言ってコリンはクリスを見つめる。
「もう一度聞く。我々と戦いたいか?」
クリスはまっすぐにコリンを見つめ返す。
『……いいえ。金輪際、お断りよ』
其処から二人は取り留めのない話を始める。
普段はどんな食事をしているのか、冒険者の暮らしぶりはどうかとか。
そして暫く会話をした後、コリンがクリスに告げる。
「明日の朝、お前たちを解放する……どこへなりと行くが良い」
『……』
「ただし、次戦場で姿を見たら……真っ先に排除する。強敵だからな」
『……買い被りよ……』
「ユーリ、猿轡を」
「イエス、マム」
ユーリは長い通訳を終えて、クリスに猿轡を掛ける。
「話は終わった……彼女を仲間の元に返してやれ」
「イエス、マム」
ユーリはクリスの肩を軽く叩き、仲間の元へ誘う。
焚火が再びパチンと小さく爆ぜた。
◆
ユーリとクリスが仲間の元に戻ると、ソフィアが疲れ切って眠っていた。
もう一人の魔法使いアデレイドも、その横で一緒に眠っている。
『クリスさん。不自由でしょうけど、朝まで辛抱してください』
ユーリがそう言うと、クリスはほんの少しだけ首を動かす。
どうやら『了承』の合図らしい。
クリスを座らせると、ヴァスケスが声を掛けてきた。
「終わったのか?」
「はい……」
そう答えて、ユーリはじっとヴァスケスを見つめる。
「ん? 何か用か?」
「いえ……先程はすいませんでした……時間を頂いたので、頭が冷えました」
「……そうか……」
ヴァスケスはそう言って背嚢の中から携行糧食を二つ取り出す。
「アグネスの所に持って行け。一二〇〇になったら見張りを交代だ……」
「……イエス……マム」
その場で俯くユーリの手に、二つの携行糧食が載せられる。
「アグネスの火傷も酷い……大した薬は無いが、ケアしてやってくれ」
「……わかりました……ユーリ、待機任務に入ります……」
そう言ってユーリはヴァスケスに敬礼する。
ヴァスケスもきちんと敬礼を返すのだった。




