↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/75

第3話 異世界でもプロの仕事

 ユーリの乗車するバギーは、冒険者ギルドの裏側に位置する解体場までやってきた。


 解体場の前には、討伐された魔獣や魔物を載せた荷車が順番待ちをしている。


 ユーリもこの行列にバギーを並ばせる。


 顔なじみになった冒険者が、バギーに積まれた巨大イノシシを見て驚愕する。



『すげえの獲ってきたな……金貨にしたら二十枚くらいか……』


『そんなになるかな? おっちゃんの査定は厳しいから』


『そういう時はそのまま肉屋に持って行きゃあいんだよ……まあ、これはちょっとでかすぎるけどな』


『だよね……』



 ユーリが苦笑する。


 そして暫く待っているとユーリの順番になる。



『おっちゃん、高く買い取ってね……っていうか、一人じゃ下ろせないの……助けて』



 ユーリがそう言うと、カウンターの向こう側のガタイの良い男が顎をしゃくる。



『おい、嬢ちゃんの獲物、下ろしてやれ』


『『『うすっ』』』



 若い男達が数人出てきて、ユーリのバギーを取り囲む。



『あ、今ベルト外すからちょっと待ってね』



 ユーリがラチェットベルトのロックを外す。


 イノシシの保定が緩み、ガクンッと地面に巨体がずり落ちる。



『へえ、そのベルト、便利そうだな』



 いつの間にかドワーフの様な冒険者が、ユーリの持っているラチェットを興味深げにのぞき込んでいた。



『ほうほう、これが梃子になって、一方向にしか回らなくなっているのか……』


『あ、あの……すいません。仕舞えないんですけど』


『おう、すまんな。しかし、これは中々の発明品じゃな……わしに売ってくれんか?』


『すいません。会社の備品なんで……お売りできません』


『そうか……残念じゃの』



 そんなやり取りをしている間に、若い男達によってイノシシが解体場の中へと運び込まれて行った。



『おい、嬢ちゃん。頭以外は完璧な状態だ……オマケして金貨二十二枚でどうだ?』


『オッケーです』


『おっけー……? まあいい。じゃあ、これを持っていけ』



 おっちゃんは『金貨二十二枚』と書かれた木札をユーリに渡してきた。



『ありがと。これで暫く食べるのに困らないよ。携行食だけだと味気ないからね』


『おまえ、金貨二十枚ありゃ、一月は食っていける金額だぞ?』


『ウチの仲間には大飯食らいが二人いるからね……大変なんだよ』



 ユーリはそう言って、バギーの運転席に戻る。



『じゃあね』



 ユーリが手を振って走り出す。



『相変わらず賑やかな奴だ……』



 おっちゃんはそう呟くと、次の獲物の査定に移るのだった。


 ◆


 ユーリはギルドの横にバギーを止める。


 すかさず、スラムの子供たちが駆け寄ってくる。



『ユーリ、見張っててやるからなんか奢って』


『『奢ってー』』



 ユーリは苦笑しながら子供たちの顔の高さまで腰を折る。



『じゃあ、お願いね。でも、危険な事があったら、中にいるから知らせるんだよ?』


『『『わかった』』』



 ユーリが運転席から降りると、すかさず最初に話しかけてきた子供が運転席に飛び乗る。



『えへへ、馬無しで動くなんてすげえよな』


『でもへんなにおいがする……』


『ばしゃのしゃりんとちがうねー』



 チビ達がバギーを遊び場がわりにし始める。



『あんまり変なところ触るなよー』


『『『わかった』』』



 ユーリは子供たちのはしゃぐ声を聴きながらギルドの中へと入って行った。


 ◆


 時間帯が夕方だったので、カウンターは結構混雑していた。


 木札や仕事の依頼書を持った冒険者がワイワイと喋りながら並んでいる。


 ユーリは木札を持ってその列の最後尾に並ぶ。


 暫く待っていると、ギルドの入り口の方が騒がしくなる。


 ユーリが振り返ると、コリン班長達が戻ってきたようで、混雑する人波を掻き分けながら、酒場の方へ移動していくのが見えた。



「意外と早かったな……でも、あの三人だけで大丈夫かな……」



 ユーリは少しだけ不安を覚える。


 クールな上官。


 喧嘩っ早い先輩。


 食べ物にしか興味のない同期……。



「……大丈夫だよね……」



 ユーリはあまり考えない事にして、自分の順番を待つのだった。


 ◆


『あんだ、あいつらは?』



 ギルドの一角で、あまり素行の良くない連中がコリン達を見て呟く。



『あんなに薄汚れた格好をしてやがんだ? 斑点だらけじゃねえか?』


『身体中に何か付けてるが……邪魔にならねえのか?』


『見てくれは上玉なんだよな……へへへ』



 そんな値踏みをされている事に気付かないコリン達は、丸テーブルを三人で囲む。



「ユーリの奴、まだ並んでやがったな」


「この時間は混雑しますからね」



 其処へ妙齢の女性給仕が現れる。



『注文は?』


『ひがわり』『よっつ』『えーる』『よっつ』



 アグネスが覚えた単語だけで注文をする。



『はいよ』



 給仕は注文を聞くと、さっさと厨房に戻っていく。


 コリンは相変わらず手帳とにらめっこをしていて、思い出したように何かを書き入れている。


 ヴァスケスはカウンターに背中を向ける形で座っているので、不機嫌そうに壁の一角を見つめている。



 其処へ先程の素行の良くない連中が近づいてきた。


 いち早く気付いたコリンが小さく顎をしゃくってヴァスケスに知らせる。



 ヴァスケスが大きなため息とともに、がっくりと頭を落とす。


 そして背後から、気持ちの悪い声が響いてきた。



『おい、おい、女だけで何やってんだよ?』


『俺達も丁度飯時なんだ……一緒に食わねえか?』


『っていうか、お前たちも食わせろよ……旨く食ってやるぜ?』



 ヴァスケスが頭を落としたまま小さく呟く。



「うせろ、ぼけっ」



 其処に先程の給仕がエールを抱えてやってきた。


 素行の良くない冒険者たちを一瞥してから、テーブルにエールのジョッキを置く。



『日替わりも持ってくるから、待ってな』



 すると、冒険者の一人がテーブルの上のジョッキを掴むと、勝手にごくごくと飲み始めてしまう。



『……相変わらずまずいが……おれ達をもてなそうなんて、気が利くじゃねえか』


『ははは、ちげえねえ』



 そう言ってもう一人も勝手にエールを飲み始める。


 しかし、コリン達は無言で男達を無視している。


 それが気に入らなかったのか、冒険者の一人が急に声を荒げる。



『なに無視してんだよっ!? 薄汚ねえ格好しやがってっ!! せっかく声を掛けてやってんのになんだその態度はっ!!』



 男が大声を上げたせいで、ギルドの中の音が消える。


 フロアに居た冒険者たちが、コリン達の成り行きを見つめている。



『おい、すかしてんじゃねえっ!!』



 冒険者の一人が、背中を向けているヴァスケスの肩を掴もうと手を伸ばす。



 バシッ



 ヴァスケスが振り返りもせずに男の手を叩き落とす。



『痛ぇええ!!』



 男が手首を押さえながら一歩下がる。



『こいつっ、やんのかっ!!』



 男達の手が腰の剣に伸びる。


 次の瞬間、ヴァスケスが叫ぶ。



「エンゲージッ!! ユーリッ、障害を排除せよッ!!」


「イエス、マム!!」



 突然背後から聞こえた声に、男達が振り返る。


 其処にはテーブルにいる女たちと同じ格好をした若い女が腰を低くして、近接戦闘の構えをとっていた。



『今なら、まだ間に合います。大人しく引き下がってくれますか?』


『何だよ、お前はっ?』


『おい、こいつから叩きのめせっ!!』


『おうっ』



 男が剣を抜こうとした瞬間、ユーリは男の間合いに飛び込む。



『えっ?』



 右フックが男の脇腹の後ろに打ち込まれる。



『ぐえぇえええ!!』



 男は体を反らせながら床に倒れ込む。


 ユーリは唖然とする二人目の男に近づくと、今度は左フックを脇腹の後ろに叩き込む。



『グボッッ』



 二人目もその場に崩れ落ちる。


 そしてヴァスケスの肩を掴もうとしていた男の目が驚愕で大きく見開かれる。


 ユーリはその男の前で一度しゃがみ込むと、すぐさまその場で身体を伸び上がらせる。



 同時に無防備になった男の顎目がけて掌底を打ち上げる。


 男の身体が一瞬床から離れ、そして着地しながら崩れ落ちる。



「ふっ」



 ユーリが構えを取り直し、素早く息を吐く。



「クリア」



 そして一瞬の間ののち、ギルド内が歓声に包まれる。



『すげえな、ねえちゃん』


『あっという間にのしちゃったよ』


『早すぎて見えなかったぜ』



 野次馬たちがユーリに話し掛ける。



「いやあ、そんな……命令だったんで……」



 ユーリが頭を掻きながら照れていると、再びヴァスケスから指示が飛ぶ。



「ユーリ、こいつらを外に出しておけ。目障りだ」


「……イエス、マム」


「あ、ユーリ、手伝うよ」



 アグネスはそう言って倒れている冒険者二人の足首を掴むと、荷物のように引きずっていく。



「あ、ちょっと待ってよ」



 ユーリも転がっている男の襟首を掴むと、ズルズルと荷物を運ぶように引きずっていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。