第27話 魔道の頂、銃火に挑む
「クリスッ、ダロスはっ?」
「死んでないわよ……ただ、腕に礫の破片が……血を止めないと」
「ソフィアがいれば……」
アデレードが唇を噛む。
「居ない者を悔いても仕方ないでしょ。それよりポーションを」
「う、うん」
アデレードがポーチの中から濃い青色の液体の入った瓶を取り出す。
「ダロス、しっかりするのよ。今助けるから」
クリスは受け取った瓶の蓋を開けると、ダロスの傷口に液体を掛ける。
すると、傷口が淡い緑色に発光し、傷口が少しずつ塞がっていく。
「本当は腕に刺さった破片を取り除いてからやりたいんだけど……時間が無いの」
「……大丈夫だ……分かってる」
ダロスが痛みを堪えながら答える。
ガキンッ、ガキンッ
その時、展開していた魔道障壁に罅が入る。
「来たかっ!!」
ガシャンッ、ガキン、ガキン、ガキン、ガシャンッ
二枚目の魔道障壁が破壊される。
「アデレード、急いでっ!!」
「……魔道障壁っ!!」
アデレードが素早く詠唱して魔導障壁を展開するが、それ以上の速さで障壁が破壊されていく。
「ま、間に合わないっ!!」
ガキン、ガキン、ガキン、ガシャンッ!!
最後の一枚が破壊される。
「くっ……」
アデレードが死を覚悟した瞬間、クリスが反撃に出る。
「……地より出でて敵を穿て!! ロックファングっ!!」
クリスの前方の地面が急速に隆起し、無数の針のようになって進んで行く。
「串刺しになれっ!!」
もうもうと土煙が上がる中、クリスは肩で息をしながら前方を睨みつけるのだった。
◆
コリンはユーリと合流しようとしていた。
その時、不意に視界の中に三人の男女の姿を捉える。
男が地面に倒れ、二人の女性がそれを介護しているように見える。
「(……こっちには気づいていない……)」
そう思った瞬間、コリンは決断した。
すぐさまプローンの姿勢を取ると、真ん中の女性目がけて射撃を開始する。
バンッ、バンッ、バンッ!!
コリンの予想通り、女性の前に白い蜘蛛の巣状の何かが浮かび上がり、光の粒になって消えて行く。
「(弾数で押し切るっ!!)」
コリンは続けて引き金を引く。
バンッ、バンッ、バンッ!!
バンッ、バンッ、バンッ!!
右端の女性の表情が変わるのが見えた。
「(いける……!?)」
中央の女性がこっちを見つめている。
その唇が動いているのが見えた。
「(チッ……さっきのを食らったら……この距離ではっ!!)」
コリンはすぐさま立ち上がって逃げ出す。
直後、背後から地面が隆起しながら迫ってくる轟音が聞こえてきた。
「(くそっ、魔法かっ!?)」
コリンはその場で横飛びして草むらに飛び込む。
直後、地面が鋭角に伸びた、無数の針の様な岩塊に変形する。
バキバキバキバキッ!!
コリンはギリギリのタイミングで岩塊の攻撃を避ける。
「何て攻撃だっ!!」
コリンはM4のマガジンリリースボタンを押してマガジンを外す。
マガジンポーチからフル装填されたマガジンを取り出し、外したマガジンをしまう。
「ユーリの言う通りなら……もうでかい魔法は来ない筈……」
更に腰に下げていた銃剣を銃に装着する。
コリンは土煙がもうもうと上がる中、再度攻撃の機会を伺うのだった。
◆
「しっかりして……血は止まったよ……」
ユーリは倒れている女性に話し掛けるが、意識が戻らない。
「班長からは『捕虜は獲らない、捕虜になるな』って言われているけど……」
ユーリはもう一度、女性の姿を見下ろす。
その時、地面が激しく揺れ、バキバキと何かが崩れるような音が聞こえた。
「な、なに?」
ユーリが音のした方向を見ると、もうもうと土煙が上がっているのが見えた。
「手榴弾……じゃない……魔法っ!?」
ユーリは決断する。
「怒られてもいい……この子を見捨てていけないっ!!」
ユーリは女性を抱きかかえると、そのまま土煙のする方向に歩き出す。
「多分、あそこに皆いる……合流しないと」
ユーリは一歩ずつ、しかし確実に鉄火場へ近づいて行く。
◆
その音と地面を揺らす振動はヴァスケス達にも届いた。
「派手にやってんな……しかし、手榴弾の音じゃねえ……お前たちの魔法ってやつか?」
ヴァスケスがソフィアに尋ねるが、ソフィアはヴァスケスの言葉を理解できない。
ただ、先程の音と振動は、クリスが魔法を発現させたものだとすぐに理解していた。
黒い煙幕の様な土煙が立ち上る。
「おい、急ぐぞ……」
ヴァスケスはソフィアの襟首を掴み直すと、歩く速度を上げて行く。
「(コリンが無茶するとは思えねえが……結構追い込まれてんじゃねえか?)」
◆
土煙がはれてきて、少しずつ視界が回復する。
其処には先程までとは全く異なった光景が現れた。
緑の草原だった場所に、灰色の鋭く尖った岩が無数に転がっている。
逃げ遅れたウサギが、その先端に貫かれた状態でぶら下がっていた。
「(こんなに威力があったのか……やはり魔法は侮れない……)」
コリンはM4のグリップを握り直す。
岩塊が死角になって、相手の様子が伺えない。
「(よし、行くぞっ)」
コリンは自分自身に喝を入れると、中腰で銃を構え走り出す。
岩塊を回り込むように進んで行くと、再び三人の姿が見える。
先程目が合った女性が、疲弊しているように見える。
「(いけるっ!!)」
コリンは銃撃を開始しながら、彼女たちに近づいて行く。
最初にコリンの接近に気付いたのはダロスだった。
「て、敵だっ!!」
ダロスの叫び声に、二人が反応する。
アデレードが魔道障壁を張り、クリスはファイヤーアローを詠唱する。
三人の前に障壁の魔方陣が現れ、静かに消えて行く。
だがすぐに空間に蜘蛛の巣状の罅が入り、光の粉となって消えて行く。
「あと一枚しかないわっ!!」
「……敵を貫け、ファイヤーアロー」
こちらに向かって駆けてくるコリンに、無数の炎の矢が襲い掛かる。
コリンは予め予想していたかのように、途中で進行方向を変える。
「読まれたっ!?」
クリスの表情に驚愕が浮かぶ。
そのクリスの顔をコリンの照準が捉える。
引き金を引く。
その時、動けない筈のダロスが立ち上がり、クリスの襟首を掴んで後ろに引き倒す。
コリンの銃から発射された銃弾が、最後の魔道障壁を打ち砕く。
ガキン、ガキン、ガシャンッ!!
更に追撃の射撃を行おうとすると、その射線上にダロスが立ち塞がる。
それどころか、そのままコリンに向かって突進してきた。
「ちいっ!!」
バンッ、バンッ、バンッ
銃弾がダロスに命中するが、ダロスは止まらない。
「ぬおおおおおっ!!」
ダロスが憤怒の表情でコリンに迫る。
二人の距離が急激に近づく。
コリンは銃撃を諦め、銃剣による攻撃を選択する。
「ぬあああああああっ!!」
コリンがダロスの首を狙って銃を突き出す。
ダロスはとっさに右手で首を庇う。
其処にコリンの銃剣が突き刺さる。
「ぐああああっ!!」
ダロスは勢いのまま腕を振ると、コリンの体勢が崩れる。
コリンはすぐに銃から手を離すと、ホルスターに手を伸ばしM9を取り出す。
無防備にさらされたダロスの背中に向けてM9の銃弾を浴びせる。
バン、バン、バン、バン!!
「うがああ…‥」
ダロスの巨体が地面に倒れ込む。
コリンはすぐに標的を二人の女たちに移す。
怯えた表情を浮かべながら、アデレードがクリスを背中に庇う。
コリンのM9のフロントサイトがアデレードの顔を捉える。
コリンが引き金を引き絞ろうとした時だった。
「そこまでですっ!! 全員動かないで下さいっ!!」
ユーリの大きな声が響き渡ったのだ。




