第26話 交戦
「今の爆発は何っ?」
コリンとユーリは爆煙の上がる方向を見つめながら自問する。
「手榴弾じゃあそこまでの威力は無いですよね……どっちかっていえば迫撃砲みたいです」
「我々は迫撃砲レベルの火力を持っていない……となれば、相手側が使ったと考えるのが自然だ……」
「アグネス……大丈夫かな……」
その言葉にコリンが頷く。
「アグネスの支援に向かう。最優先はアグネスの救出だ……いいな」
「イエス、マム」
コリンとユーリは爆煙の立ち上る方向へ進んで行く。
◆
二人が進んで行くと、前方に俯せで倒れているアグネスの姿を見つけた。
「アグネスッ!!」
思わずユーリが飛び出していく。
「周囲を確認しろっ!!」
コリンが素早くサポートに入り、周囲を警戒する。
「コリン班長っ!! アグネスがっ!!」
「今行くっ」
コリンは中腰のまま銃を構えて、二人の元に向かう。
「どうした?」
「アグネスが……火傷を……足が……」
「落ち着け……警戒を替われ」
「イエス、マム」
コリンがアグネスの様子を確認する。
幸いヘルメットを被っていたのと、背中に背嚢を背負っていた事で上半身にそれほどのダメージは見受けられない。
しかし、尻から太腿にかけて戦闘服が焦げていて、火傷を負っているのが分かる。
「アグネス、動けるか?」
「……きついっす」
アグネスが顔を顰めながらやっと答える。
「ユーリ、私はアグネスの援護に回る。お前は迂回して横から叩け」
「イエス、マム」
ユーリは返事をして横の草むらに飛び込んでいく。
その後姿を確認してから、コリンは腰に下げたナイフケースからナイフを取り出す。
「ズボンを切る……患部を確認してから次の行動を決める。いいな」
「イエス……マム」
アグネスが答えると、コリンがズボンを切り裂き始める。
「少し魔法を舐めていたようだ……」
コリンは悔し気に唇を噛むのだった。
◆
馬車の後方で警戒していたエレナの元にも、大規模魔法行使の音が聞こえた。
「あれは……多分クリスさんのエクスプロージョン……そんな魔法まで使わないとならないの……」
クリスの魔法の威力を知っているエレナが身震いする。
「そこまでの敵なら、迂回してこっちに来るかも……」
エレナは胸の動悸を感じながら、耳に全神経を集中する。
そして左の方向から微かに草が擦れる音を感じ取る。
「(来たっ!!)」
エレナは手元に置いておいた短弓を掴むと、素早く矢をセットする。
身を隠しながら、音のした方向に短弓を構える。
目を凝らしていると、草むらの中で茶色い何かが時々姿を現す。
「(布っぽいけど……ひょっとして……)」
エレナは短弓で狙いをつける。
再び茶色の何かが姿を現す。
「(今っ!!)」
ビュッ
矢は狙い通りに飛んでいく。
ガツンッ
「きゃあああ!!」
「えっ」
矢は確かに命中した……しかし、まるで固いものにぶつかったように弾かれて飛んでいく。
「(でも、人の声が……)」
エレナは次の矢を構えようとする。
バンッ、バンッ、バンッバンッ
草むらを突き抜けて何かが飛んできた。
突然、エレナは胸に激しい痛みを覚える。
口から鮮血が飛び散る。
「(なに……何が……)」
必死に考えようとするが、視界が歪み、音がワンワンと反響する。
「(……あたし……攻撃されたんだ……)」
薄れゆく意識の中に、全身茶色で白と黒の斑点がある奇妙な服を着た女性が飛び出してきた。
彼女は奇妙な形の魔道杖をこちらに向けている。
「(……ああ…‥これ……だったん……だ)」
エレナの意識はそこで途絶えた。
◆
「はあ、はあ、はあ」
ユーリは肩で息をしている。
いきなりヘルメットに強い衝撃を受けて、思わず何も考えずに反撃してしまったのだ。
そしてユーリの前には、胸から血を流して倒れている若い女性の姿があった。
ユーリは素早く女性の元へ駆け寄ると、銃口の先で女性の身体を突いてみる。
よく見るとまだ胸が微かに上下しているのが見えた。
「ど、どうする……どうしよう……」
ユーリは散乱した女の子の荷物に、畳まれた白い布を見つける。
「(とにかく、止血を……)」
何故だか分からないが、ユーリは目の前の女の子を死なせたくなかった。
それが偽善だとしても、心の底から助けたいと思ってしまったのだ。
ユーリは女の子の服を引き裂くと、傷口に畳まれた布を解いて押し付ける。
「(止まれ……血が止まれば……止まれっ!!)」
ユーリの懸命な止血作業が行われるのだった。
◆
ヴァスケスはソフィアの両腕を背中側に回し、手首を長い結束バンドで拘束した。
倒れているグレンにも同じように手首を拘束する。
「男は置いておく……運べないからな……」
ヴァスケスがそう言うが、ソフィアは彼女の言葉を理解できない。
ただ、此処で下手に反抗しても、あの魔道具で攻撃されるであろう事は理解できた。
ヴァスケスはソフィアの襟首を掴むと、先を歩かせる。
ソフィアは何度もグレンの方を振り返るが、グレンは出血が激しかったせいか、今は地面に横たわったままだった。
「そんなに振り返るな……お前が治療したんだろ……」
ヴァスケスは少し強引に歩かせる。
「(しかし……捕虜は獲らない、獲られない……だったんだがな……)」
ヴァスケスは心の中で悪態を吐くと、かすかに見える馬車の方向に向かうのだった。
◆
アグネスの応急処置をしながら、コリンは別な事を考えていた。
「(何故、追撃が無い……あれほどの威力を持つ火力があるなら、いつ此処に撃ち込まれてもおかしくないはずだ)」
その時不意にユーリの言葉がコリンの脳裏に浮かぶ。
それはまだ訓練所にいる頃のユーリが、携帯ゲームで遊びながら文句を言っていた言葉。
『このキャラ、強火力持ちなのに魔力が少ないから、いつも敵に逃げられちゃうんですよぉ』
「(……魔力……この世界の魔法が魔力を源にしているのなら……でかい攻撃は難しいのかっ!?)」
草むら越しに、馬車の屋根が見える。
あの辺りに魔法使いの女がいる筈だ。
コリンは決断を下す。
「アグネス。お前は此処に隠れていろ……必ず迎えに来る……信じて待っていろ」
「……イエス、マム」
アグネスがそう言って大きく頷く。
コリンは背負っていた背嚢をアグネスに預ける。
ヘルメットにボディアーマー、そしてM4を持つだけの身軽な装備になる。
「(バリアは数で破る事が可能だ……でかい攻撃が無ければ、勝機はある)」
コリンはM4のセレクタを切り替える。
「(まずはユーリの後を追う……合流できれば……)」
コリンの口角が鋭く上がるのだった。




