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第25話 戦士と兵士

 その女は突然目の前に現れた。


 双剣の使い手らしく、見た事も無い形の短剣を構えながら、こちらに向かってきた。



『ちいっ!!』



 素早く炎の魔剣を正眼に構える。


 一気に二人の間合いがつまる。



『こいっ!!』



 グレンは正眼から刺突の構えに変更すると、ヴァスケスに向けて魔剣を突き出す。



 ガキンッ



 ヴァスケスは左手で剣を払うと、右手をフックのようにしてグレンの首を狙う。



『ぬうっ!!』



 グレンは上半身を仰け反らせてヴァスケスの攻撃をかわす。


 そして再度刺突の体勢になると、隙のできたヴァスケスの脇腹を目がけて剣を突き出す。


 しかし、ヴァスケスは予めその動きを予想していたかのようにその場で半回転して、左手で剣を受け止める。



 ガキンッ



 今度はヴァスケスが裏拳の動きで、グレンの頭を狙う。


 グレンはたまらず、前方に回転しながら飛び込む。



「へえ……良い動きしてんじゃねえか……」



 ヴァスケスは両手をクロスさせて、グレンを見据える。



『ちょこまかと……アサシンか、こいつは』



 残念ながら、グレンの言葉をヴァスケスは理解できない。



『出し惜しみをできる相手じゃないな……』



 グレンは小さく詠唱すると、真っ赤な魔剣が炎を纏う。



 ボウッ



 熱気を孕んだ空気が周囲を覆う。



「何だそれは……ファンタジーだな」


『何を言っているか分からんが……本気で行く』



 グレンは予備動作無しでヴァスケスに斬りかかる。



「上等っ!!」



 クロスさせたナイフで、グレンの剣を受け止める。


 炎を纏った切っ先がヴァスケスの眼前に迫る。



「うぜえんだよっ!!」



 ヴァスケスの前蹴りがグレンの腹に突き刺さる。



『ぐあっ』



 グレンの体勢が崩れ、鍔迫り合いが中断される。


 ヴァスケスは油断なく、右手を顔の横に、左手を前方に突き出して構える。


 グレンも呼吸を整えながら、切っ先をバスケスに向る。



「なるほどね……この世界の戦士はこんな感じなのか?」


『……何をブツブツ言っている……』


「真っすぐなんだな……嫌いじゃねえよ……だがな……卑怯とか言うなよ?」



 そう言ってヴァスケスは右手のナイフをシースケースに戻す。


 そして右の腰に下げたホルスターから愛銃のM1911A1を取り出す。



「お前さんの実力は分かった……だからオレの魔道具も味わってくれよ」



 ヴァスケスはそう言ってガバのハンマーを引き起こした。



『……?』


「アンタは強い……でもオレの方が狡猾なのさ」



 ヴァスケスの銃口がグレンを捉える。


 引き金を引く。



 バンッ



 グレンの身体がグラッと動き、その場に崩れ落ちる。



『グレンッ!!』



 突然、女性の声が響き、白く輝く光の矢がヴァスケスに襲い掛かる。



「ちっ!!」



 慌てて飛び退くと、今まで自分がいた場所の地面が弾ける。



 ドバンッ、ドバンッ、ドバンッ!!



「魔法ってやつかっ……どうなってんだ」



 ヴァスケスは横方向に飛び込む。


 その隙に教会のシスターのような格好をした女性がグレンに近づく。



『グレンッ、グレンしっかりしてっ!!』


『ソ、ソフィア……逃げろ……あいつの魔道具は危険だっ』



 グレンは肩口を押さえながらソフィアに語り掛ける。


 しかし、ソフィアは首を横に振る。


 そしてグレンの傷口に手を翳して、素早く詠唱を始めると、グレンの身体が淡い緑色に輝く。


 グレンの傷口が少しずつ塞がっていく。



『……ソフィア……逃げろ……』



 それでもソフィアは治療魔法を止めない。


 暫くするとグレンの傷が塞がる。


 ソフィアが安堵の息を漏らす。


 が、その表情が凍り付く。



「盛り上がっているところ悪いが……チェックメイトだ」



 いつの間にかヴァスケスがソフィアの後ろに立っていて、その頭に銃口を押し付けている。



「こいつの威力は理解したよな……」



 言葉の意味は分からないが、グレンとソフィアはこの瞬間、この女に負けたことを悟った。


 ◆


 アグネスの前方にはガタイの良い大男が、巨大な盾を構えて待ち構えていた。



『お主が手配書の女か……ふん、似ておらんな』



 アグネスは無言でM7を構える。



『それが噂の魔道杖か……その力、俺に見せて見ろっ!!』



 ダロスが大声で叫ぶ。


 その瞬間、アグネスが引き金を引く。



 バンッ、バンッ、バンッ


 ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ



 ダロスが盾に身を隠すのと着弾がほぼ同時だった。



『ぬおっ……盾の硬化バフが一気に削られるっ!!』



 ダロスはすぐさま追加のバフを盾に付与する。



『奴らの魔道具は、ストーンゴーレムよりも強いというのかっ!!』



 一方のアグネスは、M7でも粉砕できない盾の存在に驚いていた。



「(.277で抜けないのかっ!?)」



 しかし、すぐに考え直す。



「(じゃあ、フルオートで……)」



 アグネスは銃のセレクタをフルオートにする。



「これでどうだっ!!」



 ババババババババッ


 ガキガキガキガキガキガキガキガキンッ!!



 今度は盾の破片が吹き飛ぶ。



「ぐあああっ!!」



 ダロスが思わず悲鳴を上げる。



「ダロスッ!! 動かないでっ!!」



 その声に気付いたクリスが杖を構えたまま駆け寄ってくる。


 よく見ると唇が素早く動き、何かを唱えているのが分かる。


 アグネスの全身の毛が逆立つ。



 バチバチバチッ



 自分の周りの地面から、銀色に輝く小さな稲妻が無数に沸き上がるのが見える。



「これ絶対にヤバい奴っ!!」



 アグネスがクリスに背中を向けて逃げ出す。



「……燃えさかれ!!……エクスプロージョンッ!!」



 詠唱が完成する。



 ドッガーンッ!!



「ぎゃあああああっ!!」



 アグネスが強烈な爆風に吹き飛ばされる。


 見ればアグネスがいた場所には、巨大な穴が開いていて、一部は高温でガラス状に変化していた。



「ダロスッ、しっかりしてっ!!」



 クリスがダロスに駆け寄ると、その後ろからアデレードも駆け寄り、素早く魔道障壁を展開する。



「クリス、今のうちにマナポーションを飲んでっ!!」



 アデレードに言われて、クリスがハッとする。


 そしてポーチの中から緑色の液体の入った小瓶を取り出す。



「これを飲む羽目になるとは……」



 そう言ってクリスは緑色の液体を飲み干すのだった。



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