第24話 魔道の頂、動く
草原の中を『魔道の頂』のメンバーをのせた馬車が進んで行く。
馬車の中では何故かクリスが苦い顔をしている。
「(何だろう……この漠然とした不安は……よく考えるんだ……あの魔道具は何だったんだ?)」
空中に浮遊していた魔道具……しかもかなり離れた距離にいた。
「(我々を攻撃するつもりではないかのか……なら……そうか、物見かっ!?)」
クリスがハッと顔を上げる。
「馬車を停めろっ!!」
クリスの声に御者が反応し、馬車が止まる。
「何だよクリス。いきなり」
サブリーダーのグレンが問いかける。
「このまま進むのは拙いっ!! 挟撃されるぞっ!!」
「なにっ? どういう事だっ」
「さっきの魔道具は物見の魔道具、あるいは遠見の魔道具に違いない」
クリスの言葉にメンバーたちの表情に緊張が走る。
「幸い、あの時に外に出たのはあたしと、アデレード、そしてエリカだけ……アンタ達はまだ見られていない」
「それがどうかしたか?」
「向こうが大人しくあたし達を待っていると思う? あたしだったら待ち伏せか、挟撃するわ」
「確かに……」
ダロスが大きく頷く。
「だからこちらからも仕掛ける……グレンとソフィアは右から回り込んで。ダロスはあたし達の盾役に、エリカは背後と側面の警戒を」
「ダロス、グレンとソフィアにバフを掛けてあげて……グレン、あまり無茶しないでね」
「大丈夫だよ。ソフィアもいるしな」
「あたしとアデレードは此処であいつらの火力を確かめる……魔道障壁であいつらの礫攻撃を防げるか試すわ」
「お前が一番無茶してんじゃねえか?」
「その位しないと……あの判断の速さ……相当に手練れだと思うわ」
クリスはそう言って全員の顔を見る。
「『魔道の頂』の名に恥じぬよう……行動開始よ」
「「「「「おうっ」」」」」
魔道の頂のメンバーが身を隠しながら馬車から降車する。
「まずはアンタ達の実力を見せてもらいましょうか?」
クリスの顔に、挑戦的な笑みが浮かぶのだった。
◆
同時刻、馬車から約五百メートル離れた場所にユーリ達は居た。
双眼鏡を覗いていたコリンが舌打ちをする。
「ちっ……馬車が止まった……こっちを警戒しているのか」
「どうする?」
「警戒されていてもやる事は同じだ……ヴァスケスは左から、アグネスは右から回り込め」
「「イエス、マム」」
「あたしとユーリは正面から敵を引き付ける……状況に応じて、左右のどちらかに合流する」
「イエス、マム」
「いいか。今回の敵は賢いぞ……気を抜くな……GO」
ヴァスケスとアグネスが左右に分かれて草むらの中に姿を消す。
「ユーリ、有視界で狙えると思ったら撃って良いぞ」
「イエス、マム」
ユーリとコリンは中腰でM4を構えると、正面の馬車に向かって進んで行く。
◆
『魔道の頂』の最大の特徴は攻撃型の魔導士が二人存在する事だ。
「アデレード……今回は防御に徹してくれる?」
「それは構わないけど……」
「まずは魔法障壁を三枚重ねて掛けて……それでも足らないかもだけど」
「そんなに……わかったわ」
アデレードが杖を持って詠唱を始める。
杖の先の空間に魔方陣が現れ、光ってから解けるように消えて行く。
同じことを三度してから、アデレードは小さくため息を吐く。
「ミノタウロスの時だって此処までしなかったわよ?」
「用心のし過ぎは無駄じゃないわ……さあ、お手並み拝見と行くわよ」
そう言ってクリスは堂々とした姿勢で立ち上がる。
「何処からか見ているんでしょ? 掛かってきなさいっ!!」
クリスが草原に向かって吠える。
バキンッ
次の瞬間、クリスの前方の空間が、白く蜘蛛の巣状に輝く。
「(一撃で……此処まで)」
バキンッ、バキンッ、ガシャッ
「(一枚目の魔道障壁が壊されたっ……)」
クリスの顔が驚愕に歪む。
「クリスッ!!」
アデレードが追加で魔道障壁を展開する。
「凄い威力だわ……障壁一枚で三回しか耐えられない……」
クリスが前方を見据える。
「上等じゃない……早く姿を見せなさいよ……」
◆
「……なんだ、アレは……」
コリンは双眼鏡を覗きながら、視界の中で起きた現象に驚愕していた。
「バリアみたいなものですかね……ライフル弾三発位までは耐えるみたいでしたけど」
「……本当に異世界に来ているんだな、我々は……」
コリンは独り言を吐くとユーリに指示を出す。
「もう一度、狙え。牽制にもなるしな」
「イエス、マム」
ユーリはそう答えて、再び照準を前方の魔法使いに合わせる。
バン、バン、バンッ
単発で素早く三発の銃弾を撃ち込む。
双眼鏡で覗いていたコリンが唸る。
「同じだ……あいつら、アレをどの位展開できるんだか……」
「どうしますか?」
ユーリが銃を構えたままコリンに尋ねる。
「アグネスに合流しよう。ヴァスケスならほっといても、この状況でも何とかしそうだからな」
「鉄火場に強そうですもんね?」
「強そうじゃない……強いんだ……行くぞ」
コリンとユーリは右方向へ行ったアグネスの後を追いかけるのだった。
◆
一方、左側を進むヴァスケス。
その前方に若い男が姿を現す。
金属製の鎧を上半身に纏い、小手と脛当てを装着している。
特徴的なのはその手に握られている、真っ赤な長剣だった。
「(本当にファンタジーの世界だぜ……赤いって事は炎でも噴き出すのか?)」
ヴァスケスは左の腰に下げているコンバットナイフを引き抜く。
そして普段は使わないもう一本のコンバットナイフを、背中のケースから引き抜く。
二本のコンバットナイフを構えたヴァスケスが、男を見据えて嗤う。
「こっちの戦士様がどれ程のものか……見せてもらおうか……」
ヴァスケスは男に向かって駆けだすのだった。




