第22話 洗濯日和
次の日。
ギルドマスターの部屋には『魔道の頂』の五人のメンバーが揃っていた。
リーダーの魔導士、クリス。
サブリーダーの魔法剣士、グレン。
この二人がソファに座り、その後ろに、もう一人の魔導士の女性、僧侶の女性、そして盾役兼バッファーの男性の三人が立っている。
机を挟んだ向かい側でギルドマスターのゴライアスが相対している。
「以上が、昨日騎士団から入手した情報だ……騎士団もそれ以上の情報は得られていないようだ……」
ゴライアスは昨日のアビゲイルとの話で得た情報を全て『魔道の頂』のメンバーに話した。
クリスは昨日と同じように、深くソファの背もたれに背中を預けている。
「なるほど……その魔道杖とやらが彼女たちの主たる武器なのね」
「しかし礫が見えないほどの速度となると……厄介だな」
グレンはそう言って、後ろの魔導士を見る。
「そうね……魔道結界でどの位防げるかが分かるとありがたいんだけど」
魔導士の女性がそう言うと、僧侶の女性も口を開く。
「爆轟の魔道具も厄介ですわ……そんな魔道具、聞いた事もありませんもの」
「防御を固めないとまずそうな相手だな……厄介だ」
クリスはメンバーたちの意見を聞いてから、全員に尋ねる。
「まあ、予想はしていたけど、あまり情報は集まらなかったわね……で、どうする? やる?」
クリスの問いかけに全員が大きく頷く。
「ぜひとも戦って、魔道具の秘密を解き明かしたいわ」
「そうですわね。情報不足は相手も同じでしょうし」
男性二人は言葉の代わりに、二人で拳をぶつけ合っている。
「ギルドマスター。この依頼、お受けしますわ」
「……すまない……もう少し情報が集まるかと思ったんだが……」
「それで、彼女たちの居場所については心当たりがありまして?」
「ああ、此処からだと随分西の方へ移動したようだ……あっちには街道が無いんでな。身を隠すにはちょうど良い地域だ」
「斥候を臨時で加えた方が良さそうね……ギルドで紹介して頂けるのかしら?」
「エリカを出そう……Bランク冒険者だが、腕は確かだ」
その言葉を聞いて、クリスが口角を上げる。
「勿論、エリカさんのお手当はギルド持ちですわよね?」
「う、うぐ……仕方ない……エリカの分はギルドが持とう」
クリスは満足そうに頷くとソファから立ち上がる。
「では、用意ができ次第、出発しますわ」
「頼んだぞ」
ギルドマスターも立ち上がり、クリス達が部屋から出て行くのを見送る。
すると、一番最後を歩いていたクリスが不意に止まって、振り返った。
「ギルドマスター……」
「……な、なんだ?」
「途中までの馬車も用意してくださいね」
そう言って、クリスは今度こそ部屋から出て行く。
部屋の中には頭を抱えたゴライアスだけが残った。
◆
一方、宿営地のユーリ達。
ユーリとアグネスは、水場として使用している小川までやって来ていた。
肩からオリーブグリーンのドラムバッグを下げている。
中には全員の洗濯物が入っている。
「はう……この作業が一番しんどいね」
ユーリがそう言うと、アグネスが笑いながら答える。
「そう? あたしは好きだけどね、洗濯」
「えー、だって手洗いだよ? 洗濯機も無いし、コインランドリーも無いんだよ? この世界おかしいよ?」
「おかしいのはユーリの考えだって……それに洗濯って言っても水洗いだけじゃん。楽なもんでしょ」
「うー」
「ほらほら、文句を言わずにまずは洗い場を作ろうぜ」
アグネスはそう言って、小川の中に大きな石を投げ込む。
洗濯ものが流れて行かない様に石を重ねて堰を作る。
潮だまりのようになった場所に洗濯物を一気にぶち込むと、二人はブーツを脱いで裸足になる。
「そーれ、足踏み洗いだぜっ!!」
「うー、冷たいよー」
アグネスははしゃぎながら、ユーリは肩を震わせながら洗濯物を踏み洗いする。
「アグネスは慣れてるね」
「ああ、ウチの実家は貧乏だったからね。洗濯はもっぱら川に持って行っていた」
「へえ……アグネスの実家ってポリネシアだっけ」
「そうだよ。兄弟のチビどもを連れて、これと同じ事してた」
「うー、想像つかない……あたしなんて、全部洗濯機に任せてたなぁ」
「ああ、確かに。あたしも会社入ってから、考え方変わったよ」
「相変わらず、給料は仕送りしてんの?」
「そうなんだけどさ……こっちに来ちゃったろ? 給料、まともに出てんのかな?」
「出てるんじゃない? っていうか出てないと困るよ」
そんな馬鹿話をしながら、暫く踏み洗いをした後、綺麗に濯いでから絞る。
それはもう二人で協力して絞り上げる。
大まかに皺取りをしてから、ドラムバッグに放り込む。
「早く戻って乾かさないと……前みたいに生乾きを着る羽目になるよ」
「そうだな……さっさと戻るか」
ユーリとアグネスはつかの間の平和の時間を、洗濯に費やすのだった。




