第21話 敵を知る者
その日の夜。
ギルドマスターのゴライアスは、非公式に辺境伯騎士団の本部を訪れていた。
応接室に案内されたゴライアスは、静かに訪問の相手を待つ。
「(……アビゲイルがどこまで情報を公開してくれるか……)」
ゴライアスが少し不安を抱き始めた時、扉がノックされ、騎士団長アビゲイルが姿を現した。
「待たせたかな?」
「いや。突然の来訪を陳謝する……」
「頭を上げたまえ……大体の事情は推測できている。こちらこそ、我が領主が迷惑をかけている……」
アビゲイルは意外にも穏やかな態度でゴライアスに答えた。
そして二人はソファに腰を下ろす。
アビゲイルが先に口を開く。
「で、聞きたい事とは?」
「あいつらの戦い方……そして、魔道具について……知っている事を教えて欲しい」
アビゲイルはじっとゴライアスの目を見つめる。
「ふむ……我々から奴らの情報が欲しいと……」
「……そうだ……都合の良い事を言っている自覚はある……しかし、どうしても教えて欲しい」
そう言ってゴライアスはアビゲイルに頭を下げる。
「ウチのBランク冒険者パーティが壊滅した……話によれば敵の姿を見る前に戦闘不能になったらしい」
「……」
アビゲイルは顎に手をやり思案する。
「そうか……Bランク冒険者でもか……まあ、想定の範囲内ではあるが……」
「ああ……それで今度はAランクのパーティが出張る予定なんだが……事前に奴らの情報が欲しいと言っていてな……」
「それはまっとうな要求だな……尤も、その情報は我々も欲する所なのだが」
そう言ってアビゲイルは姿勢を正す。
「良かろう。我々も冒険者ギルドと対立したい訳では無い。ただし、我々の知る情報も少ない……それで良いか?」
「助かる……頼む。教えてくれ……」
ゴライアスが深く頭を下げると、アビゲイルがポケットから畳まれたハンカチを取り出す。
それをテーブルの上で広げると、中にはキノコ状に変形した小さな金属片が現れる。
「これが奴らが使う、『魔道杖』から放たれる礫の正体だ……どのように飛ばすのかは不明だが、目にも見えぬ速度でこの礫が襲い掛かってくる」
「こ、こんな小さなものが……か?」
「そうだ……こんな物でも我々の金属鎧を簡単に貫くのだ」
「……」
ゴライアスが言葉を失う。
「奴らは魔道杖以外にも、爆轟の魔道具を使う……こちらは魔道具自体が破裂するようで、威力はこの礫とは比較にならぬ」
「それほどの破壊力があるのか……」
「ああ、それで軍馬が数頭やられてしまった……」
アビゲイルが悔しそうに唇を噛む。
「我々も持っている情報はその位なのだ……底知れぬ恐ろしさを持った集団よ」
「ううむ……」
ゴライアスが椅子の背に体を預ける。
「我々の情報は教えた……ギルドが知っている情報は?」
「奴らは強い……この間も銀尾狼の群れを殲滅してきたし……その前には巨大なイノシシを仕留めてきた……今考えれば、この魔道杖が使われたのだろうな」
ゴライアスの言葉にアビゲイルが頷く。
「実力的にはAランク冒険者パーティと同等といった所か……厄介だな」
「ああ……」
ゴライアスは思わず愚痴を零す。
「アンソニーが馬鹿な事をしでかしたおかげで……こんな厄介な事になった」
「……聞かなかった事にしてやる……」
アビゲイルが苦笑する。
「貴重な時間をすまなかった……情報提供を感謝する」
「構わんよ……これからは定期的に情報を交換したいものだな……」
「……定期的……騎士団長は今回の一件が長引くとお考えか?」
「早く解決できることに越した事はないがね」
そして二人の会談は終わった。
◆
ユーリ達の新しい宿営地。
即席の竈でユーリがウサギ肉のシチューを作っていた。
「しっかし、この辺りは角の生えたウサギが一杯いたなー」
ユーリは鍋を掻きまわしながら独り言を言う。
最近のローテーションで、炊事はユーリの仕事になっていた。
其処にコリンが近づいてきた。
「あ、班長……何か?」
「いや……良い匂いがすると思ってな……ユーリは料理が上手だな」
「父親と二人暮らしだったんで……尤もほとんど一人暮らしでしたけど」
「理由を聞いても?」
「あ、大した理由ではないです。ウチの父親は売れない戦場カメラマンで……数か月単位で戦場に行っちゃうんですよ……その間はずっと一人なんで」
コリンは複雑な表情でユーリを見つめる。
「……お前も苦労しているんだな……」
「幸い、学校の友達に恵まれたんで……その辺は友達に感謝ですね」
鍋の下で薪がパチッと爆ぜる。
「お前、日本で暮らしていたんだろう? 何でうちの会社に入社したんだ?」
「そうですね……まあ、隠している訳でも無いんですけど……父親がアフガニスタンで行方不明になりまして……」
「えっ……」
「探しに行こうと考えたんですけど……一般人では入国も難しくて……まして女が一人でなんて」
「まあ、確かに難しい国だからな……」
「で、色々調べていたら、ウチの会社が結構、中東とか東アジアで活動しているのを知って……入社すれば、現地に行けるチャンスがあるかなって」
その答えを聞いて、コリンの顔が引きつる。
「おまえ……そんな理由でうちの会社に入社したのか?」
「はい。何も行動しないより、できる事をやってみようと思って……でも、こんなにきつい仕事だとは思いませんでした」
そう言ってユーリは明るく笑ってからコリンに尋ねる。
「……おかしいですかね?」
「ああ、おかしい……でも、ユーリらしいな」
コリンはそう言ってユーリの頭を軽く叩く。
「じゃあ、お父さんを探すまで、くたばる訳にはいかないな」
「はい」
ユーリが返事をしたところに、アグネスが戻ってくる。
「結構、料理の匂いが届いてくるぞ?」
「え、まじ? もう少し香りを抑えた調理方法にしないとですね」
「いや、それより早く食った方が匂いが消えるぞ?」
「アグネスは食いしん坊だね……」
コリンはユーリとアグネスがじゃれ合うのを見て、アグネスに声を掛ける。
「ヴァスケスを呼んで来い……飯にしよう」
「イエス、マム」
アグネスはそう答えて草むらに姿を消すのだった。




