第20話 『魔道の頂』
冒険者ギルド。
『草原の風』の生き残りメンバーの残した情報と言葉が重く、冒険者たちの心にのしかかる。
ギルドマスターが明確に隠蔽を否定しなかった事も、一部の冒険者たちの離反を招いた。
「……くそっ……領主の野郎……つまらない小細工をしやがって……いや、黙認した俺も同罪か……」
ギルドマスターは自室で先程の出来事を振り返る。
「しかし、あの女達がそれほどの実力者だったとは……見誤ったな……」
そう言って、お気に入りの紅茶を口に含むが、いつもの様な豊潤さが感じられず、ただ単に渋い味しか感じられなかった。
そんな時に、不意にドアがノックされる。
「……何だ……手配書についての苦情なら、お前たちに任せた筈だぞ?」
「い、いえ……ギルドマスターに面会を求めて、Aクラスパーティの『魔道の頂』のメンバーが来ています……如何いたしますか?」
「『魔道の頂』だと……分かった。此処に呼んでくれ」
「承知いたしました」
そう言ってマリアの足音が遠ざかる。
ギルドマスターはソファから立ち上がると、『魔道の頂』のメンバーを待つのだった。
◆
「ギルドマスター、何だか下が騒がしいけど?」
魔道の頂の女性リーダー、クリスが入室してくるなりギルドマスターに問いかける。
「……まあな。隠すつもりはねえ……ちょいとばかり領主の依頼で問題が発生した」
「へえ、どんな? 参考までに聞かせてよ」
クリスはそう言うと、許可も得ずにソファに座ると、背もたれに上半身を預ける。
長い足を見せつけるように、わざとらしく脚を組む。
ギルドマスターは肩を竦めてから、クリスの向かい側に腰を下ろす。
「アンソニーと揉めた連中がいてな……領主がそいつらに謝罪を求めた」
その言葉を聞いただけで、クリスの眉間に皺が寄る。
「そいつらと騎士団がぶつかって、騎士団が負けた……なんでも、今までに見た事もない魔道具を使うらしい」
「騎士団が負けた? そいつらは何人なの?」
「……四人だ」
「へえ……中々興味深い話ね……それで?」
「領主が痺れを切らして、手配書を発行したんだが……手配書にそいつらの情報……というか強さについて一切記載が無かった」
「まあ、良くある話よね……それでどこぞの冒険者たちが返り討ちにあった……って感じかしら?」
「そうだ……しかも生き残りがギルドを断罪するおまけ付きでな……」
クリスはそこまで話を聞くと、長い髪をかき上げる。
「そいつらの詳細は分からないのかしら?」
「ああ……騎士団が負け戦の情報を出すとは思えんし、『草原の風』の生き残りもギルドには協力しないだろう」
「ふうん……」
クリスはそう言って、足を組み替える。
「『草原の風』って、結構バランスの良いパーティだったはずよね……ちなみに生き残ったのは誰?」
「斥候職の男だ……奴も結構な怪我を負っていた……奴らに治療してもらったそうだ」
「あらまあ……プライドがズタズタね……」
「……」
ギルドマスターはクリスの目を見つめる。
「そんな話をしに来たのか?」
「……いいえ。その依頼、あたし達が受けても良いわよって言いに来たの」
クリスもギルドマスターの目を見つめる。
「あたし達『魔道の頂』は、その名の通り魔導士を中心としたパーティよ。そいつらが使う魔道具にとても興味がある」
「……」
「それに魔道を使う者として、どれだけの実力者なのか……戦ってみたいわ」
「戦闘狂め……」
「悪い話じゃないでしょ……但し、あたし達も無策で事に当たりたくないわ……可能な限り情報を出して……」
「……分かった……善処する」
「そうね……明日もう一度此処に来るわ……その時に聞かせてくれた情報で判断する……で良いかしら?」
ギルドマスターは目を細める。
「良かろう……情報を収集しておく」
「ありがと」
そう言ってクリスがソファから立ち上がる。
「メンバー達には、あたしから話をしておくわ……では、失礼」
そう言ってクリスは、ギルドマスターの部屋から出て行く。
残されたギルドマスターは、テーブルの上の冷え切った紅茶を一気に飲み干す。
今度は何故か、少しだけ芳醇な味を感じる事が出来た。
◆
「コリン班長、この辺なんかどうですかね?」
ユーリがドローンのモニターを見ながら、次の宿営地候補を見つけている。
「水場は近いのか?」
「はい。近くに小川が流れています……背後に森を背負う感じで陣を張れば、灌木が障害物になって見通せないと思います」
ユーリの説明に、コリンがモニターを覗き込む。
「ふむ……確かにな……しかし、ストライカーから離れるな……」
「それは仕方ねえんじゃねえか?」
いつの間にかヴァスケスが二人の後ろに立っていて、ユーリとコリンの会話に加わる。
「向こうは不特定多数で襲い掛かってくるんだろ? 退路を確保できる方が良いぜ」
ヴァスケスの意見にコリンが頷く。
「ユーリ、その周囲に冒険者の姿は確認できるか?」
「今のところ見当たりません……」
「となると、面倒なのは魔獣の類か……こればかりは警戒していても襲い掛かってくるからな……」
「いいんじゃねえか? 食材が向こうからくると思えば」
ヴァスケスの言葉に二人が苦笑する。
「そうだな。此処で思案して時間を使うより、現地に行く方が良い……ユーリ、案内は任せる」
「イエス、マム」
「アグネス、バギーの用意はいいか?」
「はい、いつでもオッケーですっ」
「よし、次の宿営地に移動する。全員乗車」
「「「イエス、マム」」」
コリンの命令に、三人が一斉に駆けだす。
草原にバギーの排気音が響くのだった。




