第19話 生還者
「少し甘くねえか……?」
ヴァスケスが小さな声でコリンに尋ねる。
「冒険者を生かして帰す事が……か?」
「……それに、ユーリにも甘すぎだ……此処は一度殲滅戦を経験させるべきだったんじゃねえか?」
「……」
コリンは黙ってヴァスケスの顔を見る。
「今回に関しては、生き残りを帰らせる事を選んで正解だと思っている」
「……」
ヴァスケスが不服そうな表情を浮かべる。
「そんな顔をするな……少しは頭を使え……此処で殲滅する事と生き残りを帰らせる事の違いを考えろ」
「……分かんねえし、考えたくもねえ」
「……ヴァスケス……」
コリンは少し呆れた様に苦笑する。
「例えば、此処で冒険者たちを殲滅する……するとギルドの連中はどう考える?」
「さあね……危険な奴らだと思うんじゃねえか?」
「そうだ……危険な奴らだ……だからギルド全体が敵になる」
「今の状況と変わらねえだろ?」
「そうだ……状況は変わらない……しかも領主の企み通り事が進む」
そこまで言って、コリンは水筒の栓を捻ると、そのまま口に運ぶ。
一口水を口にすると、再び口を開く。
「生かして帰せば、奴は此処での出来事をギルドや仲間に話す……わたし達が危険な奴らであり、かつドラゴン並みに厄介な奴らだと……」
ヴァスケスも腰の水筒の栓を回し、直接口に水を流し込む。
「さらに、領主が隠していた事実が広まる……騎士団を二度にわたって撃退した……という事がな」
そこまで言われて、ヴァスケスも納得する。
「しかも手当てをしたのは、当たりの柔らかいユーリだ……」
「お前、あの一瞬でそんな事を考えたのかよ?」
「違う……常日頃からこんな事をシミュレーションしているんだ……どんな状況になってもクレバーでいられるようにな」
そう言ってコリンは水筒をしまう。
「ヴァスケス……お前は良い班長だ……でも、優秀な指揮官になるにはまだまだ足りない」
「けっ、お説教かよ」
「違う……友として言ってるんだ……生き残って欲しいからな」
そこまで言うと、コリンは立ち上がり、ユーリとアグネスに声を掛ける。
「此処は敵に知れてしまった。新たな宿営地を探すぞ」
「「イエス、マム」」
少し離れた所から二人の声が重なって聞こえた。
◆
冒険者ギルド
朝一番で貼られた新規の手配書。
事情を知らない幾つかの冒険者たちが、さっそく依頼を受けて討伐、もしくは捕縛に向かった。
『草原の風』と名乗る冒険者たちもその一つだった。
防御を得意とするリーダーの元、剣士、魔法使い、そして斥候とバランスの取れたチームであり、その機動性が評価されたチームでもあった。
そのチームの斥候が今、ボロボロな姿でギルドに姿を現した。
その姿に驚いた冒険者たちが道を開ける中、斥候の男はカウンターに近づく。
「あ、あなたは……草原の風の……」
受付のマリアがそう言いかけると、斥候の男が大声で叫ぶ。
「ギルドマスターを呼べっ!! 話があるっ!!」
その鬼気迫る態度に気圧されたマリアは、すぐにギルドマスターを呼びに行くのだった。
◆
「草原の風……か。俺に話があるそうだな?」
ギルドマスターが姿を現し、斥候の男に問いかける。
「ああ、今朝貼られた手配書についての報告と……ギルドの方針について確認したい」
斥候の男はギルドマスターを睨みながら、そう言い切る。
「……なら、俺の部屋に来い……」
「駄目だっ……この話は此処にいる全員に聞いてもらいたい……」
ギルドマスターが斥候の男を見つめる。
「……よかろう……まずは報告から聞こうか」
そう言うと、斥候の男は胸元から、仲間だった者たちのギルドカードを三枚取り出し、カウンターの上に叩きつける。
「草原の風は……俺以外全員……死亡した……」
絞り出すような声で斥候の男が言葉を発する。
「あの手配書の連中を見つける途中、返り討ちにあった……」
「……お前達ほどのチームが……か」
ギルドマスターも驚きを隠せない。
「……俺達のチームは依頼を失敗した……これが報告だ」
「そうか……」
「そしてっ!! 確認したい事があるっ!!」
斥候の男は、手配書が貼られた壁を指さす。
「あの手配書には重大な事が書かれていないっ!! それはギルドが隠蔽したのか、それとも領主の命令なのか、はっきりさせたいっ!!」
「な、何を言い出すっ」
「奴らは強かった……とてつもなく強かったっ!! それは仕方のない事だ……しかし、情報が最初から隠蔽されていたとなると話は違うぞっ!!」
「な、何の事だっ!?」
ギルドマスターが落ち着かせるように尋ねるが、斥候の男は更に激高する。
「あいつらが騎士団を撃破したという情報は書かれていないぞっ!!」
その言葉に、ギルド内の冒険者たちに動揺が走る。
「な、何の事だっ」
「しらばくれるなっ!! おい、騎士団を撃破できるだけの実力があるなら、最初から情報を提供しろよっ!!」
ギルドマスターは思わず言葉に詰まる。
「騎士団って事は領主の手駒だろうが……あの手配書も領主から出ているもんだろう……そんな大事な事を何故最初に公開しない……」
「……」
斥候の男がギルドマスターを指さす。
「ギルドマスター、てめえもグルでおれ達を謀ったのかよっ!?」
その言葉に、ギルド内に静寂がおとずれる。
ギルドマスターも黙ったままだった。
その姿を見て、斥候の男が呟く。
「やり方が汚ねえぜ……」
その言葉は、他の冒険者たちの胸の中にも沁み込む言葉だった。




